2話 暗殺

「ジュマ」


「ジュマ!」


 私の魔力体からッスが、呼びかけに答えてジュマが空間倉庫からロックグラスとグローブを出したッス。


 ロックグラスは魔導具で、私の必要に応じて視覚的に魔法情報を教えてくれる物。


 そんでグローブは私の手にぴったりのゴムみたいな質感の手袋ッス。


 接触時の魔法防御や、私からの魔法を増強させたりする、いろいろと使い勝手のいいやつ。


 ぶっちゃけ、丸いサングラスなんで、褐色肌の私には違和感がない配色になっているッス。


「いいわよ、あや


 華彩カーヤがツインテを伸ばして再確認をしたんで、私はスッと窓から中へ入ったッス。


 窓にガラスがないんで、入るのはめっちゃ簡単でいいんッスが、これは防犯の必要性や天候の心配がなく、翼を使った出入りがしやすいようにってことなんでしょうね。


 で、柱に隠れながら中央を見ると、すんげえ吹き抜けッス。


 四階建ての校舎、外側の壁だけ残して、どかんとだだっ広い空間を作ったかんじッス。


 それでいて明るく、どこか神聖さがあって、置かれているイスや花瓶とかの調度品なんかも西洋風で高級品みたいなものなんで、なんか神殿の様相を呈してるッス。


 床だってあれ、大理石ッスよ。


 まあ、そっちへは行かないんで無視させてもらって、ロックグラス越しにぐるっとチェック。


 ふむ。


 奥の方に一人、ソファーでお休みの方がいるッス。


 私服ッスね。。


 家出して、そのままここへ来たみたいな雰囲気。


 距離があるし、隠れるところも少ないんで彼女は後回しッス。


 そんで、二階にある内側にせり出したバルコニーみたいなかんじの廊下に、濃紺のセーラー服を着た子がいたッス。


 イスに座って、ゆっくり読書を楽しんでいるかんじ。


 テーブルには、読んだ本とこれから読む本を分けて積んでいるみたいッス。


 メガネはかけてないッスが髪を三つ編みにして、いかにも文学少女といった雰囲気。


 他には誰もいないようッスね。


 魔法による仕掛けのようなものも見当たらないッス。


 とはいえ物理的なものはあるかもしれないんで、そこは落ち着いて行動ッスね。


 周囲を見て、私は姿勢を低くしながら進み、階段そばでいったん身を隠したッス。


 階段っていっても、左右にあってどちらからも上がれる仕組みになっているし、装飾された木製の手すりがあって紅い絨毯が敷かれているんで、なんか豪勢なもんになってるッス。


「大丈夫。上に誰もいない」


 華彩が確認したんで、私は素早く階段を上り、柱と壁でかどになっているところへ移動。


 可能な限り隠れるようにしたッス。


 読書さんとはだいたい十メートルくらいッスかね。


 動向が分かるんでそれはいいんッスけど、このまま行くと向かい合わせになるッス。


 そのまま読書をしていて、私が音を立てずに近づいていったとしても、何かのきっかけで気づかれるとやっかいッスからね。


 一気に行けた方がいいんッスが……。


「彩、こっち側は大丈夫」


「三階の廊下にも魔力や生体の反応はないッスが、廊下にそれを遮断する効果があると、まずいッスね」


 となると、一、二階の間でやった方が無難ッス。


 私は読書さんの位置を確認し、動く気配がないのを見計らって飛び出したッス。


 廊下の手すりを越えて一階に落ちるかたちになるッスが、両手でそのへりをつかみ、勢いとを付加して上昇。


 再び二階に戻ったッス。


 当然、足音もなく、私は読書さんの後ろ五メートルくらいのところにある柱に隠れたッス。


 これは私が覚醒した能力、タタカイノキオクからの応用。


 タタカイノキオクは人類が経験してきたあらゆる戦いの記録が収められている情報空間であり、それを再現する力のこと。


 どこかで誰かがこんなかんじのことをして戦ったことがあるってわけッスね。


 魔力ではなく気の力を使ったのは、相手が魔物なんで魔力を敏感にとらえて気づかれる可能性があったからッス。


 気なら生命エネルギーみたいなもんなんで、それ用に警戒していない限り大丈夫ってわけッス。


「ここからが本番ッスね。ジュマ」


「ジュマ」


 すると私の右手に鉛筆みたいな六角形の水晶が現れたッス。


 中に呪文が封入されているんで、魔力と意思があれば魔法が使えるっていう便利な代物ッス。


 私はそれを握りしめ、柱からスーッと出て読書さんに接近。


 読書さんは変わらずゆっくりとページをめくりながら本を読んでいるッス。


 でもその背中には白い翼があって、イスの背もたれに挟まれないようにしてたたまれてあるッス。


「……」


 事前情報では翼魔よくまさんって視覚や聴覚は宿主からのものになっているらしいんで、このまま読書さんが気づかなければ問題ないはずなんッスが、こうもはっきり見えると、大丈夫かなって心配になるッス。


 まあ、情報を信じてやるしかないッスね。


 ──ドン。


 左手で口を塞ぎ、右の拳で読書さんの胸を叩く、後ろから抱きしめるような動作。


 同時に、読書さんの身体からだ水聖すいせい魔法が発動。


 浸透する聖属性の力が魔物だけをピンポイントで攻撃し、草木を枯らすようにその力を奪っていくッス。


 さすがに翼魔さんも気づいて抵抗すべく翼を広げようとするッスが、こちらの方が早いッス。


 バサバサッとする前に、ハラハラと羽を散らしながら消えて小さくなってるッスね。


 このまま根本までいけば完全消滅ッス……。


 ポー~-~-~-~-ン。


 !


 翼魔さん、消滅の直前に魔力を放ったッス。


 独特の波長をもつこの魔力は、一種の電波。


 おそらく自分の危機を他の翼魔さんに伝えるためのものッス。

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