てへへなさびしんぼ?

(久々に入ったなー、唯菜の部屋)

 中学なってから来たことあったっけ? う~ん、あった気がするような~でもすぐには思い出せないような~。

 二階に上がってからすぐの部屋が愛香の部屋。右にあるのが唯菜の部屋。俺はどっちにも入ったことがあるが、それは双子そろっての三人編成ばかりだ。ちなみに入った回数的には愛香の部屋の方が多いかも。

 だからなんていうか、三人じゃないからか、こんな静かな唯菜の部屋は、いつもとなんかちょっと違う雰囲気……? 今唯菜本人はジュース用意してくれてる。

 左手に勉強机、手前にクローゼット。右手にベッド、その手前にキーボードがあって、本が並んでいる棚もある。

「蛍雪くん」

「んぉぅ」

 俺は振り返って、茶色のドアを開けた。当たり前だが、唯菜が立っていた。おぼん持って。

「ココア持ってきたよ」

Niceナイス!」

 そのおぼんに乗っかっていた、花火の絵が描かれている白いマグカップふたつはココアだった。あれ結構前から存在するマグカップ。

 唯菜が部屋に入ったのを確認すると、俺がドアを閉めた。

 そのまま唯菜が勉強机の上におぼんを置いた。続けて唯菜はベッドの近くにあった小さな水色テーブル(俺のと違って飛行機柄はなく、ただただ水色一色)をちょっと浮かせて、部屋の中央に持ってきた。

 再びおぼんを持って、テーブルの上に置かれた。

 俺はこの間、反復横跳びをしていた。

 もちろん唯菜から疑問符浮かべまくりの表情を向けられる。

 ふぅ~っと一息。右手親指を立ててぐぅってした。

 唯菜はちょっと笑っていた。天使ですねはい。

 勉強机の横に重なってあった、ピンクいクッションと黄緑色のクッションが召喚された。どうやら俺は黄緑色のクッションに座りなさいということっぽい。

 こうして俺と唯菜は、テーブル挟んで向かいに座った。

「てーをーあーわーせーまーしょうっ!」

 ぺったん。

「いーたーだーきーまーすっ!」

「いただきます」

 やっぱりちょこっとにこっとしている唯菜といただきますして、ココアぐびぐび。

「んま!」

 程よい甘さでビターでクリーミーな…………と、とにかくうめぇんだよっ。

 目の前に唯菜が座っている。セーラー装備だけど。ウィンドブレーカーはクローゼットの前にある、木製で服掛ける棒がいっぱい突き出してるようなとこに掛けられている。

 こうして正面から見ていると改めて思うが、愛香の言っていたように、なんだかちょっと楽しそうな顔をしている気はする。

「ゆ、唯菜は~さ?」

 マグカップ両手で持ちながらこっち見てる唯菜。

「お、俺と一緒にいると~……楽しい系?」

「うん」

 うんいただきました。

「いちからひゃくだったら?」

「ひゃく」

 満点いただきました。

「ど、どんなところが楽しいのかね?」

「全部」

「全部キター!」

 もはや辞典の楽しいのページに俺の名前載るレベルだな!

「蛍雪くんは……私といて、楽しい?」

「もち」

 もちついてる唯菜も見てみたいものである。

「いちからひゃくだったら?」

いち阿僧祇あそうぎ

「えっ?」

「あいやいち無量大数むりょうたいすう

 そこでにこっとしてくれる唯菜。天使ですねはい。

「そういや、愛香先に帰ったって言ってた割には、家にはいないんだな」

「商店街でお買い物するって、言っていたよ」

「ほぅ」

 そば打ち体験教室の講師でもやってるんだろうか。すいません適当に言いました。てかそれじゃ買い物じゃねぇし。今のは忘れてください。

「唯菜はついていかなかったのか?」

「……うん」

 なんか若干の溜めがあったが、そういうことらしい。

 二人は仲がよくて、登下校も基本的には一緒にしているようだ。俺は一人っ子だから、きょうだいがいる感じって、どんななのかよくわからないや。

「双子の姉ちゃんがいるって、どんな感じだ?」

 あれこれ昔聞いたっけ? なんとなくふっと思って聞いてみたけど。

「どんなって?」

「え~とほらー。よかったこととかは?」

 う~んと考えている唯菜。これもいい。

「忘れ物があっても、大丈夫なところ……とか?」

「ほぅ」

 確かに。俺何度か学校で絶望したことあったな。給食当番のときのマスクとか……ってそんなの貸し借りしねぇか。うん、俺の今の調子はいまいちだな!

「双子だけど、お姉ちゃんはお姉ちゃんだから、お店での注文とか、私の分も一緒にしてくれることがあるよ」

「愛香もお姉ちゃんやってんだな」

 思い返せば、三人で遊ぶときも用意とか進行役とか…………ぁそれ俺やってたわ。

「蛍雪くんは一人っ子だよね。さみしいこととか、ある?」

「別に」

 ここはきっぱりっ。

「そっかぁ」

 このそっかぁで愛香と唯菜を聞き分けられるようになったらプロプロフェッショナル

「唯菜はさびしんぼ?」

「どうなのかなぁ」

 ちょっとてへな感じの唯菜? いい。

「今日は蛍雪くんが一緒に帰ってくれたから、楽しかった」

「お、おぅよ」

 いつものノリなら当然の結果だと言うところだが、おぅになっちった。

「よ、よかったんなら、また一緒に……帰る、とか……?」

 ちょっとだけ視線が下がったと思ったら、上目遣いになって

「……うん」

 唯菜と一緒に帰る許可を得ましたあ~!

「やっぱその……今日みたいに…………か?」

 ちょっと声のトーン落ち気味だったが、聞いてみた。

 ら、視線下げたまま、ちょっと口もにょもにょさせながら~……

(なんと!)

 ほんのちょぴ~……っとだけうなずいた!

「愛香とも、あんな感じでつないで帰ってる~とか?」

 そこは全力で左右に首を振っている。髪が踊っている。

(でも俺とは……ああなのか)

 唯菜から握ってきた感じだったし、ずっと離す感じなかったし。てことは、つないでいいってこと……だよな? だよなっ?

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