第二十四話 母親譲りですかね

 アイカ達が魔女パンソーの元に向かう中、崖から落ちてしまったカルネとボボは崖の下から森の入口まで戻っていた。森の入口では大ウサギのカニフとコンパが言い付け通りに人参を頬張りながら待機していた。


 カルネの姿を見つけたカニフとコンパは「待機も終わりか?」……という面持ちで大きな耳を振る。カルネはそんな様子の二匹に向けて大声を出す。


「カニフー! コンパー! 申し訳ありませんが、お願いがあります!」

「キュッキュッ?」


「実は、追加で移動をお願いしたいのです! 大急ぎで私とボボを森の中へ運んでくれませんか?」


「……キュブー、キュブー」

「キュイッ、キュイッ」


 カルネの依頼に対しカニフとコンパは当然の様に首を横に降った。通常、ラビタクの大ウサギは森の奥には入ろうとはしない。カルネにとって予想通りの返事であったが事態は急を要する為、粘り強く交渉を試みる。


「そうですよね。では、城に帰ったら報酬の人参を先ほどと同じ……いや、二倍追加でお渡しします! 急ぎの用件なのです! お願いします!」


「……キュー、キュー」

「……キュイッ、キュイッ」


 多くの報酬に一瞬迷いを見せたカニフとコンパであったが、やはり返事はノーだ。二匹は首を横に振っている。


「ダメですか……実は来訪者のアイカ、ヒマリとはぐれてしまったのです。今はその二人が危険な状況でして……何とかなりませんか? お願いします! あっ、そうだ! 通常の人参でダメなら……先程ヒマリが描いて出してくれた特別な人参! あれならどうですか!? ヒマリに頼んでもう一度、何本か差し上げますよ!?」


「……キュッ!? キュンキュンキュン!!」

「キュキューッ!! キュキューッ!!」


 カルネの新しい提案に、カニフとコンパは先程までの様子とはうって変わって首を素早く縦に振った。その姿は……


「それだ! あんなに甘くて美味しい人参! 二度と食べられないと思ってた! あの人参がまた食べられるなら何処へでも運んでやるよ!」


という二匹の心の声がダダもれであった。


(……あはは。ヒマリがくれたあの人参、そんなに美味しかったのですね)


「キュキューッ!」


 カニフとコンパが「早く背中に乗れ」と言わんばかりに苦笑いのカルネをせかす。


「ありがとうございます! では早速行きましょう! お願いします!」

「ボボーッ」


 カルネは荷物と自身の身体をカニフとコンパに固定し空へ飛び立つ。


……シュゥーッ! ……ビューン!!


(アイカ、ヒマリ、すぐに行きます! もう少し待っていてください!!)


 一方、森を進むアイカ達は魔女パンソーについての話を聞きながら森を進んでいた。


「お爺さん、聞いても良い? 魔女さんはどうしておかしくなっちゃたの? 以前は普通に私達みたいな来訪者を元の世界に送り届けてくれたんでしょ?」


「ふむ、その通りじゃ。魔女っ子がおかしくなったのはここ数ヶ月の話じゃ。儂らが知っとる事だけで良ければ話してやるぞい」


「ありがとう。魔女さんがおかしくなった原因が分かれば何か問題を解決するヒントになるかもしれないものね」

「ヒマリもー! 魔女さんが困ってるなら助けてあげたい!」

「おやおや、小さいお嬢ちゃんは優しいんじゃて」


「ほんと、ヒマリは優しい子に育ってくれて……私の自慢の娘です。こんな風に優しく育ってくれたのは、自分で言うのも何だけど……母親譲りですかね。うふふっ」


「……」

「……」


 微妙な沈黙が周囲を包む。


「ちょっと! お爺さん、お婆さん! 何でそこで黙るのよっ!? そこは『うんうん、そうだよね』的な返しをするトコでしょ!?」


「……」

「……」


(……なっ!? また黙り込んだ!?)


「はいはい、分かりましたよ。変な事を言った私が悪かったです!」

「ほっほっ。大きいお嬢ちゃんは一人でボケたりツッこんだりせわしないのう」


「ひょっひょっ。小さいお嬢ちゃんはこんな風になってはいかんのじゃて。分かったかて?」

「はーい、分かったよ、お婆ちゃん!」


「こらっ! ヒマリまでお爺ちゃん達の意地悪な冗談に乗るんじゃないの!」


「あははっ。はーい、ごめんなさい。でも、ヒマリはママの事大好きだから……大きくなったらママみたいなママになりたいなー」

「あーん! ヒマリー! ママも大好きよー!」


 アイカは堪らずヒマリを抱きしめる。


「ほっほっ。何やかんやで良い母子じゃのう。さて、魔女っ子の話を続けて良いかの?」

「あっ、そうだったわね。話の腰を折ってごめんなさい。魔女さんの話、聞かせてちょうだい」


「ふむ。あれはお嬢ちゃん達の前にやってきた来訪者が居た時の話じゃ」


 こうしてポルトミーヌは魔女が乱心した経緯について話し始めた。

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