5話。エルフ王国の内乱を収めることにする

 亡くなったコレット王女の護衛たちを、穴を掘って埋葬する。

 俺のスキル【植物王(ドルイドキング)】で召喚した桜の木を植えて、樹木葬にした。この桜が、彼らが眠る場所のシンボルとなる。


「ありがとうございます、ご主人様。これで彼らも、安心して眠れると思います。

 エルヴィン、クラウス、フローリ、ロルフ……どうか、安らかに」


 コレットが目尻に涙を浮かべて、手を合わせる。

 護衛たち、ひとりひとりの名前を言ったのには驚いた。


 王侯貴族にとって、家来などいくらでも代わりのいる駒でしかない。ふつうの王侯貴族は家来の名前など、いちいち覚えてやしない。まして、その死を悼んで涙を流すなど、有り得ない。

 どうやらこの娘は、希少な価値観の持ち主のようだ。


「……良かったら、事情を話してもらえないか? コレットは、なぜ襲われていたんだ?」


 敬語は不要と何度も言われたので、俺は根負けして砕けた話し方をした。

 こちらの方が、話しやすいのは事実だ。

 

「はい。すべては長く続いた不作のためです。なぜか作物の実りが、ここ数年、極端に悪くなり……食糧難に陥った我が国を救おうと、魔法騎士長団長キースは、人間の国を侵略することを強く提案しました。

 お父様が『それは平和を愛するエルフの所業ではない』と反対したところ、キースは謀反を起し、お父様を幽閉してしまったのです」


 コレットは肩を震わせ、辛そうに語った。

 原因不明の凶作は、ルシタニア王国でも起きていたが、エルフの国でも同じようだ。


「王を殺すのではなく、幽閉か……うまいやり方だな」


 王を幽閉すれば、王に忠誠を誓う一派に対する人質として使え、反発を抑えることができる。


 逆に殺してしまえば、国王派はコレットを新しい女王に担ぐだろう。そうなれば内乱が長引くことになり、他国を侵略するどころではなくなる。

 キースというのは、なかなかの切れ者のようだ。


「はい。わたくしはエルフ王の証である神剣ユグドラシルを、お父様にたくされて逃亡しました。

 これがわたくしの手元にある限り、キースはエルフ王を名乗ることができないからです」


「それがこれの剣か……」


 俺は腰に下げた神剣ユグドラシルに視線を落とす。

 信じられないが、天界にあって世界に恵みをもたらしているという世界樹から創られた剣だそうだ。植物であるため、俺のスキル【植物王(ドルイドキング)】と相性が抜群だったようだ。


 大地を割り、ドラゴンを一刀両断する攻撃力。所持者を癒やす付加効果。まさに神域の武器と呼ぶにふさわしい。


 こいつを使いこなせば、剣聖の弟ゼノスや闘神の親父すら超えることができるんじゃないか?

 その予感に胸が熱くなった。


 そのためには剣の腕を磨くだけでなく

、もっともっと【植物王(ドルイドキング)】のスキルを進化させないとな。

 実はちょっと試してみたいことがある。


「ご主人様、どうか神剣ユグドラシルのマスターとしてエルフ王を名乗り、わたくしたちの国を救ってはいただけないでしょうか?

 わたくしは王妃となって、ご主人様を精一杯お支えします!」


 コレットは俺に必死に頭を下げた。


「エルフ王を名乗るのは、お断りだが。そのキースってヤツを倒すのには協力したいと思う。だから、この神剣ユグドラシルを俺に……」


 俺が最強を目指す上で、この神剣ユグドラシルは必要不可欠だ。

 だが、さすがにタダで神剣を譲ってもらう訳にはいかない。

 

「あ、ありがとうございます! では王位は、わたくしたちの子供に継がせましょう! さっそく今夜から、こ、こここ、子作りを!」


「だぁあああっ! だから、それは早すぎるというか、ちょっと待てぇッ!」


 コレットはいろいろな意味で、希少な価値観の持ち主のようだ。


「早すぎる。ということは、いずれわたくしとの間に子を成していただけるのですね! は、恥ずかしいですが、うれしいです! 一生懸命がんばります!」


 頬を上気させて、コレットが迫ってくる。

 顔を近くで見ると、ホントにこの娘はかわいい。って、危うく理性がぶっ飛びそうになった。


「いや、そういう意味じゃなくてだな!」


「あっ! そういえば、わたくし、どうやったら、子供を授かることができるか、良く知りませんでした。ご主人様、教えていただけませんか?」


 おい、これ天然なのか?


「はぁ!? そ、それは……男女が真剣に愛し合ったら、コウノトリさんが運んで来てくれるんだぁ!」


「では、真剣に愛し合いましょう! ご主人様、大好きです!」


 コレットが俺に抱きついて来た。

 少女の温もりと、花のような甘い香りが鼻孔をくすぐる。


「だぁっ! だから、過程をすっ飛ばし過ぎなんだよ!」


 俺は慌ててコレットから離れた。

 美少女に好かれてうれしいのだけど、こんな強引なアプローチは困る。もう正直、気が休まる暇が無かった。

 神様、俺、何か悪いことをしましたか?


「あるじ様。馬、見つけて来た。何、やってるの?」


 獣人リルが馬を引きながら、やって来た。コレットが乗っていた馬車を使えるように、逃げた馬を見つけてきてもらったのだ。


「リル、助かった! さそっく、馬車を使えるようにしよう」


「うん! あるじ様に喜んでもらえて。リル、うれしい」


 リルは無邪気な笑顔を浮かべる。

 リルに横転した馬車を起こしてもらい、俺は馬車に馬を繋いだ。

 馬は何やら不満そうだったが、餌となるニンジンを出現させて、機嫌を取る。


 馬車の車輪などは、傷んでいないようだ。

 これなら、走行に問題ないな。


「さすがは、ご主人様です。もう馬車を使えるようにしてしまうなんて!」


 コレットも手を叩いて喜んでいた。

 俺とリルだけなら大丈夫だが、お姫様育ちのコレットは馬車がないと、しんどいだろう。


 それにこの馬車は、壁にミスリル装甲板を使用し、物理攻撃にも魔法攻撃に対しても高い防御力を備えている。


 さすがはエルフ王家の馬車だな。いざとなれば、この中に立て籠もって身を守れるようにできていた。

 これからの旅に大きく役立ってくれるだろう。


「よし。これでまずは、この森から脱出しよう。それからリルの服を買うために街に向かうぞ」


 確か、この近くには俺の故郷のユースティルアの街があったハズだ。知人の服屋に顔を出せば、服を安く買えるかも知れない。


「はい!」


「うん」


 ふたりの少女の賛同の声が響いた。

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