ジャンケンが喧嘩した話
ある夜のこと。
寝室の扉をノックする音がした。
こんな夜にどうしたのだろう。
カチャリと扉を開けるとそこにはチョキが立っていた。
「すみません、夜分に。」
チョキは浮かない顔をしている。
「いったいどうしたんだい。思い詰めた顔をして。」
「実は今、3人で話していたんですが……」
聞くと、グー、チョキ、パーの3人の仕事配分が適当じゃない、ということだった。
まずグーの主張は『最初はグーで自分の体は疲弊している』というものだった。
最初はグーじゃなくてもいいじゃないか、そもそも「最初は」という掛け声自体どうなんだと憤っていた。
次にパーの主張は『日常的にパーの使用率は高く、例えばドアを押すとき、蚊を叩くとき、手相を見るときなど様々なシチュエーションで出勤するのに、ジャンケンにまで多用しないで欲しい』というものだった。
「で、君の言い分は?」
チョキの言い分は『よく出すから』というものだった。癖なのか無意識にチョキを多めに出していたらしい。
他の2人の主張に比べて幾分弱い理由だったが、思い返してみると確かに幼い頃からチョキを出すことが多かった気がする。
一通り主張を聞いて私は決めた。
部屋に3人を招き入れるとこう話した。
「確かにグーとパーは日常的にも手番が多いし、2人には1週間ずつ休暇をとってもらおうか。」
グーの顔はパアッと明るくなり、パーはグッとガッツポーズをした。
「俺だって日常的に出番ありますよ。」チョキは明らかに不服そうな顔をしてそう言ったが、チョキにまで休暇を与えてはジャンケンそのものができなくなってしまう。
今回は、という枕詞を使うことでチョキの気持ちをなだめその場はまるく治まった。
それ以来、大きな問題はなく過ごせているのだが、ハサミを使うときに「チョキチョキ」という今まで聞こえてこなかった効果音がはっきりと聞こえるようになった。
それは何か違うだろ、と思った。
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