第5話 変な女

どいつもこいつも使えない。


俺の仕事が捗るか捗らないかは秘書の力量も関係してくると思ってる。


ところが来る奴、来る奴全く使い物にならない。


ちょっと厳しく言うとすぐ辞めたり、出勤拒否したり。


だから、俺は変な秘書ばかり寄越す責任を取ってもらうために秘書室の室長で俺の幼馴染でもある宇佐美陽一に秘書を頼んだ。


室長になるだけあって、陽一は仕事ができた。


幼馴染なこともあって、俺に遠慮なく言ってくれるのも助かっていた。


ただ、俺の秘書をしながら秘書室の室長をやるのは想像以上の負担があったらしく、あっさりと新しい秘書を雇ったと言われた。


しかも明日から来ると。


俺は今までのポンコツ秘書達のことを言って、陽一に秘書を続けて貰わないと困ると言ったものの、今度はかなり優秀な秘書派遣会社にお願いしたから安心しろと言われる、一蹴された。


最後の譲歩として、使えない奴だったら即解雇で陽一が秘書に戻ることを約束させた。


陽一は軽く鼻で笑って、優秀な秘書だから大丈夫だとだけ言って俺の秘書をやめていった。


そんなやり取りが昨日の話だ。


今日から新しい秘書がくる。


今まで来た奴らみたいに容姿ばっかり気にして、仕事ができない奴だったら追い返してやろうと意気込んでいた。


昨日の仕事をそのままにして帰ったので、デスクの上はぐちゃぐちゃでメモ用紙も底をついていた。


まずはこのデスクを片付ける仕事から始まると思うとうんざりしたが、昨日そのままにして帰った俺が悪いと昨日の自分を恨みながら、デスクの片づけをしていると


ドアをノックする音が聞こえ、続いて陽一の声がした。


「本日から秘書として来て頂きました澤田さんお連れしました。」


いよいよご対面の時か。


派手な女だったら、仕事ができないのが見えてるからその場で帰してしまおうと思いながら「入れ。」と短く返事をした。


陽一が部屋の中に入ってきて、新しい秘書はその後ろに隠れていて姿が見えない。


「社長、本日より社長秘書として勤務となります澤田さんです。ここ最近秘書が変わりすぎていて業務にも支障が出ているので、そこのところよく考えてお接しください。」


「澤田葵です。本日よりよろしくお願いします。」


新しい秘書が姿を現してペコリと頭を下げている。


髪は黒色で服も黒のスーツ、靴はローヒールで顔は見ていないが恰好はすこぶるダサい。


ん?


あれ?どっかで聞いたことがある名前だと思ったが、どこで聞いたのか全く思い出せない。


「澤田葵・・・・・・。よろしく。」と言うと


澤田葵と名乗る新しい秘書が顔を上げた。


恰好はダサいが顔は可愛い。


一瞬顔は可愛いと思った自分の志向を慌てて消して目を逸らした。


澤田がこちらを見ている気配がしたので、見てみると澤田と目が合った。


名前をどこかで聞いたことがあると思ったが、どこかで会ったような懐かしい気もした。


「では挨拶に伺っただけですので、直ぐ業務の引継ぎがありますので失礼します。」


陽一の声に現実に引き戻され、「分かった。下がれ。」と言うと、陽一の後を慌てて追いかけて部屋を出ようとした澤田を見て


「おいちょっと待て。」と声をかけていた。


陽一が「なんでしょうか。」と振り返ったので、俺はイライラして


「おまえじゃない、新しい秘書だ。」と澤田に声をかけた。


中々振り返らないので、俺はイライラして澤田に近付いた。


おずおずと「はい、社長なんでしょうか。」と振り返る澤田が振り返った。


距離を詰めすぎていて、俺の近さにびっくりしたのか澤田は後退りをする。


その姿にもイライラしながら


「おい、お前。俺とどっかで会ったことあるか?」


「多分初めてお目にかかるかと思います。」


一瞬間が開いたが、おずおずと澤田が答える。


すかさず陽一が


「社長、早速変なことを言うのは辞めて下さい。さっき忠告しましたよね。さぁ、行きましょう。」


と言って、澤田の手をとるとそのまま部屋から出て行った。


何故あそこで手を取る必要があったのか、陽一の行動にもやもやする。


と同時に、澤田葵・・・・どこかで聞いたことがある名前と顔なのに、どこで会ったか全く思い出せない。


思い出せないということは、そんなに重要な場面で出会ったわけではないだろうと思い、これ以上考えることはやめた。


派手な女がきたら即辞めさせようと思っていたが、予想以上にダサい女が来て、これはこれでなんだか残念な気持ちになるな。


あれこれ考えていると前室でごそごそと人の気配がする。


澤田が前室に戻ってきたようだ。


何かブツブツ言っているが、何を言っているか聞き取れない。


変わった女だと思いながら、今日使う資料に目を通し始めた。


電話が鳴る音がする、普段なら全く気にも留めないのに澤田がどんな対応をするのか気になって耳を澄ませている自分がいた。


じっと耳を澄ませると微かに対応している声が聞こえる。


「社長との面会ですね。予定を確認しますので、お待ち下さい。」


しばらく時間を置いて


「お待たせ致しました。ご希望の日程でお待ちしております。ご連絡ありがとうございます。」


思った以上にはっきりと対応している。


今までの秘書でダメな奴は電話対応から最悪だったことを考えると、まずまずの人材かなと思った。


普段全く気にならないのに、今日は秘書の様子が気になってしょうがない。


電話が鳴るとどうしても耳を澄ませている自分がいたし、来客対応をしている際もやりとりが気になってしまう。


全く仕事が身に入らないまま、午前の仕事が終わろうとしていた時


「川崎健太」


澤田が俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


何か用事があって呼んだわけではなさそうだ。


用事があれば内線をかけてきていたので、名前を呼んだ後内線がかかってくるわけでもなく、その後はシーンとして特に何か言ってくるわけでもない。


そもそも社長の俺のことをフルネームで、しかも呼び捨てで名前を呼ぶはずがない。


今日の俺はどうかしている、午後からは気にせず仕事をしないと重要な来客もあることだし、秘書のことを気にかけるのは辞めようと考えているうちに、午前の終業を告げるベルが鳴った。


「は~~~~」と思わず大きなため息をついて、さっき気にするのを辞めようと思ったところなのに、澤田がお昼に行くのか気になって耳を澄ませている自分がいた。


だが、一向に部屋を出る気配がない。


まさか、昼休みに入っていることに気付いていないのか、もしくは俺に気を遣って行かないのか、気になって声をかけようと思って席を立ったそのとき、澤田が部屋を出る気配がした。


俺は何をやっているんだと、頭を抱えて席に座り込んだ。


めんどくさくて元々お昼は食べないので、机に入っているカロリーメイトを1袋取り出しかじりながら、午前中全く捗らなかった資料作成を進めた。


澤田がいないだけで気をそらされる存在がいなくて、資料作成は順調に進んだ。


そんな時間もあっという間に過ぎて、午後の始業を告げるベルが鳴る。


同時にドアをノックして、澤田が告げる。


「社長、午後の予定の確認をしたいのですがよろしいでしょうか。」


大きな音が出ないように、気を遣ってノックしてくれた様子に好感を覚えた。


「入れ。」と言うと、「失礼します。」と言いながら澤田が部屋に入ってくる。


「社長、本日午後の予定確認と午前中に入った予定のご連絡です。」


と言いながらタブレットを見ながら、午後から会食の予定まで告げて、午前中に入った予定も淡々と報告している。


澤田のことを凝視するわけにはいかないので、書類を見るも全く情報が入ってこない。


心地良い澤田の声が耳を擽る。


報告が終わったので、下がれと言おうと思い顔を上げると


「約束時間の10分前に内線させて頂きますが、いかがいたしましょうか。」


想像もしていなかったことを言われ俺はきっとマヌケな顔をしているに違いないと思いながらも、驚きすぎて自分を制御できなかったので本音が漏れてしまった。


「そんなことしてくれるのは初めてだ。時間管理しなくて良いから助かる。よろしく。


言った後で自分の言葉に恥ずかしくなって、慌てて書類に目線を戻した。


早く部屋から出て行ってくれと思うも、澤田はまだ部屋から出て行こうとしない。


それどころか、小さく息を吸って何か言おうとしている。


「社長、お忙しいところ申し訳ありません。お昼は前室でとった方がよろしいでしょうか。本日は食堂に行ってしまいましたが、不都合でしたら明日からは前室で食事します。」


またも想像していなかったことを言ってくるので、再びマヌケ顔を晒していると思いながらも


「昼休憩は休憩時間だから、好きなところで過ごせば良い。俺は休憩時間まで拘束するつもりはない。もういいから下がれ。」


と言って、再び書類に視線を戻した。


もう今はとにかく早く部屋方出て欲しい。


それでもまだ出て行く気配がない。


それどころかごそごそしている。


次は何を言ってくるのかドキドキしながら、目の前の書類に書かれた字はもはや記号にしか見えない。


急に視界にコーヒーショップの袋目に入った。


これ以上マヌケ顔を晒すのは不本意だったが、やはり俺は澤田を見上げていた。


「それでは失礼します。前室におりますので、ご用がありましたら、お呼び付け下さい。それから、食事をとらないと血糖値が下がり仕事の効率も下がります。眠くならない程度に軽めのサンドイッチを買ってきましたので、お召し上がりください。」


と言うと頭を下げて、くるりと俺に背を向けてさっさとドアに向かって歩いていく。


さっきまで、一刻も早く部屋を出て行って欲しいと思っていたのに、さっさと部屋を出て行こうとする姿に苛立ちを覚えた。


気付いたら「おい待て。」と澤田の背中に声をかけていた。


「なんでしょうか。」


と言って澤田が振り返って俺を見ている。


呼び留めたものの何か用事があって呼び留めたわけではないので、何を言うべきか戸惑っていると


「何かご用でしょうか。」と再び澤田が責めるかのように聞いてくる。


俺は慌てて「すまん、何でもない。下がれ。」と言うと、目の前に記号が書かれた書類に目を落とす。


澤田が部屋を出て行った。


俺は緊張していた体の力が抜けて、大きく息を吐いた。


ただの地味な派遣秘書に自分のペースを崩されて、あたふたとしてしまう自分が信じられない。


ふと目に澤田が置いていったコーヒーショップの袋が目に入った。


無意識に袋に手を伸ばしており、気付いたら手にサンドイッチを持っていた。


今日の俺はどうかしていると自虐的に笑いながら、もはや抵抗するのは止めて手に取ったサンドイッチを食べながら、袋に入っていたコーヒーも飲んだ。


食べながら今日来たばかりの澤田にについてぼんやりと考えていた。


今日初めて会ったはずなのに何故か初めて会った気がしなかったり、地味な女なはずなのにどことなく可愛いところもあるような気がする。


さりげない心遣いができるところも秘書としては申し分ない。


直ぐにでもクビにしてやろうと思っていたが、もうしばし様子を見てみようと、結論がついたところでちょどサンドイッチを食べ終わった。


午前中仕事が進まなくて溜まりつつあるから、澤田のことは頭から追い出して、糖分を十分に補給した頭をフル回転させて仕事を進めていった。


午前の挽回をすべくとにかく集中して仕事をしていたので、時間のことを気にしている余裕がなかった。


突如鳴った内線の音にビクリとした。


慌てて受話器を取ると、心地良い澤田の声が耳に入ってきた。


「社長、株式会社山川の専務との会議10分前です。ご来社頂きましたら、社長室にお通し致します。」


折角集中していた気持ちが今の声でプツリと集中が切れてしまったことにイラつき


「分かった。」とだけ言うと、イラつきに任せて内線を切った。


何故か澤田にはペースを崩される。


それにイラつく。


ただ、10分前に連絡してくれることはありがたかった。


これから使用する資料に目を通しながら、入り口の様子を伺っている自分がいた。


突如、入り口側が騒がしくなったので待っていた来客が来たのだと思った。


嬉しそうな声で挨拶している澤田の声に、またイラついた。


澤田がどんな顔をして藤井と話しているのか気になって、ドアの外へ行こうと席を立ちあがった時、ドアをノックして澤田と藤井を部屋の中に入ってきた。


相変わらずのイケメンで男の俺でも見惚れるほど爽やかな笑顔で藤井が俺に


「久しぶり。今日は時間ありがとう。」


と言って近寄ってくる。


その様子を見惚れるような顔で見ている澤田が気に食わないと思いながら、早く澤田がこの部屋から出て行くようにするために藤井に


「こっちの用事だったので呼び付けてすまん。時間もないし本題に入ろう。」


と澤田が気を遣って部屋から出るように仕向けた。


「相変わらず、せっかちだな。」


と言いながら藤井が会議デスクに向ってくる。


その途中振り向き澤田を見ながら


「そういえば、新しい秘書さんだね。健太、今度こそすぐ辞められないようにしないとな。それにしても見た目は地味だけど、素材はかなりいい子だね。」


と言ってから、また前を向いてデスクに向かって歩いてくる。


藤井のとんでも発言に驚きながら、澤田がどんな反応をしているか気になり見てみると、ポーっとした顔で藤井を見ている。


その姿が無性にイラつき、これ以上藤井と澤田が同じ空間にいるのが気に入らなくて感情に任せて


「いつまで立ってる。下がれ。アイスでブラックコーヒー2つ」


と言い捨てた。


慌てて部屋を出て行く澤田と目の前に余裕な顔で座っている藤井を見て、今の自分の行動が恥ずかしくなる。


そんな俺を見て藤井が


「健太が感情的になるの珍しいな。秘書となんかあったのか?」


俺をからかうように笑いながら話しかけてくる。


「あんな地味な秘書となんかあってたまるか。今日は忙しくて心に余裕がないだけだ。これからの打ち合わせでもだいぶ体力を消耗すると思ってるから、余計気が張ってるんだよ。」


「そうだな、今日の打ち合わせはお互い体力と気力を使うだろうから、短時間でぱぱっとまとめたいな。それから地味な秘書っているけど、素材はかなりいいぞ、あの子。磨けかなりの美人だと思うぞ。俺は地味だとは思わない。今までの秘書と比べると気遣いも抜群だしな。」


と聞いてもいないのに、澤田の感想を言ってくる。


その答えが何故か俺を不安にさせ


「あいつはお前の趣味じゃないよな。お前はもっと女性っぽくて上品な感じが好きだろ。澤田の話はいいから、仕事の話に入ろう。」


と無理やり話を終わらせて、図面を机に広げた。


さっきまでふざけた顔をしていた藤井もあっという間に仕事の顔に切り替わって、着々と今後のプロジェクトについて話を進めていく。


突然視界に砂糖とフレッシュが入ってきて、驚いて顔をあげる。


打ち合わせに集中しすぎて、澤田が部屋に張ってい来るのに全く気付かなかったようだ。


澤田が藤井にコーヒーとフレッシュと砂糖を差し出している。


「ありがとう。俺も社長もブラックコーヒーだから。」


と藤井は澤田に告げる砂糖とフレッシュを返している。


澤田と藤井が見つめ合っている姿にイラつき


「早く下がれ。」と言って、澤田を部屋から追い出した。


「健太、今日はやけにとがってるな。もうちょっと優しくしないとあっという間に辞めちゃうよ。」


と俺の気持ちを見透かしたような口調で話しかけてくる。


「今日は心身共にコンディションが悪いから、からかうな。仕事するぞ。」


俺の殺気を感じたのか、それ以上藤井は何も言うことなく仕事モードに切り替わった。


あっという間に時間は過ぎていたようで、ほぼ話がまとまったところで時計を見ると次の約束に時間が迫っていた。


「藤井、悪い。今日はここまででいいか。次の予定があって。」


「ほぼ話がまとまったし、詳細は明日もう一回来るよ。何時が開いている?」


「また来てもらって悪いな。」


と言いながらタブレットを見て空いている時間を告げる。


明日の予定がまとまったところ、藤井が帰る準備をして部屋を出ようとしたので俺も後に続いた。


ドアを開くと、澤田が慌てて立ち上げる姿が見えた。


「藤井様、本日はありがとうございました。帰りのご案内を致しますので、こちらへどうぞ。」


と藤井に笑いかけながら案内しようとしている。


「自分で戻れるからここでいいよ。ところで君はなんていう名前なの?」


と藤井が澤田に聞いている。


澤田が答える前に、気付いたら俺が答えていた。


「澤田だ。」


俺の声を聞くと一度振り返るも、もう一度澤田に向かって


「苗字なんてどうでも良いんだ。名前はなんて言うの?」


と言っている。


今度こそ澤田は恥ずかしそうにしながらも、しっかり藤井を見て答えいている。


「澤田葵です。本日より社長秘書となりました。ご無礼もあるかと思いますが、よろしくお願い致します。」


「葵ちゃんか。いい名前だね。これからちょくちょく来ることになるから、よろしくね。」


二人が楽しそうにやりとりしているのをこれ以上見たくなくて


「おい武、会社でふざけるな。俺は次の予定があるから、さっさと帰れ。」


と言いながら藤井の肩を押して出口に向かった。


後ろから澤田が追ってくる気配を感じたので「来るな」と言ったが付いてくる。


ムキになって追い返すのも変だと思い、気にせず藤井をエレベーターに乗せ見送った。


藤井は憎らしいほど、爽やかな笑顔で澤田に向かって手を振っている。


澤田は隣で深くお辞儀をしてエレベーターの扉が閉まるのを待っている。


エレベーターの扉が閉まった途端、さっきまでの笑顔が消えて真顔の澤田が隣にいた。


さっきまでの笑顔が俺には全く向けられないことに、またまたイラつき嫌味を言った。


「藤井に見惚れて秘書としてみっともないぞ。仕事中なんだから引き締めろ。色目を使うな。」


俺の言葉を聞いて、気に障ったのか俺を睨みつけながら


「そのように見えたなら、私の対応が間違っておりました。以後気を付けます。ただ、私が色目を使ったところ、藤井専務は私のことを気にすることもないかと思いますし、私もそんなつもりは1㎜もありません。」


「そんなことより次の会食までに時間がありません。下に車を呼んでありますので、直ぐに準備して出発して下さい。」


さっきまで藤井には笑顔だったのに俺に対しては睨みつけ、仕事の話しかしない澤田に怒りと寂しさを感じ、何かを言いたいが何を言うべきなのか分からず、混乱した頭の中を整理するために何も言わず部屋へ向かった。


部屋に戻ると頭の整理をしたかったが、さっき澤田が言った通り次の約束まで時間がなかったので慌てて鞄を掴み部屋から出た。


澤田はさっきのことは何事もなかったかのように、この後会食する方の情報を簡単に説明しながらエレベーターを待った。


俺がエレベーターに乗ると、先程と同様深く頭を下げる澤田の姿が目に入ったが、あっという間に扉が閉まった。


エレベーターで下に向かいながら、俺は今日一日で何回イラついたんだと思い返してみた。


常に今日はイライラしていた。


全ては今日突如現れた澤田のせいだということは分かっていたが、何故澤田にイラつくのか自分でも分からない。


こんなにもどうでもいいことで心が疲れたのは久しぶりだ。


この状態でこの後会食、二次会となることを思うと一層疲れたが、逃げることもできないので諦めてエレベーターを降り、迎えの車に乗って会食へ向かった。

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