第8話 甘い物でスマイル

Side:ショウセイ

 朝飯だ。

 何かのチーズと俺が出した食パン。

 それとスープとウィンナーと温サラダ。


 献立はこんなだ。

 バランスは取れていると思う。

 だが、香辛料がないせいで今一つだ。

 ハーブがその代わりなんだけどね。


「もしかして香辛料って高い?」

「ええ、物凄く」


 ジェシーさんが答えた。


「簡単に出せるけど」

「やめておいた方が良いわね。商人に話が伝わると、邪な考えを持つ者がきっと出て来るわ」

「じゃ、ハチミツは?」

「贅沢品だけど、食べられないって程ではないわね」


 俺は試しに100均のハチミツを出してみた。


「ハチミツ好き」


 クロエちゃんがハチミツを手に取ってにっこり笑う。

 スマイル100円頂きました。


「悪いわね」


 ジェシーさんからも頂きました。


「俺も良く森にハチミツを採りに入ったものだ。貸してみなさい」


 シンタさんがハチミツをパンにつけて食べた。


「美味いな。久しぶりに食べたよ」


 シンタさんからスマイル100円頂きました。

 三人家族だと100均のだと大幅黒字だな。

 配るのならスーパーの300円ぐらいのでいいか。

 3個ハチミツを出した。


「クロエ、食べ終わったら、おすそ分けに行って」

「うん」


「ハチミツばかりだと飽きるからジャムも出すよ」

「ごめんなさいね」

「いえいえ、出した物を美味しく食べてもらうのが、一番嬉しいんだから」


 みんなで88円のイチゴジャムをパンに塗って食べる。


「甘ーい」

「これ砂糖が入っているわよね。ただ煮詰めただけじゃ、こうはいかないわ」

「美味いな。果物の味が引き立っている」


 スマイル100円をみなから貰ってまた黒字だ。


 これも3つ出しておこう。


「ジャムは家庭で作りますよね」

「ええ、でも砂糖を入れないから、あんまり甘くないし日持ちがしないわ」

「砂糖も安く出せるんですが」


「転売する人がいっぱい出そうね」

「割安で販売してお金を取ったら良い」


 シンタさんがそう言った。

 なるほど。

 ただで配る事だけを考えていたけど、格安で売ってもスマイル100円は手に入るのか。


「じゃお試しってところで」


 砂糖一キロ168円のを出した。


「これだと普通に売ると銀貨10枚はいくわね」

「格安で売るとして銀貨8枚でどうかな」

「良いんじゃない。感謝されるわよ」


「私、見本を持って注文を取る」

「クロエちゃん、できるかい。メモやペンを出すけど」

「私、字が書けない」


 識字率を考えてなかった。

 こういうのはコピー用紙に村人の名前を書いた券を作る。

 そして注文を取ったら券を渡す。

 券の在庫を確認して発注を知るというのはどうだろうか。


 あっ、しまった。

 クロエちゃんは村人の名前を読めないんだった。


 家の前に100均のホワイトボードを置いて注文を取ったら印をつけるか。

 それだと、いたずらされる事もありそうだな。

 そうか100均の印鑑を出して、村人に持ってもらえば良いんだ。

 クロエちゃんは注文を取る時に印鑑を押してもらう。

 これでいいな。


 日本語の名前と村人の名前の変換表がいるけど慣れればどうって事はない。


 俺は100均のコピー用紙に砂糖の袋の絵を描いた。

 朱肉も100均のを買って、適当な印鑑を何本か買う。

 よし準備完了だ。


Side:クロエ


 ショウセイの仕事をお手伝い。

 今回はショウセイが付いて来てくれるみたい。


 一軒目はソルさんの家だ。

 扉をノックした。


「誰かと思えば、クロエちゃんかい」


 ソルさんの奥さんが出て来た。


「ショウセイのおすそ分けに来たよ」

「ありがとね。ショウセイさんによろしく」

「こんにちは。巡礼者のショウセイです」

「なんだい。あんたがショウセイさんかい。おすそ分けありがとう。後でみなで頂くよ」


「実は路銀が尽きまして、今日は商売に来ました。次からはクロエちゃんが注文を取るのでこの印鑑を押して下さい」

「へぇ、印章かい。これをくれるのかい。お貴族様になった気分だよ」


 ソルさんの奥さんは嬉しそう。

 ショウセイも嬉しそう。

 きっとスマイル100円というのが貰えたんだ。


「売り物はこれ。砂糖で銀貨8枚。注文を貰えれば俺が後で商品を持ってきますんで、その時にお金と引き換えです」

「安いね。せっかくだから買ってみようかね」


「クロエちゃん出番だ」


 朱肉という赤い物の蓋を開ける。


「押して下さい」


 奥さんは朱肉に印鑑をつけ、砂糖の絵が描かれた紙にギュッと押した。

 ショウセイは何やら書いている。


「何しているの?」

「名簿を作ってるんだ。ソルさんの印鑑は鈴木だよ」

「へぇ」


 分かんないけど、役に立った気分。


「私、役に立った?」

「当然だよ」

「えへへ」


 ショウセイのお嫁さんに一歩近づいた気がする。

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