第14話 ヤンデレのお泊まり大作戦(中編)

「はぁ…本当に…今日は早く寝よう…幻覚が…」


 海斗が扉を閉めようとすると、扉は引っ掛かりがあるかの様に閉まるのを止める。


「海斗? 何で閉めるんですか?」

「いや!! 何で居るんだよ!? 家に帰ったんじゃないのか!?」


 海斗は扉の隙間に足を挟ませている千春に向けて、思いの丈をぶつける。しかし、


「何でって、おば様からお話聞いてないんですか?」

「母さんから? 母さーん!!」


 これを聞いた海斗は扉に力を入れたまま後ろを向き、由美子を呼ぶ。


 これに由美子が関係してるとは思っていなかった。予想外の出来事だった。


「何よー…って千春ちゃんじゃなーい! コラ海斗! 何やってんの! 早くその扉を開けなさい!」

「い、いや、その前に何でこいつが此処にいるか

「早く開けなさい!!」

「…はい」


 海斗は仕方なく扉を開いて、千春達を向かい入れる。

 そして千春の後ろから着いて来たのは、先程モニターに映った女の子。


 黒髪ポニーテールでキリっとした慧眼で、背は恐らく150センチぐらい。歳は14、15ぐらいで身体の成長は今後に期待と言った所だろうか。その子は、千春とは違った類の美人になるだろう魅力を秘めていた。

 海斗がその子を見ていると、突然海斗の首が変な曲がり方をして後ろに無理矢理向かされる。


「海斗…何処を見ているんですか…?」


 向かされた先に居たのは、笑顔の千春。

 しかし千春の目は笑っていなく、海斗の顔の骨がミシミシと悲鳴を上げていた。


 その後ろでは、


「きゃー!! 修羅場! 修羅場なの!?」


 馬鹿みたいに盛り上がっている由美子の姿があった。


 そして千春の笑顔に何か危機感を感じてか、海斗は素早く行動を起こした。


「い、いや! とりあえず何でお前が此処に来てんだよ! しかもそんな大荷物を持って!」


 海斗は早口で捲し立てて話を変え、千春のキャリーバックを指差した。

 チラッとキャリーバックを見た後、千春は冷淡に答えた。


「あぁ、これは泊まる為に持ってきた物です。他意はありません」

「た、他意はないって…いや、どういう事だよ」

「お姉様が由美子さんに、これから1年両親がいなくて困ってると相談した所、ウチに泊まってはどうかと提案されたそうなのです」


 顔を掴まれながら聞いた海斗の後ろから、淡々とした口調で答えが返ってくる。


「そ、そうなんどぉわぁ!!」

「誰がそっちを向いていいと言いましたか?」


 後ろを振り向こうとした瞬間、凄い勢いでそれは阻止される。海斗の口からはとんでもない声が出る。


「い、痛いって!」

「は?」

「え、あ、ごめんなさい」


 抗議する海斗であったが、千春の暗く低い声に思わず謝ると大人しく顔を捕まられる。海斗のスンッとなった顔を見て、千春は目を見開いた後、笑顔で海斗へと話しかける。


「海斗? 海斗は今、ルールがあっても私の彼氏なんですから。そんな事したらダメですよ」


 千春の長いまつ毛、キメの細かい肌、ぷっくりとした柔らかそうな唇が海斗の顔スレスレまで迫った。海斗だけに向けられたその小さな声は、海斗の顔を反射的に背けながら言う。


 今まで彼女が居なかった、ましてや女友達が出来た事もなかった海斗にとって刺激が強かった。


 しかし、


「海斗、顔を背けてはダメです」

「~~ッ!?」


 海斗は口をパクパクさせながら、それから逃れようともがく。すると、


「んっ!」


 千春の口から何処か我慢するような声が漏れる。

 海斗の左手の甲は、目の前に居る美少女の胸部を下から持ち上げる様な形で当たっていた。


「その、あっ…」

「…か、海斗…流石におば様の前では…」


 海斗の顔が一気に真っ赤になると、海斗はそのまま千春の胸に飛び込むように気絶した。




「千春様も大概ですよね…」


 海斗の後ろに居る者からは、何処か呆れたような声が漏れた。

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