第3話 旅途中で
春の晴れた日、僕らを乗せ引っ越し業者のトラックは走る。高速道路を順調に走っていたトラックは、トイレ休憩のためにサービスエリアに寄った。
トラックに揺られるうちにいつの間にか、夢の世界に入り込んでいた僕は、
「お兄ちゃんっ。お兄ちゃーん」
「兄にぃ、兄にぃ。起きてぇ」
「うっ、うーん……」
んっ!?
目が覚めると、僕の膝の上には尻尾が二本で虎みたいな模様の猫が丸まっていた。
「ねっ、猫!」
「あ〜猫ちゃんだ。兄にぃ、この間見た猫ちゃんだよ」
猫は僕の膝上からタンッタンッと軽やかに飛び降りてトラックからも、ササッと飛び出し、サービスエリアの露店の方に行ってしまった。
「どこで乗ってきたんだろう?」
「美空と彩花にも見えたの?」
「うん。尻尾が二本なんて、変わった猫だね」
「兄にぃ、姉たん。猫ちゃんね『アゲカマボコ』って書いてあるお店に行っちゃったよ」
変な猫だったな。
僕もトラックを降りて、数時間ぶりに大地に足をのせると足の裏にコンクリートの感触が伝わってきた。
ぐるっとあたりを見渡すと、大きな橋と海が見えている。
僕はググーッと体を伸ばした。
彩花は、自動販売機の前にいるおじいちゃんの所に走っていってしまった。
美空がじっと見上げるように僕を見ている。僕は不安げな顔してる妹の顔に胸が痛んだ。
「お兄ちゃん、私。新しい学校やだな。ホントはすごくイヤなの。転校なんて怖い。彩花にもおじいちゃんにも言わないでね」
美空の目には涙がいっぱい溜まっていた。僕は強がっていたって美空はとても繊細な部分を持っているのを知っている。美空本人はそれを『臆病』だとして、人の前にはあまり出そうとはしない。
僕は美空の頭をポンポンした。
そうしてやると美空の表情が少し和らいだ。
「そっか。我慢してたんだな。お兄ちゃんにはなんでも吐き出せ。笑ったり馬鹿にしたりなんかするもんか。でも実はさ、僕にそう打ち明けてくれて嬉しいんだ。父さんいなくなって不安だもんな」
「うん……」
「父さん見つかったら、また元の家で暮らそう」
「戻りたい私。お兄ちゃん、私はアパートは違うトコでもいいけど。ボロボロだったし。だけど学校は元の学校に戻りたい。友達とちゃんとさよならもしてなかったもん」
春休みだったこともあったし、急な引っ越しでバタバタしていた。僕もすごく仲のイイ奴何人かには電話して事情を話そうとしたけど、まだ出来ていなかった。
親しい友達との別れも辛い。
電話を出来なかったのは、父さんが失踪したことを話す気になれなかったから。
複雑だ。知られたくないのは『普通じゃない事』が起きて、可哀想とか憐れむような視線を受けたくなかったのかもしれない。
僕の友達は優しいヤツばかりだから、きっと心配してくれるだろう。
だけどただでさえ、母さんが亡くなって父子家庭だった僕等は、『あなたの家は大変ね』と言われてきた。
そんなに大変じゃなかった。
最初こそ不慣れだった家事だって、慣れたら助け合って楽しくこなせた。
母さんが亡くなったのは、今でも寂しいし哀しいけれど、うちの家族はそれでも母さんの死から立ち直って、支え合って生きてきた。
――家族が五人から四人になっても、あなたたちには明るく元気で、そして笑顔でいて欲しい――
母さんの最期の言葉。
それは母さんの願いだから、僕は美空や彩花を守っていこうと決めた。
泣いてばかりでは駄目なんだ。
前を向こうと決めたんだ。
「ニャァーン……」
僕と美空の足下にさっきの猫がやって来て、僕と美空の脚に交互に体をこすりつけた。
あたりには濃い霧が急に立ちこめてきて、僕と美空と猫しか見えなくなった。
視界が
「ニャーン……。ぷぷっ。本当はニャーンとか鳴かないのニャ。演技、演技。見かけはただのめっちゃプリティな猫に見えても、オイラはそのへんに居る猫じゃあないニャン。オイラはなんたって! 妖怪
はっ?
目の前で、尻尾が二本の不可思議な猫はあろうことか喋りだして、人の形に変わっていく。
着物を着た男の子だ。
この子は、あの写真の子?
「きゃー!」
美空が叫んで、僕は美空を背中に
僕らは妖怪
つづく
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