ゴブリン就活無双

ゴブリン就活

パート1

第1話 ツイてないな [異世界と現代]

自分の生まれを恨んだことはない。


汚れた肌も


小さい背も


短い手足も


俺が俺であるという証明とも言える鏡に映るこの身体を


醜いと言われようとも俺は愛した。


エルフのように華麗な見た目であれば


ヒューマンのように魔法が使えたら


同じ種族でも「ハイゴブリン」のように大きな巨体を持てば


しかし、現実には俺は「ミニゴブリン」と呼ばれる弱小種族であり、多くの種族から馬鹿にされる。


馬鹿にされるだけならまだいいが、この世界では格好の「獲物」だ。


初心者向けレベル上げのトレーニングモンスター、食料として珍味として売られる仲間たち、いや、下手したら子どもの「遊び道具」として生きたまま加工を施されることだってある。







そして、俺は今ご多分に漏れずヒューマンの子どもたちの狩りから必死に逃げている最中だ。


息が切れるどころではなく、喉はうっすら血の味を感じている。


ハァハァと音を出すのもうまくいかない。


走っても走っても同じ成人体でヒューマンの2/3の身長と、それに見合った足しか持たない俺たちは逃げるにも圧倒的に不利な状況だ。


後ろからまた仲間の悲鳴が聞こえる。


走らなければ


走らなければ


グギッ


無茶苦茶な姿勢で森の中を走っていたからか、ついにどこかの骨がイカれたらしい。


観念した俺は


武器を探す訳でもなく


降参することにした。







「あ、いたぞ!みんなこっちー!」


これがミニゴブリン狩りじゃなければ可愛らしくて無邪気な子どもの声だ。


思えば俺にも羽虫や鳥をこうやって捕まえていたぶった事があったかもしれない。


因果応報ってやつなのか。


俺は火炎魔法か、剣の餌食になる前に両腕を上げて、この誇るべき顔で精一杯の笑顔を浮かべた。


「マア、マア、マテヨ」


ヒューマンとは声帯も全く異なる構造をしているし、俺がたまたま読んでいた「ヒューマン全学」という本も、もしかしたら地方の訛りとか、作者の適当さとやらで通用しないかもしれない。


だから、なるべく簡単に、戦意を割く言葉を放つことにした。


「オカアサン、マッテル」



俺はもう25年も生きていて母親もとっくに死んでいるが、はたから見れば年齢など分かるはずもない。



子どもたちは少し戸惑っていた。



ヒューマンは他の種族よりも家族意識が強く、しかも道徳教育も遥かに進んでいるらしい。最もその道徳意識も同族以外に向けられる事は少ないようだが。



「ミニゴブリンって切っても切っても腕が再生するってほんと?」


とニヤニヤしたガキが短剣を持ってジリジリと近づいてくる。


本にも書いてあった。ヒューマンの中でも、何かを傷つけることにこそ喜びを感じるやつがいると。



「シナイ、シナイ」


そう言って俺は自分で腕をへし折った。



まさかそう来るとは思っていなかったのか。



空気が変わるのを肌で感じた。


「オネガイ、ミノガシテ」


涙を良くでてきた。さすが俺の涙腺。完璧だ。



「流石にかわいそうじゃね?逃してやろーぜ。」


そう。俺は最初からこのリーダー格でやんちゃだけど少し優しそうなやつの目を見ながら喋っていた。



腕もどうせ1週間もすれば再生する。



今回も乗り切れたと安堵した瞬間、性格の悪そうなガキの放った煌めく一閃が俺の首と胴体をお別れさせやがった。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでああああああああああああああああああああああああ



そして、俺が最後に思ったことは、恨みでも妬みでもなく「生きたい」。それだけだった。







意識が途切れない。





ゆっくりと目を開けると、この世のものとは思えない、虹色や金色や白やら色んな色が混じった空間で、頭に輪っかがついたヒューマンの女が目の前に立っていた。






「お疲れさまでーす」



呆気にとられた俺は言葉も出ない。


これがヒューマン達のいう「天国」ってやつなのか。


俺はそんなに善行を積み重ねていた訳でもないが。


「あ、これ良い事とか悪い事とか、そういうくだらない俗世の視点で選ばれてる訳じゃないよー」


心を読まれたが、ろくに喋れる訳でもないのでむしろ楽だ。とりあえずどうなるか黙ってよう。


「とはいえ、履歴書見たら結構大変な人生、いやゴブリン生を生きていらっしゃいましたね。次の人生はどのように生きてみたいとか、何か考えてますか?」


「りれきしょ」って何だよ。言葉の前後の繋がりから察するに俺の今までの生き方と何か関係があるものという事か。

次の人生とやらは、まあ安全な環境で生きてみたいな。


「分かりました。世界のタイプはRealで、魔法は使用不可、人類歴は西暦2000年で設定しておきます。」


いきなり分からない言葉が大量に出てきた。しかし、魔法の使用不可はだいぶ良いな。俺たちの種族は魔法使えないし。


「ちなみに種族は人間、いやヒューマンですね。それと猫や犬、場合によってはゴーストもかなりの人気がありますがどれにしますか?」



ヒューマン、俺を殺した憎きヒューマン、でもなったらだいぶ楽をできそうだ。

猫や犬に関しては、確かに楽そうではあるがヒューマンに生殺与奪の権を握られているという感じは否めない。

ゴースト...、ゴーストは実質この世全ての不快から全て解放されると言っても過言ではないが、その限り食う喜びも性欲も満たせない儚い生き物だ。だが、これも悩ましい。


「エラブ、シナキャダメ?」



「ああ、ごめんなさい。一応選べる全種族表というのがあるのですが、あまり他の選択肢を検討する方がいないので。もしかしてあなた一周目ですか?」


一周目。一周目ってなんだ。だいたい死ぬ時は一周目だろうに。


「ごめんなさい。死んだ瞬間今まで蓄積してきた経験が蘇るのですが、あなたは本当にこれがはじめての死だったのですね」


「ヒューマンデ、オネガイ」


とりあえずヒューマンが1番マシな選択肢である事は表から一目瞭然だった。蟻なんて選ぶのがいるかな。


「分かりました。ではいってらっしゃい!」



もはや何がなんだか分からない。というか半分以上流れ作業な感じもする。



こうして俺は第二のゴブリン生、いや人生を歩む事となった。








ヒューマン、人間に生まれ変わってからはまさに激動といった感じであった。



俺が生まれ返ったたのはとある紛争地帯であり、生まれてから何度も色々な国を回ることとなった。


最後にいきついたのはアメリカという国であり、優しい人も多かったが、強烈な縁故社会と実力主義、そして英語をうまく喋れない俺に居場所は無く、かといって軍隊に入ることもできず。




呆気なく人生は終わった。



「お久しぶりですね」


またこの謎の空間と、そして女だ。


「まあミニゴブリンの時よりはマシだったけど、魔法が無くても銃と差別が存在してたら前の人生とあんまり変わらないよな」


女は悪びれる様子もなく


「まあ、人生そんなもんですよ」と呟く。




俺はこいつの事をもっと知りたいなと思った。好意とかではなく。


「名前なんていうの?」


「ナンパですか?それとも物語の進行上名前が必要なんですか?」


「いや、自分のこれからの事を決めるやつの事くらい知っておいてバチは当たらないだろ。」



渋々、「%#○×%<ぁ☆です」という答えが返ってくる。


「ごめんなさい、意地悪で理解できない言葉で喋ってしまいました。ユーと呼んでください。」


ユー。you、あなた。馬鹿にしてるのか、それとも分かりやすくしてくれたのかは分からない。


「ユー。あの就職活動とかいうやつはやばくないか?というか親ガチャ要素を強くないか?これじゃ種族ガチャだったあの頃と何も変わらねえよ」


「いやいや、あなたミニゴブリン時代に何度も人間から逃げ切ったり種族の絶滅の危機を防いでたじゃないですか。あなたくらいの実力者なら就職活動なんか余裕ですよ。」


そもそも前世の記憶を引き継げないのだから無理ゲーというやつである。というか種族の危機と俺個人の生き死にを同列に語るな。


「日本」のネット掲示板の言葉ばかり頭から出てきやがる。



「こうしましょう。次の転生先は日本、ゴブリン時代から今に至るまで記憶引き継ぎOK。年代もさっきと同じで。ただしビットコインや株の購入は死んでしまった2023年まで不可という条件で。あと、あなたが知っている未来を利用してインサイダー諸々をやったら反動で恐ろしい事が起きるという事でどうですか?」


めちゃくちゃ良い条件である。何故ここまで俺に良くしてくれるのだろうか。


「普通、ミニゴブリンから一周目を始める人はいないのでサービスですよ。」


ありがたくいただくことにしよう。



待っていろよ、クソッタレ世界。












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