第2話
「とりあえず来てくれっ!」
「は、え? ちょ――おい!」
手を掴まれたと思った矢先、今度は手を引かれてどこかへ連行される。
周囲からは豪雨のように視線が降り注ぐ。
(グッバイ、俺の平穏な高校生活――)
俺の頰に煌めく流れ星が落ちる。
あとで嫉妬に駆られた獣たちによって血祭りにされなければ良いなと内心思いながら大人しく連れていかれる。
連行先は場所は人気の無い校舎裏だった。
伊集院さんと言う人はピタッと止まると同時に振り向き、こう言ってくる。
「全く……今までどこで何してたんだい? ――レイニィ・ウィンクルムくん」
「れ、れいにー……? 一体全体なんのことだ?」
「え? も、もしかして覚えてないのかい? ボクだよボク。前世の名は――シエル・ディアマンテだよ」
「覚えてるも何も、話すのは初めてだろ? というか前世……? 何言ってるんだ?」
「ふ〜む……。今のボクより記憶障害が重症なのかな……」
唇に人差し指を当て、数秒考えていた。
「ちょいと失礼」
「んなっ……!?」
ぐいっと近づき、俺の前髪を上げ始める伊集院さん。
一気に気温が上がったのかと思うほど俺の顔は熱くなり、心臓は今にも爆発しそうなほど鼓動していた。
近くで見たらすごい可愛いな。さっきはいきなりすぎて見る暇がなかったが、じっくり見ると雪みたいに白い肌に血色のいい唇、本当に宝石みたいな瞳だ。
「ふむ、キミの
「いっ!? いや、なんでもない……。というか、一体なんなんだ? 俺をここに連れてきて」
危ない。ガン見してたのがバレるところだった。からかわれるのは勘弁だ。
「ボクの顔は後でいくらでもチラ見すればいいから、今は話を進めるよ」
「っ……。お前、良い性格してんなぁ……」
「褒めても何も出ないよ?」
「褒めてない……」
この美少女、俺が思っているほど性格は女神ではないみたいだ。
「事情が事情だから割愛して説明すると、『キミはボクとともにファンタジー世界から転生した最強賢者。そして、今地球がやばいから早く記憶取り戻してボクが所属している
「どこぞのラノベか? 俺をからかいたいならこの話はもう無しだぞ」
「男の子ってこういう話好きなんでしょ?」
「俺はあくまでフィクションとして好きだ」
「ふ〜ん、つまんないねぇ」
「なんとでも言っておけ……」
俺が中二病だったとしても、こんなありもしない非現実的な話を信じるわけがない。
前世が最強の賢者? ――ラノベじゃあるまいしあるわけ無い。
地球がやばい? ――今ほど平和な時なんか無いだろう。ニュースでパンダとか食レポしか流れてない平和な時代だ。
ま、遭遇したことがあるのはあっても違法薬物の密輸やら、強盗、バスジャック、テロとかぐらいしかない。……これぐらいは普通だよな?
「じゃあ俺は教室行くぞ。さっきのは人違いだったっていうことでみんなに言っておいてくれ。じゃっ」
俺はこの場を足早に立ち去った。
「あ、ちょっと待って――むぅ! ボクをコケにしたこと……後悔させてやる……!」
###
自分の教室に行くと、やはり注目の的になってしまった。
だが、まだ入学初日なのでそんなに話しかける人はいなかったので、自己紹介あたりで誤解を解いておくしかない。
誤解を解くための脳内シュミレーションをしていると、教室の雰囲気がガラッと変わった感覚がした。
「同じクラスだったんだね、零紫くん」
「うげぇ……」
俺の席の隣には、さっきぶりの伊集院さんが座っていて俺の名を呼んでいた。
まさか同じクラスで隣の席だったとは。
ちなみに伊集院さんの席は一番後ろで窓側の席。勝手にそこを『主人公席』と俺は呼んでいる。
「よかったねぇ、ボクみたいな美少女が隣の席なんて」
「自分で言うのか……」
「人生で千回以上告白されたら流石に自覚するよ。それとも、『ボクなんてブスです』とかぶりっ子かませばいいのかい?」
「さっきの方がマシだな」
「だよねぇ〜。キミならそういうと思ったよ!」
「なぜわかるんだ」
「いやー……なんせ、ボクたちの仲じゃないか〜!」
こ、コイツわざと大声で言いやがった!
完全に俺たちがこのクラスは全ての視線を集めていると言っても過言ではないぞ……!?
ニマニマしてムカつくが、やっぱ可愛いわ、こいつ。口に出しては絶対言わないけど。
「お前……。なんて事してくれてんだ……!」
「さっきボクを軽くあしらった罰さ」
ああ……クソッ! なんで俺がこんな目に会わなければならないんだッ!
俺は先生が来るまで、視線の集中豪雨に打たれながら耐えた。
そして、入学式までまだ時間があるみたいなので、自己紹介の流れになった。
「――です、みんなよろしく」
自己紹介の後はみんなと一様に拍手をし、適当に聞き流している。
そして、次は隣にいる伊集院さんの番となった。
「皆さんこんにちは。知ってる人もいるかもしれないけど、ボクの名前は伊集院美空です! 趣味は野球観戦とか一人旅……なんだけど――」
「……ん?」
気づけば伊集院さんがじっと俺を見つめていた。ものすごく嫌な予感がする。
「気が合う最高のパートナーだったら、二人旅でもいいなぁ〜なんて、ね?」
「「「「「なっ!?」」」」」
「〜〜っ! 本っっ当にお前は……ッ!!」
あー……こいつの性格本当にいいよ。
最高の皮肉を込めて言えるなぁ。
「よろしくね♪」
「胃が痛い……」
ニヤニヤとした表情の伊集院さんと、絶望の表情を浮かべる俺であった。
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