side ヴィンセント

少しの間抱きしめていると、微かな寝息が聞こえてきた。腕を緩めて覗いてみると、あどけない、年相応の可愛い寝顔が見えた。そのまま静かにベットに寝転がせる。身体は驚く程に軽く、本当に痛々しい。ベットの中で自然に縮こまる男の子をみて、心が痛くなった。

部屋の扉が開き、エドさんが入ってきた。

「どうした?」


「この子が、少し熱っぽかったから。どうすればいいのか分からなくて。」


「ああ、成程。いろいろあって疲れたみたいだね。大人しく寝ていれば大丈夫だよ。」


エドさんはお父様の友人で、僕が小さい時からお世話になっている我が家の専属医師だ。とても頼りになる。


「今は、大人しく寝かせておいてあげるといいよ。ただ、離れないであげな。この子は君に懐いたみたいだし、不安にさせるのは可哀想だろう。この子の心の傷は思ったよりも深いみたいだしね。」


男の子の手は今もまだ僕の手を握ったままだ。

僕が離れようとした時、この子の身体は震えていた。思わず抱きしめてしまったが間違っていなかったらしい。懐いてくれたことに、僅かな喜びを感じる。


「用事が済んだら、一緒に寝ようかな。他の面々に羨ましかまられそうだけど…」


「まあ、この子が今懐いているのは君だけだしね。いい考えだと思うよ。」


「じゃあ、そうする。」


男の子の頭を撫でてあげると、少しだけ表情が和らいだ気がした。

この子に今までの苦しみ以上の幸せを与えてあげたい。僕はひそかにそう、決意した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る