第38話 猫貴族、魔力溜まりを発見する


ホブゴブリンの記憶を覗くと、そこには夥しい数のゴブリンがいた。

今も洞窟の奥からゴブリンがはい出てきており、あっという間に100を超える数が集まった。


そして始まったのはゴブリン同士の殺し合い。

拳と拳でぶつかり合う者もいれば、その後ろから襲い漁夫の利を狙う者も、遠くから石を投げる者もいた。

数時間にも及ぶ激闘を制したのは、一匹のゴブリンだった。

いや、戦闘を終えた途端進化を果たしたので、今ではホブゴブリン。


そのホブゴブリンを待っていたのは、全身を黒いローブに身を包む男と、武装した7体の同胞―ホブゴブリンだった。

黒いローブの男は他のホブゴブリンたちと同様の装備をホブゴブリンへ授け、見つからないように周囲の魔物や動物を狩り、戦力上昇に努めるよう指示を残すと洞窟から出て行った。







「これは思った以上の異常事態だ。誰かがこのホブゴブリンたちをここに無理やり連れてきて殺し合わせることで進化を促したみたいだ」


「なるほど。そして進化したこいつらが周囲の魔物を狩っていたため、森が静かだったということですな」


「とにかく奥へ行ってみよう。こいつの記憶では奥からゴブリンが沸いて来ていた」


辿り着いた洞窟の最奥では、50cm程の魔力で出来た水たまりのようなものが地面に存在していた。


『これは魔力溜まりにゃ』


「魔力溜まり?」


『何らかの要因によって空気中にある魔力が異常をきたし、一ヶ所に魔力が留まることで発生するにゃ。そしてこの魔力溜まりは魔物を生み出すにゃ』


「魔力溜まりとはまた懐かしいもの出てきましたな」


ヴィクターの説明によると、彼が封印される前の時代では強力な魔力を持つ大物悪魔同士が戦ったりすると、その際に発生した大量の魔力がそこへ留まることで魔力溜まりが発生していたとのことだった。

その魔力溜まりが周囲の地を吸収し成長していくと、【ダンジョン】と呼ばれる無数の魔物が永遠に生み出され続ける魔物の巣窟へと生まれ変わるとのこと。

ダンジョンに吸収されたものは強力な魔力を浴び続けたせいか強力な武器や魔道具となって発掘されるそうで、魔法の鞄マジックバッグもその一種だそうだ。


『そういったダンジョンが発生しないために、世界各地で魔力の安定化を図っていたのがあたしたち神獣と呼ばれる存在にゃ』


「なるほど。女神様が言ってた天変地異の一つってことか。でも今回のはもしかするとあの黒ローブが人為的に引き起こしたのかもしれないな」


『とにかくこの魔力溜まりは早々に処理する必要があるにゃ』


「そうですな。通常なら魔力溜まりの処理はかなり入念な準備が必要ですが、幸いにもルーク様は漆黒魔法持ち。何の問題もございませんな」


「わかった。なら消滅させちゃうね」


『ブラックホール』


僕の手のひらから30cm程の黒い渦が発生し、魔力溜まりを地面から引き離し吸収していく。

この『ブラックホール』は幼い時に無意識に使っていた『ダークボール』とは異なり、僕の意思で消滅させるものを指定出来る魔法だ。

ただ、まだ今は30cmの大きさが限界であまり大きなものを消滅させることが出来ないので、大きい物を消滅させたい時はあれから漆黒魔法として自在に扱うことが可能になった『ダークボール』をぶつけた方が有効なのでいざという時はそれをぶつけるつもりでいる。


「うまくいったね。それにこの魔力溜まりにあった魔力がそのまま僕の魔力として上積みされたみたいだ」


「確かに吸収前と比べるとわずかですが魔力量が増えてますな。ルーク様の魔力を増やすためにも各地の魔力溜まりを探して吸収するのはいい手かもしれませんな」


『あたしも賛成にゃ。魔力溜まりが存在し続けると、周囲の魔力が不安定になり、生態系だけでなくこの星そのものにも悪影響を及ぼすのにゃ。この星の魔力の安定化のためにも主には魔力溜まりを探して吸収していってほしいにゃ』


「女神様にも魔力の安定化は頼まれていたことだし、僕自身の強化にも繋がるから各地の神獣を探しながら一緒に探すことにしようか」


怪しげな黒い影の輪郭を捉えつつ、今後の目的に魔力溜まりの吸収が追加されたのだった。

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