第19話 初めての学生自治会 2

「さて、十七時を過ぎているので、会合を始めたいと思います。お茶を飲みながらでかまいませんよ」

内山会長がそう言ってくれたので、お茶をすすりながら耳を傾ける。


「まずは天雲さん、大役を引き受けてくださって、ありがとうございます」

大役って一体なんだろう、という疑問が頭を巡って、言葉が出てこない。桜先輩は庶務がどうのこうのといっていた気がするが、それのことだろうか。でも、すでに引き受けたことになっていて、聞いていた話と少し違う。

隣の桜は、まあ、いいからいいから、最後まで話を聞こうよとジェスチャーで言っている。


そのやりとりを見ていた会長が、「桜さん、本当に天雲さんにちゃんと説明されたんですか?」と、怪訝そうに尋ねた。

「はい。でも、少し説明不足だったかも知れませんが」

「そうですか。では、私からもう一度説明しましょう」


会長は、話をするのになれているようで、学生自治会の役割についての説明を手短に終えたあと、ここからが本題ですが、と前置きを入れて、駅とキャンパスとを繋ぐシャトルバスの話を始めた。通学をしている学生の多くが、駅からキャンパスまでの交通に不満を抱いているらしい。確かに、駅からキャンパスまでの遠さはミユも初日に経験したことだ。

そこで学生の利便性のために、讃岐高専としての全国的な知名度を上げて、学生の数や質を高め、実績を上げてシャトルバスの予算を獲得する方向性で一致したそうだ。


高専といえばロボコンが有名で、讃岐高専は四国大会の優勝常連校ではあるものの、近年は全国での存在感は薄い。ロボコンには引き続きがんばってもらうけれども、それとは別に、今度新しく開催されることになったアイアンレースに出場して、初優勝を目指すそうだ。


アイアンレースには、カート、自転車、ヨットの合計三つのレースがあるそうで、総合的な結果を考慮して優勝が決まるらしい。そこで、学生自治会役員のミユにはカートレースの担当に決まったとのことだった。


ミユにとって、全く寝耳に水だった。

とある事情でアイアンレースに出ることは聞いていたが、まさか自分が、その担当になる、というか、すでに昨日今日の内に担当になっているとは全く予想すらしていなかった。


「あの、私、そんな、まだ一年ですし」

「大丈夫ですよ。学生自治会に天雲さんよりカートに詳しい人はいませんし、それに担当といっても副担当という形にしますから。小原さんが正担当なので、その補佐をしてください」

小原緋の方を見ると、「よろしくね」と手を振ってくれた。


「難しく考えずに学生自治会とカート部の連絡係くらいに考えておけば、気楽なものですよ」

新しい生活にようやく慣れ始めたばかりで、さらに連絡係といわれても、何から始めればいいのか皆目見当が付かなかった。


「連絡係……ですか。でも、やっぱり不安です」

「そうですか。私は、天雲さんが適任だと思うのですが」

「私に務まるかどうか。他の方はどうなんですか?」

「六車環さんには、自転車レースを、真鍋桜さんには、ヨットレースの担当をお願いしています」

会長を除くと学生会のメンバーは、全部で四人で、そのうちの三人にそれぞれ担当が振られているようだ。


名前の挙がらなかったロボコンの香西礼には、担当が割り当てられていない。ロボコンがあるのだから、当然といえば当然だ。そちらも大変なことに違いはない。同室の舞先輩もいつも遅くまでロボコンの準備をしている。

無意識に礼の方を見て、目が合った。


ロボコンの大変さを思い遣ってのミユの視線を、批難の視線と勘違いしたのか、香西は少しムスっとした顔になり、「内山会長が人の能力を見誤ることはないよ。会長ができると言えば、それはできることなんだ。だから天雲さんが適任なのは間違いないと私は思う」と言った。


六車環は、うんうんと、それに肯き、「テンテンが不安に思うのも無理はありません。そこで、内山会長、私に考えがあります」と言った。

「なんでしょう?」

「明日、自転車レースの件で競技自転車部に行こうと思っているんですが、テンテンにも同行してもらうのはどうでしょう。だいたいどんなことをするのか実際に見てもらえば参考になるかと思います。しかも、テンテンのルームメイトが自転車に興味があるそうなので、友達と一緒に来てもらえれば、なお心強いと思います」

「なるほど、それは構いませんが、天雲さんの負担にならないように配慮をお願いしますよ」

「それは、もちろん、はい。そうします」

「天雲さんもそれで構いませんか?」

「……はい、とりあえずは」


「では、今日の会議はここで一旦お開きにします。また定例会でお会いしましょう」

「じゃあ、明日、授業が終わったら迎えに行くからよろしくね。立花さんにもよろしく伝えといて」

環にそう念を押され、彗を巻き込んで厄介なことになりそうだなと、今日ここに来たことを半ば後悔し始めた。

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