第4話 ナイトメア ―前世―

鏡を見た後で意識を失った私はそのまま眠りにつき、夢を見ていました。


地球という異なる世界で日本という国に生まれた一人の若い女性の人生を追体験するような夢でした。その女性の生きる世界はとても技術文明が発達していて、身分制度がないという夢のような世界でした。女性自身は地味な見た目で乙女ゲームという遊戯が好き。その中で、『風の国の恋物語』などというふざけた内容の乙女ゲームを楽しんでいました。


その乙女ゲームによると、身分の低い令嬢が身分の高い令嬢から婚約者を寝取るという悪趣味なことを楽しむというもの。しかも、寝取られた婚約者は王子というのだから質が悪い。なんでこの女性はこんな遊戯が楽しいのだろう。趣味が悪い。現実でこんなことあり得るはずがないしあってはならないというのに。


ただ、ゲームの内容を見ると我が国の名前と王太子や王子の名前が使われているような……え? 何で、サエナリアお嬢様が映っているの!? しかも、悪役令嬢? 婚約者を寝取られる相手だというの!? 何で、何で!?


そういえば、この女性はラノベや漫画で異世界転生だの前世の記憶が流行りだのと口にしていまいした。


……まさか、私がそうなの? 私の前世がこの女性で、この女性の転生体が私? そんな!? こんな悪趣味な遊戯を楽しむ女性が私!? 


半狂乱になりそうになる私の意識をよそに女性は乙女ゲームを進んでいく。結構、失敗しては最初からやり直しを繰り返す。そのたびに嫌というほど思い知らされる。この女性と私が同一人物という話以上に、私ミルナ・ウィン・コキアが生きている世界が乙女ゲーム『風の国の恋物語』の世界観と全く同じであることに。


サエナリアお嬢様がどんな目に遭ってしまわれるのかも、嫌というほど目にしてしまいました。心の中で何度も泣かされました。この女性に憎しみを抱くほどに! ゲームを作った製作者に復讐心を抱くほどに!


やがて、女性はゲームをクリアしました。サエナリアお嬢様を悪役令嬢にして破滅させる形で。私は悔しくて仕方がなかった。そのゲームを叩き壊して、女性を殺してやりたかった。そう思っていました。ですが、女性はこんなことを口にしました。


「何このゲーム……。サエナリアが可哀そう何だけど、ていうか最低じゃないですか?」


そうですよ! 最低です! そのゲームに何故、お嬢様が幸せになる設定が組み込まれていないのですか! ヒロインが何故、あんな女なんですか! どうしてあのような馬鹿王子が婚約者なんですか! 





怒り狂う私はいきなり目を覚ましました。顔に汗びっしょりです。


「……今のは夢……?」


夢、それも悪夢の類ではないかと思いましたが、夢にしては現実感があってあまりにもはっきり覚えていました。何よりもサエナリアお嬢様のことを考えると……


「私……生まれ変わってたんだ……」


私がミルナ・ウィン・コキアとして出会ってきた人たちの中であの忌まわしいゲームと同じ人が何人もいました。サエナリアお嬢様もその一人です。顔と名前と容姿、立場に性格まで正確に……。そう考えると私は、そもそも私達が生きる世界は『風の国の恋物語』の世界観と同じだということになります。


「だとしたら……最低最悪です……」


つまり、数年後にサエナリアお嬢様はヒロインに婚約者を奪われた挙句、家ごと破滅してしまわれる。そういうことになるのです。


「そんなことは認めません。絶対に阻止します! この私がそんなエンディングを回避させてみせます!」


この時から、私の戦いが始まったのでした。乙女ゲームを覆す戦いが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る