第13話 幼きあの日、幼馴染との記憶

 眠りについたいばらは夢を見ていた。

 それは幼い頃の出来事、真との思い出の夢を。



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 当時、真(七歳)といばら(七歳)の二人は、いばらの父であり『月影』のトップである忍田黒仁の書庫で本を読んでいた。


 この頃の真はまだ幼かったゆえに、親戚である黒仁の家に住んでいた。


 そして二人が本を読んでいる黒仁の書庫は、黒仁の趣味や仕事の関係から大量の本が収納されておりかなり広い部屋になっている。


「ねえ、真くん」


 そんな部屋で文字ばかりの本に飽きたいばらは真の体をゆする。


「どうかしたか、いばら?」


 そして体を揺らされたた真は、英語で書かれた推理小説から目を上げいばらに目を向ける。


「もう本読むの飽きたよぉ」


「そう言ってもな、まだ叔父さんも叔母さんも帰ってこないぞ」


 現在、黒仁といばらの母は二人を家に残し買い物に出かけている。


 本来であれば子供だけを家に残して長時間買い物に行くのは褒められたことでは無いだろう。

 だがその理由は今日がいばらの誕生日だからであり、サプライズでプレゼントを渡すために買い物に行っている。


 それに加えて真は黒仁やいばら母から信頼されており、「真(くん)が居れば大丈夫だろう」と言われている。


「そうなの?それなら探索しようよ!」


「探索?って言ってもここいばらの家だろ。探索するとこなんてあるのか?」


 真が当然のことを聞くと、いばらは真の腕を引っ張り書庫にある一つの本棚の前まで移動する。


「ここで確か……あった!」


 いばらは本棚に並んだ本のうちの一つを押し込む。

 すると、ゴゴゴゴと音を立てて本棚が移動し道が現れる。


「……隠し通路。なんでこんなの知ってるんだ?」


「実はね、前にお父さんがここに入るの見たの」


 いばらは無邪気な笑みを浮かべながら答える。

 そんな返答に真は驚きと共に、


(月影のトップが娘に隠し通路ばれるなよ……)


 とあきれた。

 いばらはそんな真の手を引く。


「それじゃあ探索しよ!」


 いばらは嬉々とし隠し通路に向かって歩こうとするが、真は足を止める。


「真くん?」


 立ち止まった真にいばらは首をかしげる。

 だが真はそんないばらよりも、月影トップの隠し通路に入る危険性を考える。


(危険か?だが一応自宅に作られた隠し通路だしいばらに対して罠は反応しない可能もあるが)


 だがやはり真は危険だと判断し、いばらを止める判断をする。


「いばら、叔父さんに怒られるかもしれないし、それに、っ!」


 「それに危険かもしれない」と言う前に真は明後日の方向を向く。


「真くん、どうかした?」


 いばらはそんな様子の真を心配するが、真はすぐにいばらの方を向く。


「いや、何でもない。それより早く行こう。すぐに行けば叔父さんにもばれないだろ」


「うん!」


 真の言葉にいばらは嬉しそうに頷き、二人は隠し通路に入って行った。







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「何にもないね」


 隠し通路に入った二人はひたすら続く薄暗い道を歩いていた。


「そうだな。……怖いなら手を繋ぐか?」


 真は自分の後ろで肩を掴んで歩くいばらに提案をする。


「べ、別に怖くない。けど真くんが怖いなら繋いであげる」


 そんな強がるいばらに真はあきれながら手を差し出す。


「あぁ、怖いから手を繋いでくれ」


「うん!」


 いばらは嬉しそうに手を真の握る。

 そうして歩いて行くと、しばらくして少しひらけた場所に出る。


「ここで行き止まりだね」


「そうだな……」


 真は辺りを見渡すととある一点を見つめて歩き出す。


「真くん、待ってよ!」


 いばらは突然歩き出した真の後ろを小走りで追いかける。

 そして真は目をつけてた壁に着くとその場に座り、壁をあちこち触る。

 すると壁の一部が開き、コンソールが出現する。


「真くん何してるの?」


 いばらは無言でコンソールに何かを打ち込む真に話かけるが真は一切の反応を示さない。

 やがて真はコンソールから手を離す。

 するとコンソールが収納され次は鍵穴が出現する。


「よし、開いた。次は……」


 真は鍵穴の形状を確認しながらどこからともなく二本の針金のような物を取り出す。

 そしてガチャガチャと針金を鍵穴に突き刺しいじっているとそう時間をたたずしてガチャリと音がし壁が開く。

 その壁の中には一丁の拳銃が収納されていた。


「真くん。それって……銃?」


 後ろから覗いてくるいばらを片手で静止させながら真は銃を手に取る。

 そして真はいばらに向き合い、真剣な表情で話しかける。


「いばら。これから言うことをしっかり聞いてくれ」


「真くん?……うん。わかった」


 いばらは幼いながらも真の表情が真剣であると認識し、耳を傾ける。


「いまから絶対に俺のそばを離れるな。そして俺の後ろにいること。あとは目を伏せて、耳を塞いでくれ」


 真はそう言うと同時にいばらの手を引き、互いの位置を入れ替える。

 さらに真は銃を前方に構える。


「いばら!目を伏せて耳を塞げ!」


 真が叫ぶと、いばらはすぐにその場で膝を抱えながら目を伏せ耳を塞ぐ。

 真はいばらが伏せたのを確認すると同時に、銃の引き金を引く。

 だが銃弾は途中何にも当たらず道の奥に消え、壁に当たった音がする。


「ちっ……」


 真は舌打ちをしながら銃を構えなおし照準を合わせる。

 そして真たちが通ってきた道から人影が現れる。


「おう、おう。銃弾なんて飛んでくるからどんな奴がいるかと思えば。ガキ二人か」


 現れたのは全身を黒い服で身を包んだ男。


「あれほど仲間を犠牲にして月影トップの家に忍び込んだってのに、いたのはガキ二人で他には何もない。ハズレだったな」


 黒服の男がそうして話している間にも真は警戒を緩めない。


「だが、全くのハズレというわけでもなさそうだ。お前ら忍田黒仁の子どもだろ?お前らを使えば月影の情報を得られそうだな」


「…………」


 男が笑いながら言うのを真は黙って見る。

 そして、静かに銃を構え引き金を引く。


「っ!危ないなぁ」


「……防がれた?」


 真が放った銃弾は男が手を振るい弾かれる。

 真は防がれたことを疑問に思いながらもすぐに引き金を連続で引く。

 複数の銃弾はまたしても防がれるが、防がれ弾かれた弾丸は、互いに空中で当たり角度を変えて男の腕に当たる。


「ったくいくらガキでも油断はいけないな。服が破れたじゃないか」


「……義手か」


 真の眼に映るのは、さらけ出された男の腕。

 それは生身のそれでなく光を反射する金属の腕だった。


「その通り。こいつはこの世界にない物質を使用し作られた特注品の義手だ。そのおかげでさっき見た通り銃弾を簡単に防げたわけだ。なかなかイカしてるだろ?」


 男は自慢するように腕を叩く。

 だが真はそんなことより、説明にでてきたある単語に意識がいっている。


「……お前、今この世界にない物質と言ったか?」


「あ?言ったがそれがどうかしたか?」


 真は男の言葉を聞くと、何かを小さくつぶやき始める。


「そうか、この世界にない。つまり異世界の……」


 真はつぶやきながらすべを奪われたあの日を思い出す。同時にその日、唯一手に入れたものを使う決心をする。


 そして真はつぶやくのを止めると無言で、真は真っ黒で見るものすべてに恐怖に落とすような目で男の目を見る。


「子供が、するような目じゃないだろ……っ!?」


 真は男を見ながら無言で銃弾を撃つ。

 その弾丸は当然のように簡単に防がれるが、真はそれを分かっていたように、引き金を引いた瞬間に後ろにいるいばらに話しかける。


「いばら、伏せたままでいい聞いてくれ」


 いばらは伏せたまま小さく頷く。


「今少しピンチでな、いばらの力を借りたい」


「私の力?……わかったどうすればいいの?」


 いばらは何が起こっているか分からない状況でも、真の真剣な声に頷く。


「お前にしてほしいのはただ一つ、お前の思いを俺に伝えてくれ」


「思いを、伝える?」


「そう、お前の正直な思いを俺に」


 真がそう言うと、いばらは少し間を置き、


「……いばら?」


 真に抱き着く。


「こうした方が伝わるでしょ?がんばれ、真くん」


 いばらがしばらく真に抱き着いていると、二人の間に不思議な光が現れる。


「きたな、……いくぞ!【真価解放】」


 真が叫ぶと、二人を青白い光が包み込む。

 さらに、


「【真価武装】」


 真がいばらに向け手を伸ばすと、光が手の中に収束し、薔薇の剣を作り出す。

 だがその瞬間、いばらは体勢を崩し、その場に倒れ込む。


「真…くん……」


「大丈夫だ、あとは俺に任せろ」


 真の言葉を聞くと、いばらは安心したように瞼を閉じる。

 そして真は薔薇の剣を構え男に身体を向ける。


「待たせたな。さぁ、終わらせよう」


「ガキが、……何が起こったかは知らないが、あまりなめた口をきくなよ」


 男は真に向かって走り出す。

 だが真は冷静に相手を見て、薔薇の剣を向ける。


「そんな剣、俺の義手でへし折ってやる!」


 男の義手が、薔薇の剣に触れようとした瞬間、


「縛れ、【薔薇の剣】」


 薔薇の剣が光を発し、義手を薔薇のツタが縛り上げる。

 そのツタは更に伸び、男の身体全体を縛る。


「くっ、なんだこのツタ!?」


「勝負にもならなかったな。これで終わりだ」


 真は薔薇の剣を男に突き刺す。


「ぐっ!?なにを……」


「今、お前の体に毒を入れた」


「毒、だと……」


「あぁ、だが安心しろ。殺しはしない、お前には聞きたいことがあるからな」


 真が薔薇の剣を抜くとともに、男はその場に倒れ込む。


「終わったか……」


「お疲れ様、真」


 男が気を失ったことを確認していると、後ろから足音一つ立てずに人影が突然現れる。

 その正体は月影のトップ、忍田黒仁。


「トップ。お疲れ様です」


「すっかり君も月影らしくなったね。……その剣は、君の言っていた例の能力だね」


 黒仁は真の持つ薔薇の剣とそこから発せられる光を見る。


「はい。やはり多少の制約はありましたが、いばらのおかげで使うことができました」


「そうか。……いばらを守ってくれてありがとう。本来であれば設置したトラップだけで対処できたはずだが、まさか異世界の素材を使ってくるとは」


「いえ、最終的には俺もいばらも無事ですから。それで、どうするんですか?」


 真が聞くと、黒仁はいばらに近づき抱き上げる。


「ほんとうは時期を見て話そうと思っていたんだけどね。こうなってしまうとね、とりあえず今回の記憶は消すことにするよ」


 黒仁は悲しそうな表情をし、いばらの頭を撫でる。


「いばらの記憶を……わかりました」


「でも、僕は君に今回のことを口止めはしないよ」


 黒仁の意外な言葉に真は、どういうことかと目で聞く。


「今回のこと、そして月影のことを伝えるのは真、君の意思にゆだねたい。もちろんどこかのタイミングでは言わなければならないが、僕たちが話す前に君の口から話してくれて構わない」


「それは、でもなんで俺に?」


「僕たちは親だからね、どうしても月影のトップとしての責任と親としてのこの世界のことを知らずに過ごしてほしいという思いがあるから。僕たちより、真の方がいばらにとっていいタイミングで話してくれると思うからね」


 真は黒仁の言葉にしばらく黙っていると、ため息をつきながら口を開く。


「分かりましたよ。叔父さん」


「すまないね。どうか今後とも娘を頼むよ」


 そうして真と黒仁、そしていばらは隠し通路を後にする。


 なお真たちを襲った男たちは後にいろいろと有益な情報を吐いてくれた。



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