第3話 幼少期のましろ①

 ここで、卯月ましろの幼少期についてお話します。

 あくまでも主観の話であり、客観的に見れば「お前はそんな人間じゃない」と言われかねませんけれど(笑)




 それなりに裕福な家庭の末っ子として生まれて、しかも祖父母まで同じ世帯で暮らしていたこともあり、めちゃくちゃに可愛がられて育ちました。


 4つ上のましろ兄と、10歳上のましろ姉。

 母が私を産んだのは35歳の時で、同級生のママさんと比べると、やや高齢でした。


 労せず「愛され末っ子」の地位を確立した、幼少期のましろ。

 私は「もしかしてましろ、お姫様なんじゃない?」と勘違いするレベルで増長していました。


 家では何をしても許されて、何をしても好意的に受け取られて。

 通っていた幼稚園でもモテにモテました。幼稚園カーストがあれば、間違いなく一軍だったと思います。


 子供の間はね、顔なんて関係ありません。ちょっと明るくて足さえ速ければ、男女問わずにモテるんです! 中高生になれば、ただ走るのが速いブスですよ! ←


 しかも発育がよかったお陰で、同年代の子と比べると背が高く、それだけでスタイルがよく見えたそうです。

 縦に伸びれば、そりゃあ周りと等身が変わりますから。


 モテ期は人生で三度あると言われていますが、私は小学2年生までの間に全て使い切りました。確実に。



 家でチヤホヤ、幼稚園でチヤホヤ。

 親戚に会うたび猫を被れば――人前に出る時にお行儀よくすると、母が喜ぶことに味を占めたのです――「礼儀正しい」「愛想がいい」「賢い」とおだてられました。


 負の感情を向けられたことがなければ、増長するしかありません。

 創作キャラの中にも居ますよね、「ワタシちゃんはえらいし、皆から好かれてるんだよ! だから皆、言うこと聞いてくれるの!」と勘違いした、ワガママ放題の女の子が。


 ただ私の場合は、もっと変に拗らせてました。


 まず10歳も上の姉が居れば、同世代の子と比べて知見が広がりますし、頭の回転も速くなって当然です。

 私の場合、漫画やゲーム、アニメの嗜好も10歳上まで引き上げられました。

 ある意味流行りのチートみたいなもんですよね。兄弟チートと言うのでしょうか?


 周りの子がアンパ〇マンやキ〇ララで盛り上がっている時に、私は家で兄姉がプレイする「ドラ〇ンクエスト」とか「ファイナ〇ファンタジー」とかを見てたんです。


 アニメも当時の中高生向けのものを一緒になって見ていたので、段々と思考が「年相応」からかけ離れて行くんですね。

 ませガキの中のませガキ、エースオブませガキです。


 ませガキだったましろは、幼稚園時代に妙な精神に目覚めました。

「人が「やりたくない」って嫌がること、できないことを平気な顔してできたら、ソレってめちゃくちゃ格好良くない?」と。


 なんかこう、自分のことを物語の主人公みたいに思ってたんですかね。

 子供特有の全能感に、まんまと支配されていたのです。周りの子より厨二病に罹患りかんするのが早かった、とも言えます。


 主人公って人ができないことをしたり、皆がやりたがらないようなことを強いられる、選ばれし者じゃないですか。そういう存在になりたかったんだと思います。


 幼少期の私はエースオブませガキ、プライド高い、負けず嫌い、勘違い、ナルシス野郎だったのです。負の属性が大渋滞しています。


 虫が怖い、触れないと泣く子が居れば「なにが怖いの?」と鷲掴んで、遠くへポイできるのがカッコイイ。


 転校ならぬ転園してきたばかりで友達ゼロの子、引っ込み思案でモジモジしている子、いつも遊んでる子と喧嘩してハブられている子が居れば、誰よりも先に話しかけて一緒に遊んであげるのがカッコイイ。


 注射が怖いと泣き叫ぶ子供たちの中で、唯一澄まし顔するのも外せません。

 むしろ「は? 注射が怖いの? なんで? ましろ好きだけど?」みたいなことを言っていたような気がしますが、それはそれで大問題です。

 本当に恥ずかしいガキです。


 目立つの大好き、「みんな」と逆を選ぶのが大好きな天邪鬼。それが幼少時の卯月ましろという人間でした。


 ――しかしその調子こきも、小学校1年生で両想いだった男子からいじめられた時に、ようやく目を覚まします。


 私と同じく足が速いだけでモテていた男子。

 その子のことが好きで、向こうも満更でもない感じで仲良くやっていたんですが、ある日突然人が変わったんですね。


 外で遊んでいたら顔面に虫を投げつけて来るとか、いきなり無視してくるとか……軽く小突かれるとか。

 通学路も違うのにわざわざ私のあとを追って、「おいブス、勝手に帰んなー!」とか言ってくる訳です。


 あまりのショックと、今までにない経験をした驚きで――何せ、今まではいじめられた子に手を差し伸べて、悦に浸る側でしたから――私は小学校1年生で不登校になりました。


 好きだった子に手の平を返したようにいじめられて、学校が怖くて嫌なところになったのです。

 その男の子と関わるのはもちろん苦痛で、他人の目や、人の見えない意識まで気になるようになりました。


 それなりに仲良くやってきたと思い込んでいた男子が、突然変わったのです。

 知らずの内に私が悪いことをしたのではないか? それすら気付けないとは、私はゴミみたいなダメ人間なのではないか?


 そんな罪悪感に苛まれました。


 いじめられたなんて母に言うのが恥ずかしくて、ただただ「学校なんて行きたくない!」と主張した末、顔を叩かれたこともあります。

 親に殴られたのなんてソレが最初で最後です。

 しかも私を殴った母の方が「――子供を叩いたことなんて、一度もなかったのに! どうして学校行ってくれないの!」と取り乱して、号泣する始末。


 母が子に手を上げたのも、ソレが最初で最後でしたね。

 最終的に「行きたくない」だけでは納得してもらえず、訳を話せばすぐ学校に連絡して、「我が子が○○くんにいじめられてる、なんとかしてくれ」と相談してくれました。


 ……今だとモンペ(モンスターペアレント)になるんでしょうか?


 翌日には件の男子とその母親が家まで謝罪に来て、私はまた嫌々学校に行くようになります。


 まあ結局、男の子が言うには「ましろちゃんが好きだったから、気を引きたかっただけ」らしいんですが……その告白を聞いても私の精神はボキリと折れたまま、二度と立ち上がりませんでした。


 もちろん男の子のことは大嫌いになりましたし、告白されても謝罪されても「無理」のままです。


 あれだけ調子こきだった卯月ましろは死んで、以降は人の目を過剰に気にして、人と違うことをして目立つのは「危険だ」と判断するようになります。

 調子に乗って目立ったからこんな目に遭ったんだ、私が全部間違ってたんだ――ぐらい深刻に思っていたんですね。


 臆病を拗らせて、自己防衛に走るのです。


 こうして没個性を通り過ぎて、すぐ不安になる超絶ビビリが爆誕。

 エッセイの初めに「HSPの方は閲覧注意」と書きましたが、実は他でもない私がHSPなのです。


 HSPとは、生まれつき非常に感受性が強く、敏感な気質をもった人のことです。

 統計的には5人に1人はあてはまる「性質」のようなもので、今ではそう珍しくもありません。


 生まれつきとは言っても遺伝というよりは、もって生まれた「感覚」なんですかね? その辺は詳しいお医者さんに聞いてください。


 空気を読み過ぎて1人で疲れる。物音、光、匂いから何から刺激を受けやすい。

 人や物語に共感しやすい。心の境界線が脆い(他人事をまるで自分の事のように受け取って、意志を引きずられやすい)。自己否定が強い、などなど……。


「いや、お前小さい頃は調子こきだっただろ」と思われるでしょうけれど、実は元々「気にしい」なところがあったのです。


 だから同じ空間に1人でもハブられている人間が居ると気になるし、なんだかそういう……例え自分に直接関係なくとも、「同じクラスでいじめが横行している」「1人ぼっちが居る」だけで、ヒリヒリして落ち着かないのです。


 その異常な雰囲気がこの上なくストレスで、神経を尖らせて、勝手に疲弊してしまう。

 だから手を差し伸べるだけで解決できる話なら、いくらでも手を差し伸べる。


 虫に怖がって大声を出すお友達を助けるのも、本当はただ静かにして、落ち着いて欲しいだけ。

 注射でピーピー泣いてる子も、「こんなことで泣いてるのは恥ずかしいよ」的な姿勢を見せて、落ち着いて欲しいだけ。


 周りが嫌がるような地味なこと、汚れ仕事などを進んで引き受けたのだって、その事柄を皆で押し付け合って騒ぐ時間がストレスだったからです。


 やりたくない演劇の配役が気に入らないからって、ずっと教室の隅で泣いているような子、居るじゃないですか。

 ああいうの面倒くさいと思っちゃうんですよね。空気、雰囲気、人間全て――そして、そんなよく分からないモノに振り回される自分も。


 だったら最初から私がやるよ、お前らは好きなことをやれば良いじゃないかと。


 ヒーロー願望も確かにありましたが、私はただ自分の心に平穏を取り戻したかっただけなんですね。


 しかし年齢を重ねれば、ただ手を差し伸べるだけ、仕事を請け負うだけで解決できることばかりではなくなります。

 しかも私自身、幼少期にいじめられたことにより、心が折れて立ち直れなくなっています。


 だからヒーローに憧れるのはぴたりと辞めて、少しでも静かに、平穏に、目立たぬよう生きるようになったのです。

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