きつねとたぬきの縁結び

黒羽カラス

第1話 接点のない二人

 磯崎いそざき麻芙由まふゆが予備校を出ると辺りは暗く、深夜のようにひっそりとしていた。夜空を見上げても星は見えない。昨晩は顔を覗かせたほっそりとした月も雲に隠れていた。

「雪が降るかも」

 緩んでいたマフラーをしっかりと首に巻き直す。肩に掛けたトートバッグを引き上げると麻芙由は俯き加減で歩き出した。剥き出しの両手は擦り合わせた程度では改善されず、ダウンジャケットのポケットに突っ込んだ。

「……パンツルックで良かった」

 今夜は特に冷える。昨日とは季節が違うと思わせた。突然の寒波の襲来に人影も疎らであった。

 道端にぽつんと置かれた自動販売機の前を通り掛かる。横目で見ると温かい飲み物がずらりと並ぶ。態度で関心を見せるものの立ち止まることはなかった。

 予備校からバス停までは徒歩で十五分。十分の道程を歩いたところで麻芙由は僅かに顔を上げた。コンビニエンスストアの眩い光に目を細める。不平を言うように小さく腹が鳴った。手で摩ってなだめると吸い寄せられるように店舗へと入っていった。

 日用雑貨の棚を何となく見ながら進む。突き当りを左手に曲がって飲み物コーナーに意欲のない目を向けた。

 目当ての物は棚に並んでいる。どんぶり鉢を模したような容器がひしめき合う。丸眼鏡の中央を中指で押し上げ、陳列された商品に顔を近づける。

 涼しげなチャイムが鳴った。騒々しい足音が店内に響く。不穏な空気を感じ取った麻芙由は音のする方に顔を向けた。

 茶髪の若い男性がジャケット姿で走ってくる。いきなり右手が伸びた。麻芙由は軽く仰け反った姿で固まった。覆いかぶさるような形で男性はカップ麺を掴み、レジへと直行した。

「な、なんなのよ」

 取り残された麻芙由は赤い顔でカップ麺を引っ掴む。怒りの目は菓子に向けられた。荒々しい手付きで数個を纏めて掴み取る。その間に男性は会計を済ませて外に飛び出していった。

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