異世界最上の転生、神の新種刻印を受けたので最強魔法剣士になります。

ぐれこ

プロローグ

「あーーー疲れた.......」

 いつものように仕事終わりの体をベッドにダイブさせ、いつものように溜息をつく。

 ありふれた毎日に心を蝕んでいくなにかはやがて疲れとなり、あらゆる物事の考えをシャットダウンさせるのだ。

 仕事ではスイッチを切り替え全身の神経を張り巡らしている為、帰宅した途端もぬけの殻となる。いつも以上に溜息を吐き出し、大きく息を吸う。

「ゥゴホッゴホッ」

 部屋の掃除が進まなくほこりが溜まる一方だ。

「...飯、買わないと......」 

 今年で30歳になるが、随分と体が重い。脳が体を動かないようにさせているが同時に何か食べなさいと信号を送られる。

 今日一日腹になにもいれていない為、体力も気力も底を尽きている。深夜1時、重たい足取りでコンビニへ向かった。

 

 高校を卒業後すぐに新卒として中小企業に入社し、それから10年以上勤務している。上司は嫌みばかりで部下に仕事をすべて押しつけ、挙句の果てにはパワハラまがいな事もする。

 対処法なんていくらでもあるが、給料面は非常によくやめるにやめられないのだ。

 両親はすでに他界しており、親戚などいない。一人っ子の俺は彼女などつくる時間もなく、毎日をただただ過ごしている。今日も無事仕事が終わり、飯を食って歯を磨きそして寝るのだ。

 

「こちら温めますか?」


「あ、お願いします」


 先程からお腹がぐーぐーとないているので店員に聞こえないようにお腹を必死に抑えているが、意味がないようだ。店員も笑いを抑えているらしい。


 弁当を温めている電子レンジがチーンとなった、と同時に。


 覆面を被った二人組が入ってきて、いきなりこちらにナイフを向けてきた。


「動くな!!」


 あまりの一瞬の恐怖に体が硬直し、手にした財布を落としてしまった。


 男の一人はこちらにナイフを向けながら落ちた財布を拾い、大きめのカバンに急いで入れた。もう一人は店員にナイフを向けながらレジを物色している。


 ガタッ


 トイレの方からだ。強盗が来てると知らずそのまま出てしまったんだろう。タイミングが最悪だと思い、トイレに目を向けるとそこには女子高生だろうか、制服姿の女性がこちらを見て固まっていた。

 未成年がこんな時間帯に.......などと思いつつもその女性はこちらをしばらく見た後急いでカバンをまさぐり携帯を取り出した。

 しかし二人組はそれを見逃さなかった。


「てめぇ!!動くな!!!」


 男の一人が女子高生へと走り出す。もう一人はまだレジで物色していた。店員は泣きながら手を挙げて神様神様と呟いている。

 

 チャンスか.......?


 男はレジにある金と店員に気を取られていてナイフは台に置いてある、なら今しかない!!

 

 学生の頃は柔道をやっていて、黒帯二段まで取った事がある。一対一ならこちらの方が強い!


 台を飛び越え男の襟を掴み、力いっぱい握りしめる。


「っ!なん...だて...めぇ!」


 拳に更に力を加え男の襟を首元にめり込むよう思い切り引き絞った。


「ガ八ッ!!」


 相手の重心がぐらついたのを確認しすかさず足をかけ、転ばせた。男の背中の上に乗りつつそのまま絞める力をさらに込めた。

 ここまでくると状況の確認に余裕ができもう一人の男に目をやる。まだこちらには気づいておらず、女子高生の携帯を取り上げてナイフで脅していた。


 あともう少し!


「ぐふ...っ...」


 男の抵抗が弱り始めたその時。


「おい!!」


 男たちは二人組ではなかった。恐らく外で逃走準備をしていたもう一人の仲間だろう。三人目の男が外から駆け込み、手に持っていた大きめのナイフをこちらへ目掛けて勢いよく投げつけた。


 あ、やべ...


 鋭いナイフは宙を舞い、秒で俺の首へ到達した。


「ーーーーっ」


 声にならない声とはこの事だろう。長めの刃は投げたことによる遠心力を高め、俺の喉まで奥深く突き刺さった。


 体全身に激しく鋭い痛みが走る。


 呼吸が出来なく、痛みだけがただ襲う。周りからは叫び声のようなものが聞こえたがそれも徐々に遠のいていき視界も霞んでいく。一瞬の出来事だ。てかナイフ投げるってどういう事?映画じゃないんだからさ。


 ああ、結局ヒーローなんてものは非現実でしかない。精一杯、生にしがみついたり這っていこうが最終的には死なんてものは平気で容易に来るものなんだ。

 彼女ができてたら何か違っていたんだろうか、違う会社で働いていたら、今日コンビニに行かなければ...いや、すべてもう終わった事に過ぎない。自分の決断で起きた事は変えられる事も出来ないのだから...


 どくどくと脈打つ音が耳にまで振動していく。不思議と痛みが和らぎ、やがて意識はじわりと広がる暗闇の先へと沈んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る