第11話:ダンジョンテイム
「それ! えい!」
僕の魔力が核の中に、どんどん吸い込まれていく。魔力が渦巻いているようで、とても不思議な光景だった。
(こんな感じで良いのだろうか……?)
〔その調子ですよ、マスター!〕
グラグラグラ! ミシミシミシ!
突然、ダンジョンがきしみだした。パラパラと、欠片が降ってくる。今にも崩れてきそうな感じだった。
「え!? な、なに!? コシー、ダンジョンが壊れそうだよ!」
〔もうちょっとです! このまま続けてください!〕
コシーに言われるまま、僕はさらに魔力を注いだ。
「うわぁ!」
その直後、ダンジョンが核に向かって吸い込まれていった。壁、天井、床、空になったアイテムボックス、あらゆるものが吸収されていく。地面がグニャグニャして、まともに立っていられない。僕は尻餅をついてしまった。
〔マスター!〕
コシーを抱えて、この現象が落ち着くまで必死に耐える。
「コシー平気!? いったい、どうなっているんだ!?」
〔私は大丈夫です! きっと、もうすぐで終わります!〕
間もなく、ダンジョンは消え去った。
(いったい、どうなったんだ)
ボウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!
「な、なんだあ!?」
白い煙が巻き起こる。コシーをテイムしたときと同じだ。
〔ふわぁぁぁぁぁぁあ〕
またもや、女の子の声が聞こえてきた。
〔マスター、あそこを見てください!〕
煙に紛れて、人間のようなシルエットが見える。
「う、上手くいったのかな」
ジャリッ! ジャリッ! ジャリッ!
人影が、こちらに近づいてきた。
(ごくり……)
僕は緊張して、生唾を飲み込んだ。なにせ、相手はSランクダンジョンだ。とても怖い子に違いない。
〔こんにちは、私はエイメス。あなたがアイトね?〕
そこには、ひょうし抜けするような可愛い女の子がいた。眉毛あたりで切りそろえた黒くて長い髪、そこはかとなく漂う清楚な雰囲気、ジッと僕を見つめる瞳、そして、大きめな胸……ゲフン。
(ほとんど、人間の女の子だ)
コシーと違って、彼女は普通の人と変わらない見た目だった。首から小さくなったダンジョンの核を、ペンダントのようにかけている。この子は昔、Sランクダンジョンでした! なんて言っても信じる人はいないだろう。
「は、初めましてだね。僕はアイト・メニエン。君は……Sランクダンジョンの女の子だよね?」
「うん、そうだよ!」
ニッコリした笑顔が癒される。僕はさっき心配したことが、恥ずかしくなった。
(なんて眩しく笑うんだ。まるで太陽じゃないか。怖いなんて思って、申し訳なかったな。こんな良い子なのに)
とそこで、コシーが顔を出した。
〔初めまして、私はコシーと言います。私もマスターにテイムされて……〕
しかしコシーを見たとたん、エイメスの顔から笑顔が消えた。
〔あなた、誰?〕
太陽のような輝きは消え、悪魔も逃げ出すような凄まじい形相をしている。僕は背筋が凍るようだった。さすがのコシーも、たじろいでいる。
〔で、ですから、私はコシーと言って……〕
〔アイトは、私の物だよ?〕
エイメスの目から、光が消えている。身震いするほど怖い。
〔アイトは私の物……アイトは私の物……〕
バチバチバチ!
エイメスの体を、稲妻がまとい始めた。
「ちょ、ちょっと、何やってるの!?」
〔マ、マスター!?〕
彼女は、元Sランクダンジョンだ。僕たちを攻撃した、雷の罠魔法が思い出される。あんなものを喰らったら、ひとたまりもない。
「エ、エイメスッ! 落ち着いて! コシーは僕の大切な仲間だよ!」
〔アイトの大切な……仲間?〕
「そう! 大切な仲間!」
バチバチバチ……スン……。
〔仲間ならいっかぁ!〕
エイメスの目に、光が戻った。先ほどの太陽みたいな笑顔になってくれた。僕とコシーは、心の底からホッとする。
〔「ふぅ……」〕
〔二人ともどうしたの? さぁ、早く帰ろうよ!〕
エイメスに、強い力で腕を掴まれる。
(も、もしかして、彼女はヤ……)
引き摺られるようにして、僕はギルドへ戻っていった。
ギルドに着いて、僕はドアを開ける。カランカランと音がした。
「お、アイトじゃないか。早かったな……って、その可愛い子は誰だ?」
さっそくギドルシュさんが、出迎えてくれた。ギルドに入るや否や、周りの冒険者が僕たちをチラチラ見てくる。
「おい、みんな、アイトだぞ」
「あの娘可愛いな。アイトの女か?」
「くっそー、俺もあんな彼女が欲しいよ」
みな、エイメスのことが気になっているようだ。僕は自慢げになってしまう。
「じ、実は、説明しにくいのですが……Sランクダンジョンをテイムできたんです。この子はエイメスと言って、ダンジョンだった女の子です」
〔初めまして、エイメスだよ〕
エイメスは笑っている。僕とコシーは、そっと安心した。
「な、なに!? ダンジョンをテイムしたのか!? そんなこと、あり得るのか!?」
ギドルシュさんは見たこともないほど、驚いた顔をしていた。しきりに僕と、エイメスの顔を交互に見ている。
「は、はい。ダンジョンの核に魔力を込めたら、テイムできました。そして、その後なぜか女の子になって……」
僕はテイムした時の状況を、事細かに説明した。
「まさか、そんなことができるなんてなぁ……。アイト、お前は天才かもしれんぞ」
「いや、天才だなんて、大げさですよ」
またもやギドルシュさんに褒められて、僕は嬉しくなる。そして、知らぬ間に冒険者たちが集まっていた。
「アイト! お前ダンジョンなんて、テイムできんのかよ! すげえな!」
「しかも、こんな可愛い女の子にしやがって! 羨ましいぜ、この野郎!」
「なぁ、今度テイムするとこ見せてくれよ!」
みんな集まって、僕を中心に盛り上がっている。今まで、こんなことはなかった。
(良かった、本当に良かった)
「あっ! アイトさん! お帰りなさい、無事にオークは討伐できましたか?」
和気あいあいとしていると、サイシャさんがやってきてしまった。サイシャさんは僕を見て、嬉しそうに話しかけてくる。無論、それをエイメスが見逃すはずがない。
〔あなた、誰? もしかして、アイトと……〕
バチバチ……。
エイメスが稲妻を出し始めた。サイシャさんたちが驚く。
「わぁ! な、なに!?」
「アイト! エイメスの様子がおかしいぞ!」
ここで彼女が稲妻攻撃を出したら、それこそ大惨事になってしまう。何と言っても、元Sランクダンジョンなのだから。
「エ、エイメス! ちょっと待って! この人はサイシャさん! ギルドの受付嬢で、色々助けてくれる。とても良い人なんだ! 別に付き合ったりしてないからね! そ、そうですよね? サイシャさん!?」
「え? あ、そ、そうですね」
……スン。
〔そっかぁ、受付嬢さんかぁ〕
エイメスは、機嫌をなおしてくれた。僕たちは、ホッと一息つく。
(何とか、おさまってくれた。でも、サイシャさんが、何となく暗い顔をしているのはなぜだろう?)
後日、ギルドのみんなと、Sランクダンジョンの跡地に行った。ダンジョンは消え去っていて、その痕跡すらなかった。でも、オークの死骸は変わらずに転がっていた。エイメス曰く、〔オークは私の一部じゃない〕とのことだった。
「アイト! 俺はお前が何と言おうと、ギルドのエースとして認めるからな!」
ギドルシュさんは、勝手に決めてしまった。
「そうだよ! こんなことできるの、お前しかいねえよ!」
「エースの座は、俺が狙ってたのによぉ!」
「ま、アイトなら反対する奴いねえわな!」
満場一致で、その日から僕は、“ギルドのエース”と呼ばれるようになった。
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