君に私はまだ早い!!~保健室の先生として働いている私なのですが、まるでラブコメの主人公の如くモテまくる男子生徒に言い寄られて困っています。私は一体どうしたらいいのでしょうか?~
村木友静
プロローグ
「先生です」
「……え?」
「だから、先生です」
「えっと……それは……どういう意味?」
「どうもこうも、そのままの意味です。俺が好きなのは、桜庭先生です」
放課後の、寂しい雰囲気が立ち込め始めた校舎のある一室。
部活で掌の皮を擦りむいたという生徒の治療がてら、何気ない世間話に花を咲かせていたつもりだった。
ほんの出来心、ちょっとからかってみようかなみたいな、そんな軽い気持ちのはずだったのに……
今、真剣な瞳でこちらを見つめる男の子は、いや、“
度々話をするうちに打ち解け、“仲良し”だと、私が一方的にそう思い込んでいた。
まるで年の離れた弟みたいだと、そんな感情を、彼に対して勝手に抱いていた。
だから、今日だって何気ない会話でもしようと、生徒ととの触れ合いを楽しもうと、そんな軽い気持ちで、「七月君は好きな子とかいないの?」なんて聞いてしまったのが良くなかったのかもしれない。
目の前にいる、幼いながらも爽やかで、子供でも大人でもない不思議な年代の、それでいて傷つきやすく多感な時期の男の子から発せられたその言葉に、私は何も言えなくなってしまった。
彼が、そんな風に私の事を思っていただなんて……
まさに、青天の霹靂だった。
「そんな困ったような顔しないでくださいよ。別に、付き合ってほしいとか、そういうつもりはありませんから。ただ、自分の気持ちを伝えるなら今しかないって、そう思っただけです」
「そ、そうなんだ……あ、ありがとう。その気持ちは凄く嬉しいよ。でも、ごめん。私と君とじゃ……」
「言わないでください」
「え?」
彼のその一言に、私は首を傾げる。
言葉の真意が分からなかった。
“言わないでください”とは、一体どういう意味なのだろうか。
「分かってます。教師と生徒じゃ、どう足掻いても俺が望む関係にはなれないって。それくらいの常識はあるし、弁えてるつもりです」
「そ、そっか……そ、そうだよね。じゃあ、これからも変わらず、生徒と教師という関係性を……」
「だから、この想いは未来に託そうと思います」
私の問いかけに、彼は整然とした態度で答えた。
一度、理解しかけた彼の言葉。
けれど、すぐにまた分からなくなって、私はまた首を傾げた。
問いかける声にすら、疑念が顔を覗かせてしまう。
「……未来に、託す?」
「はい。1年半後、俺がこの学校を卒業して、生徒という立場ではなくなった時、もう一度先生に告白しようと思います。だから……」
すると、彼は一瞬逡巡した後に、決意の瞳を私に向けて、言った。
「だから、どうすれば先生に好きになってもらえるか、これから教えてもらえませんか?」
「えぇ……」
逞しく、全体的に大人びた雰囲気。
けれど、どこかあどけなく、若く、そして青い、少年のように無邪気にこちらを見つめる瞳。
その言葉では言い表せないような不思議で真剣な眼差しに、私は吸い込まれてしまいそうになる。
しんとした室内に、ぴんと張り詰めた緊張感が広がっていく。
それを肌で感じ取り、私はまた、何も言えなくなってしまう。
ど、どうしよう……。
この子、本気だ……。
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