time 20 the another time

ショウはある休日に家で小説を書いていたが一向に進まず息詰まり、思い立って水族館に行った。

水槽の中で泳ぐ魚を眺めて、自分は深い青に包まれたような安らぐ気分になり、心を落ち着けた。

出口から少し離れたところで人だかりできていた。少し人の中に入って、パントマイムをする青年をボンヤリと眺めていた。

彼は定番の空中に見えない壁を出現させたり、見えないカバンに振り回されていた。


髪はブリーチしているのか白に近い金髪で肩まである先を頭頂部のやや後ろでで一つに括っている。背が高くて180センチ以上ありそうだ。身体つきは細いが袖を捲った腕は思いの外筋肉がガッチリある。

人好きしそうな爽やかな表情で辺りを見渡した。


「ありがとう!休憩します!次は30分後!次はジャグラー!暇ならまた見て下さい!」

彼は深くお辞儀をして大袈裟に伸ばされた手を地面に置かれた蓋の開いたトランクに指し示した。

少々の小銭と1000円札が数枚入っていた。


集まっていた人々がばらけていく。小さな子供が両手を握りしめてトランクの前に行くと手を離した。500円玉だろうか、コロンと落ちていった。

「有難う」子供に声を掛けてから後ろに立つ親に軽く会釈した。


古川祥一郎、通称ショウは観客が誰もいなくなってから近寄るとトランクを閉めようとした青年の手の先に1000円札を突き出した。

2人とも中腰で見つめ合った。


「おーきに」

青年は笑って金を直接受け取ったトランクに金を入れて蓋を閉めた。2人とも同時に背を伸ばし、そのタイミングのよさにお互い苦笑した。


「ご飯食べに行かへん?おごるよ」

青年はは全く物怖じせず初対面のショウを気軽に誘った。


ショウはは目を見開き、少し考えた風だったが、「じゃあ、お言葉に甘えよかな?」と応えた。


「ああ、でも荷物大きいから店入んの顰蹙かな?なんか買ってそこで食べへん?」

股下くらいまであるスーツケースがそばに置かれていた。

彼は今いるところからなだらかな半円を描く階段を指差した。

「それでええよ?」

「僕買うてくるから、その辺座っといて」

青年はガラガラとスーツケースを押してショウの横に置くと

踵を返して屋台が出ているところに小走りで行った。


しばらくして何やら包みやトレーを抱えて帰ってきた彼にショウはペットボトルのお茶を渡した。

「ごめん、飲みもん、持たれへんかった、ありがとな」

牛肉の串焼き、たこ焼き、焼きそば、コロッケと地面に並べていく。

「喉乾きそやな」

「でも旨そう。ゴチになります」ショウは手をパチンと合わせた。

男2人前を向いて食べ始めた。


「疲れた?」ショウが尋ねると「まだまだ大丈夫!」と元気な答えが返ってきた。

「水族館来んの初めて?」

「いや、3回目かな」

「魚好きなんや」

「いや、生臭いのは嫌いやし、食べへん」

「え、なんじゃいそら」

「水槽越しでええんや。どっちかと言うと水槽の水見てる。落ち着くんよ」

「確かにここは水しか見えへんとこ有るけど、ハッキリしとんな」

「海月好きやで。見てる分には」

「確かに触りたくはないな」

「海獣、イルカやアシカショーも好き」

「ペンギンも好きだろ?」

「泳いでるとこはね」

「じゃあ、海行くんは?」

「見るだけで、えーかな」


青年はたこ焼きをハフハフ言いながら飲み込んでから名乗った。

「今更感満載やけど、鳴島響なるしまひびきや。よろしゅうな」

「うん。僕は古川祥一郎。でもショウって呼んで」

「じゃあ、俺はナルシで。ナルシストの」

「ナルシストなんや、ナルシ」

「そや。自分第一主義」

彼は口の周りに付いたソースを手の甲でいい加減にぬぐって微笑んだ。


「まだ時間あるよね」ショウがナルシに尋ねた。

「…そやね、まあ、適当やから。20分位」

ナルシは食べ終わった後の紙屑をまとめて捨てに行った。

帰ってきたナルシに「ソース付いてるで」と人差し指で彼の唇の左横を拭ってやった。そのまま汚れた指先を口に含んで舐めた。


ナルシはポカンとショウを見下ろした。

「あのさあ」と言ったがそこで間が空いた。

「何や?」

尋ねられてもウーンとうなって黙っている。

ショウは返事を待ちきれなくなって言った。

「時間あるんやったらトイレ行っとく。また戻って来るさかい」

「いや俺も行くよ、トイレこっちや」被せ気味にナラシは言ったのでショウは少し驚いたが袖を引っ張られて早足で歩き出す。

切羽詰まってんのかな?振り解くのも不自然かと思ってそのまま付いていく。


『ああ、トイレでって、こういう事か』


ショウは個室のトイレで声を必死で押さえていた。

知り合いに性器を見られたくなくて小便だけだったが個室に入ろうとした。


ナルシはドアを開けて中に入るショウを後ろから押して自身も一緒に滑り込んだ。

突然で状況が分からないまま、長身で細身のくせにやけに腕の力が強い彼に逆らえず、片手で両腕ごと身体を抱きしめられると動かせなかった。


ナルシごとドアに背をぶつけたが、他の人が運悪く入ってきた為、思わず抵抗を弱めた。その隙にズボンとトランクスを下ろされ、男性器を袋ごと握り締められる。

「ひっ」思わず悲鳴が出た。


ナルシは彼の性器の小ささに気付き、「ああ」と声を出した。「それでこっちに来たんや。なーんや。てっきり誘われたんやと思うたのに」と楽しそうに言った。


カッと頬が熱くなった。

「違うから止めてーや」小声で抗議したが後ろからナルシは乗しかかると「まあ、ええやん?」と翔の耳に囁いてペロリと舐めた。


そしてショウは便座の蓋の上に両手を突いた体勢を取らされて後ろからナルシが伸し掛かる。

既に勃起して先から溢れてきたナルシの先走り汁だけで穴を広げられ、そこへ無理矢理突き入れてきた。


ショウは異物感と痛みを逃すようにうめいて身体を捻って離れようとしたが、余計便座の蓋に押し付けられて、ナルシは容赦なく腰を押し付け続けた。


ようやく全部が入った状態で腰を掴んだまま慣らすようにゆっくり揺らされていた。

「止めろや、抜けって!」ショウは小声で言い続けたが返事代わりに奥を突き上げてくる。その度に苦しくて吐息が漏れた。


誰かが部屋に入ってくると動くのを止めて抱きしめられて乳首を弄られた。

それを繰り返され、ショウが否応無く押し上げてくる快感に歯を食いしばって耐えた。

しばらくして今度は人が居なくなって直ぐに

「もう、出そうや」

と腰を強く掴まれ、注挿が激しくなった。


「あっ、止めっ、中出す気かっ」

「服、汚れるより、ええやろ?そろそろ次のやる時間やしっ」喘ぎながら答えた。

「ごめん、ショウ!」「ああ、熱いっ」

自分の性器を掴まれて思わず身震いしたその直後、最奥に押し付けられて射精された。


「最低や、お前おま!」言いながらも今度は勃起していた自分のを扱かれて呆気なく射精した。精液が便座の蓋に飛び散った。


息が上がって苦しい。拘束を解かれ、ずるりと性器が引き抜かれた。身体が離されると目の前が一瞬暗くなり呆然とその場にしゃがみ込んだ。

「あかん!」

ナルシは慌ててショウの両脇下から腕を差し入れると一気に持ち上げた。


「触るな」低い声で弱々しく言った。

「でも、そんな体勢になると出てくんで」

彼は片手でショウを優しく抱きしめ、もう片方で便座の蓋をあげると彼を座らせた。


ナルシは自分の服を整えると俯いているショウの頬に手を添えてそっとキスした。

それでも何の反応も見せないショウに軽くため息をついて

「ほな、俺行くからいくな

と声をかけた。


そして少し迷った後、自分のポケットから名刺を取り出してショウの手に持たせた。

「また会ってぇや。連絡して?」


「僕は恋人いるんや」握らされたままポツリとショウは言った。

「そうか、ま、仕方しょうないな。それでもええから。今更やけど。待っとるから」

ナルシは返事を待たずに出ていった。


ショウはすぐさま開きかけたドアを閉めて鍵をかけて、また座った。

少し下腹に力を入れると尿と共に尻穴から熱い液体が漏れ出した。やるせなくてシャワー付き便座だったので暫く温水を当てていた。


両手で身体を抱きしめてくの字に折った。


『馬鹿やな。それでも、僕は、いつ完成するか分からん話のネタになったって喜んでる。そんで、またナルシと会わなあかん』


こみ上げてくる涙を拭ってようやく立ち上がった。

便座をトイレットペーパーを重ねて拭いて全部流す。

手を赤くなるまで念入りに擦り洗ってから出た。


外へ出ると遠目にも人だかりに囲まれた彼の姿が見えた。クラブ(ボーリングのピンのような形をした物)を3本クルクルと投げ上げている。

近付くとナルシも気付いたのか、視線を合わせたままクラブを一本高く投げ上げた。他の2本を片手で回収して身体を一回転してから受け止める。

彼の髪が日光を受けて煌めいた。目を細めてそれを見る。


その次にブロックを三つ持って素早く入れ替える。

もうショウには目もくれない。その様子は全く危なく無く、ショウは歯噛みする。


せめて僕の事を特別に扱ってくれたら。

彼は僕をずっとぞんざいに扱うんやろうか。でも両親の様に腫れ物に触るように気を使われたくはない。


『僕は動揺して傷ついたのに、お前は平気なんやな』

口だけを動かして彼に向かって言うと背を向けた。

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