第16話 ウェザー ―変化―

始業式のパーティーから一か月。私が前世の記憶を取りも出してから半年以上ですね。私自身、前世の記憶が戻る前からだいぶ変わりました。サエナリアお嬢様を救うために計画を練り、第二王子と面識を持ち、バイラ様と友達になったり、変化が激しいですね。まあしかし、私より大事なのはお嬢様です。





私の努力の末、お嬢様の身の回りはゲームと比べると大幅に変化しました。性格も容姿もゲームの悪役令嬢ではなくなり、さわやかな顔で優しい性格になりました……というよりも維持しましたね。もとから心優しい少女でしたし。


それと学園の生活ですね。仲良しになったヒロインのマリナ様に計画のことを打ち明けるほど心通わせる間柄になったため、一緒に貴族と平民の勉強をしたり、平民になるための準備の打ち合わせをしたり、実際に喫茶店でバイトをしたりしているのです。


……計画のことを打ち明けることになるとは思ってもいなかったのですが、マリナ様が協力的になってくれたのは幸運でした。


もっとも、マリナ様と一緒に喫茶店でバイトとは、私が驚いてしまいました。ヒロインとはいえ、流石に貴族の女性とそんなことをするのは目立つのではないかと不安になりました。


何しろ、ゲームでヒロインのマリナが誰かと一緒にバイトをするシナリオなど覚えはなかったからです。何でもマリナ様が元平民だった経験を生かしてお嬢様に進めてくださったそうです。確かに元は商人の娘ですから、そういう経験もあるのでしょうね。


私がそれを知ったのは、休日にお嬢様に勧めていただいた喫茶店に入ってからのことです。お嬢様がお勧めしてくださったので喜んで朝一番に入店してみれば、出迎えてくれた店員さんがお嬢様だったのです。隣にはヒロインのマリナ様も店員の制服を着ていました。


「お、お嬢………」


驚いて声を上げそうだった時に、人差し指を口につけて「シー」と言われて、……感動しました! お嬢さまが、悪役令嬢になるはずだったサエナリアお嬢様が、こんなにも変わるなんて!


「お客様、ご注文は何にいたしましょうか?」


「………!」


にっこり笑ってマリナ様がいいところで割って入ってきました。……悪意がないのは分かっていますが空気読んでくれません。こういう所は乙女ゲームのヒロインですね。


私は適当に席について、紅茶とショートケーキを注文します。するとお嬢様は、誰が見ても喫茶店の店員にしか見えない丁寧で速やかな行動をとりました。ただのバイトには見えないくらい真面目でよくできていました。まあ、私は前世でバイトなんかしなかったから、偉そうなこと言えませんけどね……。


そして、美味しそうなショートケーキと紅茶が目の前に。しかも、このショートケーキはお嬢様が作ってくださったとか……再び感動ものです! もちろん、とても美味しかったです! お嬢様、ありがとうございます!





いやあ、お嬢様がいい方向に変わられたご様子を改めて実感できました。それ以上に逞しくなられた気もします。喫茶店内ではしっかりしたご様子で同僚の少女たちにも人気のようです。


……一番驚いたのはお嬢様の人生設計図を聞かされたことですね。あの喫茶店は、平民になる道を選んだ時から目を付けていたらしく、オーナーが老夫婦ということもあって人手が欲しかったため、すぐに働くことができたそうです。しかも、その老夫婦とも相談の末に貯めたお金で喫茶店そのものを買い取るのだとか。


あれ? 何だか私の予想以上に早い段階で成長しすぎやしないでしょうか? もしやヒロインのマリナ様と関わるようになって、精神力が向上したのでしょうか? ゲームでヒロインと関わった攻略対象はステータスが上昇するのは基本ですから。


……ということはサエナリアお嬢様が攻略対象に? これは乙女ゲームを覆しすぎましたね。ひょっとして女の子同士で……いやいやいや、二人は友達同士じゃないですか。いや、ありでしょうか?


まあ、ともかく。お嬢様が未来に向かって前向きに進んでいけるようになってよかったです。最近は愚か者の王太子が前よりもお嬢様を蔑ろにするようになっていますから、計画もころあいですね。


後はどのタイミングを狙うか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る