9.

『二人とも、お疲れさま』


『一時はどうなるかと思ったけどよー、何とかなったみたいだな!』


 二人のパートナーである二体のサポポンが、こちらへと飛んで戻ってくる。


「ナイスだったわ、朝野さんっ! ……この調子なら、都市伝説相手でも何とかなりそうね。良かった……」


 続けて、八坂星羅が申し訳なさそうに。


「……実を言うと、私はあの時、朝野さんの事を一瞬でも不安に思ってしまったの。――任せてしまったのは良いけれど、魔法少女としての経験もまだ浅い貴方に任せてしまっても大丈夫だったのかって。私の『過去の記憶』が蘇ってきてしまったの。

 でも、それは要らない心配だった。貴方を助けた時には偉そうに、を言ったのに、私自身がこうじゃダメね……。本当にごめんなさい」


 突然の謝罪に、わたしは困ってしまう。日が浅くて、魔法少女の知識だって乏しいわたしに――こうして色々と教えてくれて、一緒に戦ってくれて――感謝の気持ちでいっぱいだったのに。そんな、謝るなんて。


「い、いえ! むしろ最初に、一人で突っ走ってしまったのはわたしですから! 助けてくれてありがとうございました。謝るのはこっちです。……ごめんなさい」


「気にしないで。ちょっとキツく言ってしまって……でも、朝野さんにはこんな所で死んでほしくなかったから……」


 あの時、わたしが先走って返り討ちにあった時――助けてくれた八坂さんは、怒っていた。……と同時に、悲しんでもいた。初対面であるはずのわたしを、それだけ……心配してくれていたんだ、という事は言われなくとも分かっていた。同時に、申し訳なさが波のように押し寄せてくる。


 そんな彼女は、続けて――


「……私は、人に頼るのが怖かった。任せるのが怖かった。一度、私が頼ってしまったせいで死んでしまった魔法少女がいたから。

 いくら魔法少女の死は、肉体的な死ではないからと言っても……がもう戦えなくなってしまったことに、罪悪感を感じていたの。そして、貴方も……そうなってしまうんじゃないかって思ったの」


「でも。八坂やさかさんが信じてくれたおかげで、わたしはあのネガエネミーにトドメを刺せました。

 自分のせいで……とか、思わないでください。わたしは、八坂さんに任せてもらって――うれしかったです。その人の事も、そのとき何があったのかも、わたしは知らないですけど……きっと、も、わたしと同じ気持ちだったと思いますから!」


 ――少なくとも、わたしは。


 八坂さんに任されて、頼ってもらえて。……こんなわたしでも出来る事があるんだ、と思うとどこかうれしかった。


 会ったこともないわたしは、一体その人がどんな性格なのか、どんな人間なのかはわからない。……でも、信じてくれて。信頼されて――少なくとも、悪い気なんてしないはず。


「そうだったのかしら……。私も――朝野さんに偉そうに言えた立場じゃなかった。でも、もう、頼る事が怖いなんて思わないようにする。こんな大事なことに気づかせてくれてありがとう。

 ……私はもっと、自分ができない事は人に頼ることにする。だから、朝野さんも――私をどんどん頼ってくれるかしら」


「……はいっ!」


 きっと、さっき言っていた『先輩』のことなのだろうか。悲しんではいられない――そう言ってはいたが、心の奥底ではひどく気にしていた様子だった。


 しかし、その『先輩』はきっと、後悔なんてしていないはず。ましてや、そんな事を考え込んでほしいだなんて、思っていないはず。


 自分が犠牲になってしまったとしても、都市伝説という手強いネガエネミーを共に倒す事ができて、良かったと――そう思っているに違いない。


 ……もし、そんな事を気にして、根に持つような人だとすれば――みんなの気持ちを受け取って、前に出ることなんて出来ないだろうと、わたしは思うから。

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