第18話 真島探偵事務所 その2

 事務所の中をコーヒーの香りが漂っていた。

 檜山は深雪の持ってきてくれたコーヒーを一口啜ってようやく人心地ついた。嵐のような琴美の登場に煽られ、まだプレートを握ったままだったということも、いま気がついたような有様だ。


 貧相なプレートである。

 探偵事務所などと書いてはいるが、もちろん檜山も真島も賞金稼ぎバウンティハンターであって探偵ではない。ただ、表に『賞金稼ぎ』と書いておくのもなんだか変な気がしたので、檜山がつけたものだ。



 最近でこそ世間の認知度も上がった賞金稼ぎバウンティハンターだが〝日頃は仕事もしないでぶらぶらして暮らしているが、たまに悪い奴を捕まえて金儲けするやくざな人たち〝――と思っている人間が多くいることも事実だ。


 賞金稼ぎバウンティハンター自体にも問題はある。

 賞金稼ぎバウンティハンターという職業は、別に資格をとらなければなれないという職業ではないので、極端な話、「わたしは賞金稼ぎバウンティハンターです」と言えばその人間は賞金稼ぎバウンティハンターなのである。


 檜山や真島のようなプロの賞金稼ぎバウンティハンターになると、IDカードを作ったりすることができるが、カード自体にはなんの効力もない。自前の名刺程度のものである。わざわざプロを名乗るほどのものでもない。


 もし賞金首を捕まえたのがシロウトだったとしても、最寄りの警察署に賞金首を連れていけば懸賞金管理センターからターゲットに掛けられていた懸賞金を貰うことができるのだ。


 その賞金首となるターゲットにも二種類ある。

 公式賞金首オフィシャル非公式賞金首アンオフィシャルだ。

 公式賞金首オフィシャルは連続殺人事件の犯人や、行方をくらました犯罪者、誘拐された子供、人間に限らず物だったりする場合もあるのだが、報道を通じて広く世の中に告知するもので、スポンサーは公的機関だったり、企業だったりということが多い。報酬も懸賞金管理センターから貰うことになる。


 これに対して非公式賞金首アンオフィシャルは組織の裏切り者など、何らかの理由で内々に処理したいといったものが多く、情報についても一般の報道に載ることはない。それらの情報をいち早くキャッチするため賞金稼ぎバウンティハンターはそれぞれ情報屋を持つというのは以前にも述べた。もちろん報酬はスポンサーから直接ということになる。


 報酬の差こそあれ、賞金首というのは意外に多くいるものだ。その辺の街中ですれ違った者が賞金首だったなんてことも珍しいことではない。


 こうしてみると、賞金稼ぎバウンティハンターという職業は非常においしい商売のように見えたりするのだが、世の中そんなに甘くはない。

 確かにターゲットはそのあたりを歩いていたりするが、何しろ懸賞金をかけられるような連中である。一般の人間の手におえるようなターゲットは少ないし、一般の人間で間に合うようなターゲットは当然報酬も少なくなる。


 こんな不安定極まりないいいかげんな職業につくのはよっぽどの変わり者か警察OBぐらいなものである。


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