第十九話 彼はとっても『粘着質』

~信とキュアーの戦いが終わった少し後~


 僕は、機動きどうさんからの呼び出しを受けて、黄瀬きのせさんとともにラボへと向かっていた。


「それにしても、今度は何の用なんですかね?」

「何も言われてないのか?」

「とにかく来てくれとしか」

「さっき、一緒に言えばよかったのにな。俺たちだけが呼ばれたのも気になるが」


 そんなことを話しながら、ラボへと到着する。


「おお~!わざわざ悪いね~~。何回も往復させちゃって」

「いや、それは良いんですけど、一体今度は何です?」

「いやまあ、キミに見せたいものがあってね」


 機動さんは、黄瀬さんのほうを向く。


「あ、キミは帰っていいよ」

「?」

「キミが、トレーニングルームから居なくなったほうが


 そう言い、彼はけらけらと笑う。


「あ、まあ今度個人的に話をしようとは思ってるから、その時にでも」

「……、そうか」


 黄瀬さんは、退出する。


 ——この人、本当に自分勝手だよなあ。


「それで…、僕に見せたいものって何ですか?」

「よくぞ聞いてくれた‼まずは、こっちに来てくれ!」


 彼は、なんだか興奮している。一体何なのだろうか?まさか、このままはしないだろうな…。まさかね。


 僕は、彼の誘うままに、ラボの奥のほうへと入っていく。


「時に、質問なのだが…。キミは、D.M.Sが…、倒した亜人をどうしていると思う?」

「どうって…、『拘束』するくらいしか知りませんよ」

「だよねえ。普通はそこまでしか知らないよねえ。でもね、拘束された亜人は、この奥の施設へと連れてこられるんだ」

「何のためにですか?犯罪者の更生?」


 機動さんは、指を横に振る。


「ノンノン。あながち間違いではないが、不正解だね。正解は、『実験』と『研究』さ」

「へぇ~」

「おや?あまり驚かないんだね」

「いやあ、そりゃあまあ。驚きはしますけど、その域を出ないっていうか…。まあ、あなたなら『やってる』だろうなとは思ってましたよ」

「HAHAHAHAHA‼なんだか、辛辣なことを言われたような気もするけれど、気にしない気にしない。ボクは、器が大きいからね」


 の間違いだと思うけどな。


 そんなやりとりをしているうちに、『奥の施設』へと到着した。


「これは…」

「どうだい?すごいだろう⁉」

「まあ、すごいですけど…。なんか、気味が悪いですね」

「気持ちはわかるよ」


 その空間には、たくさんの部屋があった。いや、部屋というよりは牢屋ろうや?前面にアクリルの蓋がしてある、たくさんの部屋が。こんなに、たくさんの亜人が存在していたなんて…。世間知らずとしても、これは驚きだな。


「ここでは、亜人についての研究と実験が行われている。彼らの、体の秘密とか…、能力とか…」

「まあ、わかっていて損はないでしょうからね。D.M.Sという組織の性質上、必要なことだろうとは思いますよ」

「キミは、高校生とは思えないほど落ち着いているねえ」

「もう、


 機動は、それを聞いて少し笑う。


「ふぅん、ま!ここでの研究をもとに、【チョーカー】やその他装備の開発を行っているんだ」

「なるほど。それで、僕に見せたいものって?」

「もうすぐだよ」


 彼は、ある部屋の前で立ち止まる。僕は、その部屋をアクリル越しにのぞく。


「ああ⁉テメエこの野郎‼」

「!キミは…」


 そこには、僕にとっても亜人が居た。


「【ペガメント】…‼」

「おうよ!このオレさまが、あのペガメント様よ‼って、なにやらすんじゃい‼‼」


 ペガメントが居た。なるほど、どこかに連れていかれてるなとは思ったけど、まさかここに…。


「彼は、とても面白いね~」

「ヒェ…!」


 ペガメントは、機動さんの姿を認識した瞬間に後ろへ下がる。


「な、ななな、なんでオメーも居るんだよお‼」

「『なんで』って、ここはボクのラボだよ?当たり前じゃない?」

「う、うるせえ!寄るな!このヘンタイ‼エロスケベ!」

「なはは、酷いね~」

「機動さん…、何やったんですか…」


 機動さんは、なんだかうれしそうに答える。


「いやなに…、体を調べさせてもらっただけだよ」

「なあにが、『ちょこっと』じゃい‼オレさま…、もうお嫁にいけねえぜ…」

「キミは、一応男だろう?ちゃんと、

「人のチンコ見て、に言われたくねえよ‼舐めんじゃねえよ、この野郎!」

「はっはー。なら、もっと見てあげようかな~?そうだな…、今度はスケッチでもしちゃおっかな~⁇」

「も、もうやめてくれえ…」


 僕は、なんだか申し訳なくなってきた。


「機動さん、泣いてるからやめてあげてください」

「む、もう少し遊びたかったんだけどねえ」


 ペガメントは、少し落ち着いたのか、調子を戻す。


「それよりも…、お前よくも…!オメーのせいで、こんなことになってんだろうが‼」

「いや、君が悪いと思うけど」

「うるせえ!舐めんじゃねえ‼」

「!」


 ペガメントの体が止まる。


 ——そう、僕は君のことを舐めちゃいない。


「僕は、君のことを舐めてなんかいない。それどころか、君に感謝すらしている」

「…、どういうことだあ?」


 僕は、ありのまま話す。


「君のおかげで、僕は。そして、君に勝つことが出来た。そして…、僕は今ここに居る」

「……」

「あの時、君に勝てたのはラッキーだったよ。運が良かった。君が、本気でかかってきていたなら、僕は負けていただろう。それこそ、手も足も出なかったと思う」


 ペガメントは、なんだかバツが悪そうだ。


「お、おう…。わかってんじゃねえか…」

「本当の君は、もっと強いと思う。その意味でも、僕の人生において、プラスになっているんだ。ありがとう」

「……、いや…、オレのほうこそ、このオレを負かす奴が居るのかって思ったよ。それこそ、こうやって褒められるとは思わなかった」

「なら、

「だな」


 今のペガメントには、この間のような迫力はない。なんだか、少年のような雰囲気すらする。


「だったらよぉ…」


 ペガメントは、一つのことを口に出す。


「いつか、リベンジをしてもいいか?」

「リベンジ…?」

「ほらよ、こう…、お互い全力でさ…。それに、オレさまは

「ああ…、それなら望むところだよ。もっとも、今度も

「あ……?テメー舐めてやがんな?」


 ペガメントは、少しイラついている。しかし、すぐに落ち着き、声を出す。


「でもまあ…、オメーのは…、

「僕も、なんだか悪い気はしない。友達って、こういうのを言うんだろうね」

「友達…?友達か…。そうだな!」


 彼は、なんだかうれしそうだ。


「いや~、なんだか盛り上がってるねえ~‼」


 機動さんが、割って入ってくる。


「キミたち…、本当に面白いよ‼でも、ペガメントクン…、リベンジって、どうやるんだい?」

「あん?そりゃあ、コイツと一対一サシで——」

「出れないのに?」

「あ」

「あはははははは‼」


 機動さんは大笑いしている。


「うるせえ‼なら、オレさまをここから出せばいいだけの話だろうが‼」

「キミは、バカだねえ…。それができるなら、キミはここに居ないよ」

「バ、バカ…⁉この野郎…、舐めやがって…!」

「でもまあ、方法はあるよ」

「⁉」


 機動さんは、一つの提案をする。


「いやあ、一部隊員にはすでに協力してもらっているのだがね」

「いいから、さっさと言いやがれ!」

「おー、怖い怖い。わかったよ。それはね…、人間と亜人が相棒バディを組むことだよ」

「バディ…?」

「機動さん、どういうことです?」


 機動さんは、また笑う。


「そのままの意味さ。人間と亜人で協力する。この場合、まもるクンとペガメントクンが組むことになるね」

「じゃあペガメントと…」

「じゃあ、コイツと…」


 僕とペガメントは口をそろえて叫ぶ。


「「組むってこと~⁉」」

「イグザクトリー‼」


 僕は驚いたが、すぐに決める。


「それも悪くないね。よろしく、ペガメント」

「……、まあ、オメーの弱みとか握れるかもしれねえからな…。ええと…」

「執…、【赤根あかね まもる】。よろしくね」

「おう。よろしくな、マモル」


 僕は、また楽しくなりそうな予感にときめいている。彼との出会いは、間違いなく僕にとってプラスになっているはずだ。それにしてもバディか…。いいね‼


「?」


 僕のデバイスが鳴る。

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