第6話 タカモトコレクションと深夜の来訪者 その4

   * * *


「ぐはあ……」


 絞り出すような声を吐き出しながら黒服の男が膝から崩れ落ちていく。

 男の腹にめり込ませた正拳を引きながら川中島はあたりに視線を巡らせた。

 あれだけいた黒服たちも、目の前の一人を残して皆、倒れこんでいる。


「もうおまえさんだけだぞ」

「俺一人いれば十分だ」


 黒服はポケットから何かを取り出すと無造作に右腕を振った。ガシャリと音を立てて現れたのは伸縮式の警棒だった。青白い火花をまとっている。電磁警棒スタン・スティックだ。相手の身体に電気を流し込んで行動の自由を奪うものだが、彼の警棒はリミッターを外しているから触れれば良くて失神、悪けりゃそのまま感電死という代物だ。


「おまえはどっちだジジイ!」


 黒服は猛然と突進すると、川中島の顔面めがけて電磁警棒スタン・スティックを振り下ろした。


「おっと――」


 老人はすんでのところで一撃をかわした。返す刀で胴を薙ぎにきた分もギリギリのところでかわす。

 黒服は手を緩めない。

 一撃でも当たれば勝負は決まるのだ。警棒に加え、拳や蹴りも織り交ぜ老人を追い詰める。


「往生際の悪いジジイだ」

「年寄は労るものだということを教わらなかったのか」

「いつの時代の話だよ」

「世も末だのォ」


 老人は世を嘆きながらも黒服の攻撃をかわし続けていた。それどころか黒服の隙をつき、小刻みに掌底を打ち返す。


「ぐがっ」


 何発目かの掌底を食らい、鼻のなかに鉄臭いにおいが広がる。このジジイは――。

「殺す!」


 黒服が大振りになった瞬間を川中島は見逃さなかった。懐に潜り込み、警棒を持つ手首を左手で掴んで固めると半回転。右の肘の当身で黒服の肘を破壊する。


「ぎゃあっ!」


 黒服の手から警棒がこぼれ落ちた。


「勝負ありじゃ」


 川中島は肘を押さえてうずくまる男に背を向け、琴美の逃げた塀のほうへ向かって走り出した。

 壁際に向かって速度を上げ、そのままの勢いで壁を蹴る。垂直に飛び上がった川中島は塀の上部に手を掛けると、屈強な体躯に似つかわしくない軽さで塀を乗り越えた。

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