第34話 絶対優勝して帰ったんねん

当日_________


「もーしもーし。伊織ー。もしかしてもうついてる?」


『ううん、もうすぐだね。そっちは?」


「ギガンティック聴きながら士気高めてる。」


『いいねぇ。なんだかボクが緊張してきたんだけど笑笑。」


「おおまじか笑笑。俺、たいしてやな。俺家族に送迎頼んだんやけど、伊織ってなにで来てるん?」


『兄と2人で、チャリできてるんだ。ね、兄ちゃ…、いや…兄貴。」


『そうだよー。ここに伊織ちゃんの兄ちゃんがいるよー。」


『もう、あんまりでしゃばらないでって言ったじゃん!」


「わっはっは!楽しそうでなによりや。まぁ今日は応援来てくれてありがとうな。感謝致す。楽しんでいってくれぃ。」


『うん!楽しみにしておくね!」


そんな電話がついさきほどまで繰り広げられていたのだが、いざ会場につくと、やはりあの圧に一瞬苛まれてしまう。


ガヤガヤしつつも緊迫した異様な雰囲気。


厳かに目の前に聳え立つ会場。


ミット打ちの、弾けるような気持ちの良い音。


遠くから聞こえる誰かの怒号。


そしてなにより、これだけ大口叩いといて1回戦負けしてしまうのではないかという不安、もっと練習したらよかったなどという今更ながらの焦燥感。


開館するまでまだ時間はあったので、車から降りて伊織を探すことにした。


「じゃあ俺、頑張ってくるわ。」


「おう、いってらっしゃい。」


「肩の力抜いてね。」


「頑張ってね!にいにのこと応援してるよ!」


「勝たなかったらアイスちょうだいね。」


クソ生意気な弟もさておき、家族の声援を胸に、車から降り立った。



「さぁ荷物も準備満タンやし、伊織探すか。」


なんか…こう探していると、入学式を思い出すなぁ。

懐かしい。あの頃は高校の不安がありつつも、期待と希望に胸膨らませてたからな。あとは初の友達、伊織やな。

やっぱ知ってるやついないか探してしまうよね。


そしてなんだか…もっと昔……懐かしい気がする_____


と、物思いにふけていると、


「おーーい!景一ぃぃぃいいいい!!!」


「おぉ!伊織!…と、お兄さん!」


「おはよう。兄さんも来ちゃったぜ。」


「ほんっっっとに、静かにしといてね。」


「わかったわかってるよ。」


「まぁ兄貴のことは気にしないでね。」


「お…おうわかった。」


「いやー景一くん、頑張ってね。俺たち兄妹応援しとるからな。」


「ありがとうございます!っとしてると、開館時間来ましたね、いきましょう。」


「いこーう!」


「楽しみだなー。"久々"に生でみるものなぁ。」


不安ありつつも期待を膨らませて、入館_____



___________



「うぉ〜!!懐かしすぎるやんけ!!!」


「うぉ〜!!」


「ひゃ〜!!!いいねえ〜!」


とりあえず準備室に入り、もうパンフレットが配布されていたので受け取った。


「あ、俺おった。ええっと……っ!?」


「どうした?景一。」


「久々にみるメンツやんか〜。すんげえ懐かしい!ヤバい楽しくなってきたフゥー!」


「もうパリピじゃん。」


「白蓮の片棒担いでるからには本気出さんと恥やからな。先生の顔に泥塗っちゃあいけまへんからね。」


「そうだね。でもだからといって、ガッチガチに緊張しちまったら終わりだよ。まあ気楽にね。」


「せやな。え〜っと、試合開始ーは、え?早くね?9時半からやってさ。」


「おお、今8時半だね。開会式が9時からだから、ホントにすぐだね笑笑。」


「ホンマにな笑笑。んなら俺ちょっくら先生に挨拶いってくるわ、じゃね〜。」


「バイバ〜イ…。」




「おぉいっちゃった。」


「伊織、お前は今日、景一が勝てると思うか?」


「ボクは思うよ。」


「そうか〜やっぱ思い人は信じるべきってか?」


「兄ちゃんあとで、ね?」


「ごごごごごがごががごめんなさいすみませんでした。」


「まぁ…事実なんだけど。でも1人だけ手強い相手がいるんだよね…。」


「ほう…どんなタイプだ?」


「景一の苦手な…素早さと手数タイプ。」


「あぁ確かに苦手だったなぁ…。まぁ信じるか。」


____________


「さぁ開会式も終わったことやし、ちょいアップするわ。シャドウしてイメトレするわ。」


「なんなら、俺が持とうか?」


「え、いいんですか!ありがとうございます!」


「おう、いいぜ。まぁ俺も大人だ。おそらく受けれるはず。」


「嬉しい…!じゃあお願いします!」


「頑張ってね!景一!」


「っしゃあ!!絶対優勝して帰ったんねん!」


_________


そこからは早かった。


伊織のお兄さんがミットを持ってくれて、練習を思い出しながらじっくり且つ丹精込めて励んだ。


そうしていると、もう試合に呼ばれてしまった。


サポーターは高校生からはない。


素手素足のバチバチ勝負。


「俺のやるコートはここのBコートやな。まぁええ感じのとこで見といてください。できれば応援とかもよろしくお願いします。」


「任せて!景一!勝ってくるんだよ!」


「大丈夫…お前ならいけるぜ。」


「っしゃあ!」


俺は高らかに天を仰ぎ、そして拳で胸をたたき響かせた。


「景一…最後にいい?」


「おう、なんや?」


「景一…その……。」


と、言って、無言で俺の胸に拳を当ててきた。


「景一…、君にはボクたちがいるから、安心して…楽しんできてね!」


「おう、いってくるぜ!」


なんだかすごい懐かしい気分になった。



っと、自分の過去が電気のように脳内に行き渡った。



昔もこんなふうに…やってたような…。



ん…まさか…。いや…どうなんやろ。



今ホンマにふと思っただけやけど…





俺の昔勝たれへんかった相手って…伊織……?






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