7、【第一部 最終話】魔王と勇者



「‥‥‥何故だ」


 上半身を起こし自分が生きている事に驚く魔王。


「良かった、上手くいったみたいよマルチナ!」


 すぐ側に座っていた僧侶メリル。


「‥‥そうか‥‥それは良かった!」


 派手なマントにくるまり顔が見えない勇者マルチナ。


「‥‥‥いったい何をした?」


「マルチナが持っていた秘薬をダメ元で使ってみました」


 僧侶メリルが空になった瓶を魔王に見せる。


 『全能の雫』全ての状態異常を無効化、体力魔力共に全回復。種族を問わず全ての生命に恩恵をもたらす。


 魔王が勇者マルチナに以前渡した物だ。


「‥‥‥それはかなり貴重なアイテムだ。どこで手に入れた?」


「貴方に貰った物だ。家に帰ったらただの風邪だった母がピンピンしていたから使ってなかった!」


 派手なマントにくるまりモゾモゾと動く勇者マルチナ。


「‥‥‥‥其方は何をしておるのだ?」


「うるさい!」


 モゾモゾと動く派手な物体をニヤニヤと見つめる戦士レナと僧侶メリルとガーゴイル。


「お主も無事であったか」


「魔王様もご無事で何よりです」


 跪くガーゴイル。


「‥‥邪神は?」


「魔王様に魔法を放つと消えました」


「‥‥‥そうか。‥‥しかし、この後どうなるのだ?」


「全くわかりませぬ」


 本来なら邪神が去った後、魔王との激闘で満身創痍の勇者達は街に戻る。

 そこで傷を癒やし情報を手に入れ、再び邪神討伐に旅立つのである。


「とりあえず其方らは一度戻り、ゆっくり休め。‥‥‥で、其方は何をしておるのだ?」


 モゾモゾと動く派手な物体は前が見えない為、足を絡ませ床に転がっていた。


「うるさい!無事で良かったな!‥‥では帰る!」


「‥‥‥勇者マルチナよ、一応礼を言っておく」


「‥‥それだけか?!」


「‥‥‥何なのだいったい」


 ポツリと呟く魔王。


「マルチナは貴方が死んだと思って、物凄く泣いて大変だったんですよ」


 横に座っている僧侶メリル。


「言うな!」


 急に立ち上がった為、派手なマントがハラリと落ちる。

 泣いてくしゃくしゃな顔の勇者マルチナ。

 すぐに派手なマントを装備し直した。


「見るな!」


「‥‥‥だから何なのだ」


「‥‥帰る!また来る!」


 そう言うと勇者マルチナは逃げ出した。

 戦士レナと僧侶メリルもニヤニヤしながら頭を下げて出て行った。



「これからどうする?」


「魔王様、もっと気の利いた言葉を言えないのですか?」


「‥‥‥お主、余の話を聞いておるのか」


 魔王は玉座に座り足を組んだ。






「魔王様、勇者マルチナのパーティーが攻めて来ました」


 ガーゴイルが跪き報告した。


「‥‥‥攻めてこられても、もう余では奴らに勝てんぞ」


 玉座で腕組みの魔王。


「‥‥でしょうな」


「‥‥‥お主、最近生意気」


 ガーゴイルは深く頭を下げた。


 トントン!


「入れてやれ」


 ガーゴイルが扉を開けると、勇者マルチナのパーティーが颯爽と現れた。

 

「其方ら、こんな所で油を売ってる場合ではなかろう。早く復活した邪神を何とかしろ」


「その事で話がある!」


 仁王立ちの勇者マルチナ。


「‥‥余は邪神については殆ど知らん。他を当たれ」


 現時点で生きていてはいけない魔王。

 邪神の情報は何も手に入らない。


「邪神は物凄く強いと聞いた、このままでは勝てない。だから4人目のパーティーメンバーを入れる事にした!」


「‥‥‥遅すぎる、余と戦う時点でも3人パーティーはおかしいのだ。まあ、それに負けた余に何も言う権利はないが‥‥‥」


 仁王立ちの勇者マルチナは偉そうに胸を張る。


「負けた貴方に拒否権は無い!」


「‥‥‥嫌な予感がするな」


「魔王、貴方を4人目のパーティーに入れる!」


 魔王を指差し勇者マルチナがニコリと笑う。


「‥‥いや、それはないだろ。余は魔王ぞ」


「貴方に拒否権は無い!」


「‥‥勇者と魔王が同じパーティーなど聞いた事がない‥‥諦めろ」


 玉座に座りやれやれといった感じの魔王。


「負けたくせに我儘言うな!」


「‥‥‥我儘とかじゃなくて。‥‥それに余は勇者達がいつ攻めて来ても良いように、この城から出る事が出来ん」


 魔王は溜息を吐き肩をすくめた。


「‥‥お言葉ですが魔王様、勇者達は今後邪神を攻めますので、ここにはもう攻めて来ないかと」


 跪きガーゴイル。


「‥‥‥‥では余はこれから何をするのだ?」


「大変ですな、何をしましょう?」


 ニヤニヤするガーゴイル。


「‥‥お主、生意気さに拍車がかかっておるな」

 

「決まりだ!」


 満面の笑みの勇者マルチナ。


「‥‥‥本当に?」


「魔王様、城の事は私にお任せ下さい。邪神の情報も部下を使い集めておきます」


「‥‥勝手に決めるな」


 跪くガーゴイルを睨む魔王。



 暫く静寂。



「‥‥‥‥‥まあ‥‥‥それはそれで、面白くあるか‥‥‥」


 魔王は頷くと玉座から立ち上がる。


「後の事は任せる」


「はっ!」


 跪き頭を深く下げるガーゴイル。


「勇者マルチナよ、余を手に入れたのだ邪神などすぐに屠ってみせよ」


 ニヤリと笑い魔王は勇者マルチナに視線を向けた。


「任せろ、貴方がいれば私はどこまでも強くなる!」

 

 勇者マルチナもニコリと笑い魔王に視線を向ける。


 


 魔王が仲間になった。






「まず何をすれば良い?」


 勇者マルチナのパーティーである、基本方針は勇者マルチナが決めるものだ。


「まずは私の親に会って貰う」


「‥‥‥何故だ?」


「挨拶は大事だろう!」


 勇者マルチナは、左手の薬指に光る指輪をニコニコしながら魔王に見せた。

 頬が赤い。


「‥‥‥パーティーメンバーに何の挨拶をさせる気だ」


「あ、パーティーの基本作戦は『命令させろ』だから貴方も忘れないように!」


 頬を染めながら可愛らしく笑う勇者マルチナ。



 色々やらかしたかもしれない、そう思う魔王であった。






  〜〜〜  第一部  完  〜〜〜

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