その10

 ドアを開けると、そこにいたのは春子さんだった。

「うぇ~い先生、今だいじょぶ~?」

「あれ、ファルコンじゃん、どした~?」

「ファルコン!?」

 またタメ口だし、それどころか変なあだ名で呼んでいる。だから何で短時間でそこまで打ち解けられるんだ……さすがはインチキ霊能力者・禅士院雨息斎、恐るべきコミュ力である。

「怖いから来ちゃった~えへへ」

 こんなときでも春子さんはホワホワしている。

「いいの~? ファルコン、叱られるんじゃないの~?」

「へへへぇ。で、どう先生? 一郎兄の幽霊とか出たぁ?」

 春子さんは勝手にベッドサイドから椅子を持ってくると、先生の隣に座ってしまった。

「あれ、お父さんじゃなくて一郎さんの方なんだ」

「うん。だって一郎兄さ~、死んじゃう前に何かすごい悩んでるっぽかったからぁ、自殺じゃないかと思っててぇ。理由とかもわかんないままだし、なんかそういうひとって化けて出そうじゃん? まぁ警察は事故って言ったみたいだけど~」

 軽い。これが素なのかもしれないが、内容に反してあまりに口調が軽いよファルコン。

 それはともかく、彼女の証言は気になる。もし一郎氏が自殺するほど重大な問題を抱えていたとしたら、それは今回の事件にも関係があることかもしれない。こと家族の問題で悩んでいたとすれば無視できない。

「え〜そうなん? そういうの助かる〜」

「お、お役立ち情報だった? うぇ~い、あざーす」

 先生が春子さんの口調を露骨なほど真似るので、話の内容とは裏腹に、雰囲気だけは異様にフワフワしている。

「ところでファルコンさ〜、こんなとこで油売ってていいの〜? さすがに二郎さんの手伝いとかあるんじゃない?」

「あー大丈夫大丈夫〜。会社のことはたぶん二郎兄が全部やっちゃうからさ〜。そういう系のひとだからぁ」

「へー、大変じゃない? 二郎さんさ〜」

「まぁ一郎兄が死んじゃってから超ピリピリしてるよね〜仕事のことは引き継ぎとか色々あったっぽいし〜」

 おれはちょっと心配になってきた。会話の内容はともかく、こんなノリで大丈夫なのだろうか? 事件を解決するとか以前に、不謹慎だと叱られるような気がしてきた。

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