第32話 暴走——side王都ギルマス・デーモ


 薄暗い石づくりの冷たい部屋。

 鉄の棒が綺麗に並んでいて、廊下と繋がっている部屋。

 常に監視の目がある部屋。


 カビと、かすかな腐臭が漂うこの牢獄にオレ、元王都ギルマス・デーモは捉えられていた。


 近くには、勇者アクファの面々がいたのだが、彼らはまだマシのようだ。

 厳しい尋問ではあるが、あくまでトカゲの尻尾のように切り捨てられたと判断されている。


 一方オレは、度重なる拷問による痛みで、夜も眠ることが出来ない。

 もっとも、陽の光など何日も見ていないので、もう日中のどの時間帯なのか分からなくなっていた。



「デーモ、尋問の時間だ」



 看守がそう言って牢の鍵を開け、オレを床に繋いでいる足かせを外した。

 オレは手枷と足枷により、歩き回ることもできないのだ。



「それで、あの魔導爆弾はどこで手に入れた?」



 拷問官が、鞭でオレの背を打ちながら尋問する。


 ビシッ、ビシッ。


 鞭が背中を打つ度に、引き裂かれるような痛みが襲ってくる。

 やめろ……やめてくれ。

 いくら言ったところで、尋問は終わらない。


 背中はミミズ腫れで酷い見た目なのだろう。

 意識が途切れそうになると、水を顔にかけられ強引に戻される。

 それをひたすら繰り返すのだ。



「だから……分からないんだ。

 いつの間にか、手にしていて、気がついたらアイツら、アクファ同名に……」


「そんな言い訳が通用すると思っているのか?

 あの魔導爆弾は、王国を危機にさらす危険なものだ。

 さあ言え! 誰から受け取った!?」


「だから……記憶が無いと……」


「じゃあ、なんで使い方を知っていた?

 アクファ同盟のやつら毎消そうと、わざわざ起動の呪文を偽って教えていたではないか!」



 そう言われても事実なのだ。

 さすがに、ここまでされて黙っているほど、


 ……頭痛がする。

 激しい頭痛だ。いったい何だ?



「おい、どうした?」


「ぐっ……頭が……頭が……」


「全部包み隠さず吐き出せば、痛みから解放されるだろう。さあ、言え!」



 遠のく意識の先で、拷問官がオレに鞭を打つ音だけが聞こえていた……。



 ☆☆☆☆☆☆



 気がつくと、手足が枷に繋がれた状態で牢屋に寝かされていた。


 どうやら拷問は終わったらしい。

 気を失ったことで終わったことなど一度も無いのだが……。



「へっ、お前……生きてたのか」



 口の悪い看守が、オレに哀れみの目を向けてくる。



「あ……ああ……そのようだな」


「いくら水ぶっかけても起きないから、もう意識が戻るなんて思われていなかったようだぜ?」



 なるほど、意識が戻らないから拷問が終わったと言うことか。

 お優しいことだ。



「ぐっ」



 オレはひっきりなしに続く背中、いや全身の痛みに気が狂いそうになっていた。

 こんなんだったら、意識が戻らない方がマシだ。


 ガシャン。


 鉄の扉が開く大きな音がして、誰かが入ってきた。

 見覚えのある姿、顔。



「よお、久しぶりだな、王都ギルマス・デーモ。

 いや、元、だったか」


「勇者アクファ様、手短にお願いします」


「ああ、分かった」


 キイ、と錆び付いた牢屋のドアが開き、その人物が入ってきた。

 勇者アクファ……。


 オレは床から起き上がる気力をもう失っていた。



「いいザマだな。デーモよ。

 大変だったなぁ」


「勇者アクファ……あんたがフィーグとかいう男を追放したはずなのに、どうしてオレがやったことになってるんだ?」


「はて? 何のことやら。お前がやったことだろう?

 だいたいお前が捕まったせいで、あのエリゼという騎士がギルドの改革を始めやがった。そのおかげで俺サマは収入が減ってしまったんだが?


 俺サマの印を付けた装備品も、全部田舎町に送られて精錬し直しているって話じゃないか?

 これで間抜けな冒険者の女を騙して抱けなくなってしまった。

 どうしてくれるんだ?」


「……お前……オレを陥れておきながら何を言っているんだ?」


「フン。俺サマをお前呼ばわりか……。

 まあいいさ、変に思い出されても面倒だしな」



 勇者アクファの瞳が妖しく光る。



「【勇者:祝福ブレス】スキル、起動」



 突然オレの身体が言うことを聞かなくなった。

 呼吸が速くなり、体中の傷がうずき出す。



「ぐッ……はっ?」



 言っていることと、実行するスキルがズレていると思ったが、その効果だけを見ると見事に一致していた。

 この身体の状態はまるで呪いのようだ。



「アクファ、お前……一体何を?」


「わはははは。どうした?

 我が勇者スキル【祝福ブレス】だぞ? もっと喜べよ!」


「く……苦しい。まさか、スキルが暴走しているんじゃないのか?」


「だったら……? それがどうした?」



 オレは息苦しくなってきた。

 呼吸は速まるのだが、息が吸えない。

 視界もぼんやりしてきていて、暗くなってきている。



「何ッ? お前……本当に……勇者アクファなの、か?」


「何を言ってるんだ?

 俺サマは何も変わらないぞ?」


「…………!!

 ぐぅ……」



 俺はついに呼吸ができなくなった。

 そうだ、看守は?


 見ると、あの口の悪い看守が眠っている。

 看守含め兵士たちは優秀で勤勉だ。眠るなんて事は今まで無かった……。

 いったい何が起こっているんだ?



「キサマ……勇者アクファ……貴様ァ!」


「まあ運が良ければ生きているかも知れないが……。

 いや、それは無いか」



 カツッ、カツッ……。

 勇者アクファの足音が遠ざかっていく。

 

 ガシャン……!


 扉が閉じる音を聞いた時、俺の意識は既に闇の底に沈んでいた。




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