2.

「ねえ、これ……どう思う? サポポン」


『……? どうしたんだい?』


 学校から帰り、いつも通り魔法少女の仕事――ネガエネミー退治を終え――変身も解き、自室で一息つくわたしは、近くでふわふわと浮かぶサポポンに、スマートフォンの画面を向ける。ずっと気になっていたを調べていた。


 ……そこには、とある『サイト』が映っていた。


 黒背景に赤い血文字のようなもので『恐怖! 都市伝説情報局!』――とか書かれている、いかにもという胡散臭さが溢れだしている、そのサイトを見たサポポンは……。


『都市伝説……? もしかしてこむぎ、さっきの――』


「もちろん、信じてる訳じゃないよ?」


 疑いの目でわたしを見るサポポンに、そう前置いた上で、さらに続ける。


「前にサポポンが、『ネガエネミーは、悪意や感情、噂にが具現化したもの』……って言ってたから、ちょっと気になっただけ」


 最近、わたしが住む街――鳴繰なくり市でひそかに広まっている都市伝説があった。わたしも、至るところで皆が話しているのを聞いている。そして何より、今日の昼休み。つばめがわたしに聞いてきた内容だ。


 もちろん、それ自体はただのオカルト話であって、本当に信じているような人はいるはずもないだろうが……給食の時間につばめが話していたように――『もしあなたなら、する? しない?』……といった、話のネタみたいな形で広まっていったのだろう。


 その『都市伝説』の内容がこうだ。



 ***



 ――鳴繰市で広がる都市伝説『命岐みわかれ橋』。


 もし『欲しいモノ全てを手にしたい』――そう思うのならば街の外れにある命岐みわかれ橋から川底へと飛び降りよ。二つの道が示されるだろう。


 一つは『欲望の成就』。欲しいモノ全てが手に入る世界へ繋がる道である。望んだモノ全てが手に入り、自分の思いどおりの事が起こる、そんな世界へと。


 もう一つは『強欲の代償』。己の持つ全て……地位に名声、人間関係……その全てを失った、果ての世界へと繋がっている。――ただし、道の先は見えないし、一度進めば引き返せない。



 ***



 ……これが命岐みわかれ橋という都市伝説の概要だ。出どころはわからないが、インターネットで調べれば色々なサイトがヒットする。しかし、どこを探しても、これ以上の情報は見つからない。


 わたしの問いに、サポポンは――


『都市伝説がネガエネミーになるっていうのは確かなんだけど……都市伝説の全部が全部、って訳じゃないんだ。

 感情、噂、都市伝説。それらがネガエネミーになると言ったけど、実はネガエネミーが生まれるにはもう一つ、条件があるんだ』


「……条件?」


『うん。それらに宿初めて、ネガエネミーが生まれるんだ。

 都市伝説って、誰かが面白半分で作ってる物が多いから、実際に人に不幸を被らせてやろうだとか、そういった本当の悪意は宿っていないことが多い。だから、実際にネガエネミーになるのはほんの一部なんだ。……そのかわり、もしも具現化してしまったら厄介だけどね』


 それなら安心……なのだろうか? とも一瞬思ったが、やはりわたしの心に残る不安は消えない。


 命岐橋の都市伝説は、橋の上から飛び降りて初めて成立するものだ。……どんな川なのかは知らないけれども、飛び降りる以上、実際に試せば流されてそのまま溺れるか、川自体が浅かったとしてもそこそこの高さから飛び降りる訳だし、怪我なく済むとはとても思えない。


 こんな馬鹿馬鹿しい話を、本当に試そうとする人が現れるとは思えないが……もし、仮に。本当にそれを信じてしまって、この命岐橋飛び降りようとする人がいるとして。

 

 都市伝説を信じたその人を飛び降りさせて、という『悪意』のもとに生まれた都市伝説である可能性だって拭い切れない。


 もしそうであれば、サポポンが言う『二つ目の条件』も満たしてしまう。


『そうだね……。念には念をってことで、明日は魔法少女の仕事はお休みして「命岐みわかれ橋」について調べてみようか。ボクはサポポン、魔法少女のサポート役である以上、こむぎの意思を尊重するよ』


「うん。どうしても気になっちゃって夜も眠れなくて……。ありがとう、サポポンっ」


 明日はちょうど土曜日で、午前中はお店の手伝いがあるものの、午後からは特に予定もない。明後日にはつばめと駅前のソフトクリームを食べに行くという約束があるので、ガッツリと調べものをするならチャンスは明日しかないだろう。


 それは杞憂なのかもしれないが……どうも、この都市伝説を聞いてからというもの、頭にこびりついて離れないでいた。それをすっきりと洗い落とす、という意味でも、これは決して無駄足ではないはずだ。

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