不足しているもの

私は主人のところに行った。真一が伝言を伝えてくれたから私は人間として向かっている。ここで真一と初めて会った。少しだけ懐かしく感じる。

「ただいま帰りました。」

これが普通の挨拶だった。過去形だ、全てが。

隆さんは書物を読んでいた。私の姿を見ると少しだけ喜んでいた。

「晃。無事だったのか。」

「はい。私は無事何とかやっていけました。」

私は今となってはお尋ね者になってしまった。二度と逢えないと思っていた。

「なあ少しだけ時間はあるか。少しだけ話がしたい。」

私はrightでの生活を洗いざらい吐いた。正直に犯罪行為も仲間の事も。責めることなく全て受け止めてくれたらしい。

「なあもう少しだけ戦ってくれないか。理想郷を創るために。わしは老いぼれだから何も出来ないけれど。」

「人と分かり合えるそう信じて私は行動しました。けれども社会はちっとも言葉を傾ける気はない。私はただ分かり合える社会を創りたいだけ。暴力では何も生まない事は分かっています。どうすればいいですか。」

気がつけば私は泣いていた。今まで溜まっていたものが弾けた。

「晃。自由とは何だと思う。何でもうまく行く事欲望を全て叶う事。全部違う。自由とは相手を尊重し合う事。その為には相手を思いやる心が大切なんじゃないのか…それが今の社会には不足している。…まあダメだったら戦うしかないんだけどな。」

「それが愛というものですか。」

「そうかも知れないな。」

隆さんと話したお陰で心が軽くなった。

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