第7話 オイオイオイオイオイ陽キャ死ぬわ……と思う件について



「流石においたが過ぎたかな。ちょっと痛いを目見てもらおうか?」


 脅すように陽キャ達との距離を一歩だけ力強く踏み抜いた。

 先の一撃が強烈だったのか、陽キャ達は無様にも顔面蒼白にしてビビり散らかしている。ウケる。

 まさか最近ありがちな追放ざまぁ展開を自分が味わうことになるとは。まぁ。追放なんてされてないんですけどね。


「な、なぁ、この北原って奴やべぇんじゃねえか?」

「お、おい、ハルト逃げようぜ!? なんかこいつおかしいよ!!?」

「う、うるせぇ!! こぉんのぉ!! 隠キャ如きがイキリやがって!!!!」


 ハルトと呼ばれたおそらくリーダー格は引くに引けないのか、取り巻きの静止を振り払って拳を向けてきた。

 この状況を見てなお刃向って来るとか、ほんと陽キャって体裁しかないのな。

 腕を掴んで軽く力を込める。


「て、てめぇ!!? 止めやがれよ!! 折れたらどうすんだよ!! 俺の親は弁護士だぞ!! 訴えてやんぞっ!!!」

「えっ、先に殴りかかってきたのそっちじゃん。そんなこと言っていて恥ずかしくないの? ていうか今更弁護士? そんなこともう意味ないじゃん」


 その変顔にも目を見張るものがあるが、それよりも言動がおかしい。

 本当に今更何を言っているのだろうか。世界にゾンビが溢れ、倫理も法律も無いのに言う事かいて弁護士とか。この後に及んで親の七光に頼るとか恥ずかしくないの?


「あぁ、もう糞!! やってられっか!! てめぇでやれるんだったら自分で食料なんかとって来てやんよ!! だ、だから離しやがれ!!」


 あんまりにも五月蝿いので素直に解放してあげた。ステータスによる恩恵は凄まじいもので、このまま掴み続けていたら骨を折そうで怖いし。


「て、てめぇ待ちやがれ!? どこ行く気だ!?」

「いや付き合ってられないし帰るね。運よく生き残れるといいね」


 いや待てと言われましても困るんですけど。

 知りたいことは知れたし、もう付き合っていられないので帰ることにしよう。

 僕は動物園にいる猿の如く喚き声を上げる陽キャを無視して、出口の方へ歩き始めた。



 ◆



「ま、待ちやがれっ! この隠キャ野郎!!!」

「えぇ……まだなんかあるの?」


 出口に差し掛かろうとした時、また聞くに耐えない汚いダミ声が耳を貫いた。正直げんなりするし勘弁して欲しい。

 もしかして頭悪い?

 どう考えても君に勝ち目がないじゃん。頼みの親の七光もこのゾンビだらけ世界じゃろくに通用しない。暴力に訴えたところで、それが無理なのは先ほど嫌と言うほど分からさせられたはずだ。この上何をするって言うんだ。


「お、お前がいけないんだからな!! 隠キャの分際でこの俺に逆らいやがって!!」

「ちょ、それフラグ!?」


 おいおいおい死ぬわアイツ。スッゲー嫌な予感がするんですけど。

 ムンク知ってるよ、ゾンビものであぁいうこという人は真っ先に死ぬって。


「ハハハハ!!! 今更後悔しても遅いからな!!!! 泣いて謝っても絶対許さねぇ!!」

「待ってハルト!! それは不味くね!?」

「う、うるせぇ女は黙ってろっ!! このままコケにされたままでたまるか!!!」

「きゃっ!?」


 ビッチさんの必死の制止をも無理矢理振り払い陽キャ氏は奥の方へ向かう。振り払われた彼女は勢いよく地面に叩きつけられそうになっていたので、なんとか駆け込み抱きかかえた。必死と言うわけでもなく、今の僕の身体能力からすれば造作もない事だ。


「お、オタク君……? あ、ありがと」

「え、あ、はい。ケガが無くて良かったデス」


 おいやめろ。ちょっと頬を赤らめないで欲しい。隠キャオタクはチョロインだから、そういう事されると痴女相手でもときめいちゃうだろ。僕は清楚系黒髪ロングがいいって心に決めているんだ。でも、そう言うタイプほどエグい性格しているって聞くしなぁ……やっぱり世の中はクソ。

 世の中のクソさ具合はさておき、陽キャ氏の剣幕には並ならぬものを感じる。とても嫌な感じだ。


「ちょっと待って、アイツ何するつもり?」

「ハルトの奴、正気じゃないよ……だってあそこには奴らが……!」


 クソが、そういう事か。

 陽キャ氏が向かう先には鉄の扉らしきものがある。あれは防火扉か?

 とにかく僕の予想が正しければ、アレは上の階につながる階段を封じている扉だ。重厚な鉄造りの扉で並大抵の衝撃には耐えられるのだろう。だからこそ、その先には奴らがいるはずだ。


「あーあ、俺もう知らーね。アイツらが出てきちゃうぞぉー! お前が、お前が悪いんだからなお前が。陰キャの癖にいきりやがって! アヒャ、アヒョヒョ、アヒャヒャヒャヒャ!!!!!」


 不味い、もう間に合わない。  

 既に頭がイカれているのかヤケクソなのか、既に扉に手をかけて開く間際だ。自らだって危険に晒す行為で、到底理解できるものではない。取り巻きの連中も波打ち際に打ち捨てられたオットセイのごとくアウアウ呟いて困惑するばかりだ。ちっ、クソの役にも立たん。


「ヒ、ヒャハハハハハ!!!!!! アヒャヒャヒャヒャ!!!!!」

「アぁあaA%ア……!!!!!!!!!!!!!!!」


 結局、この場にいる誰もが彼の強行を止めることが出来ず扉は開かれてしまった。

 狂嗤が僕らを小馬鹿にするように反響する。ついにはガシャンと耳を殴りつけるような重音と共に扉からゾンビ達が溢れ出てくるのだった。


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