第3話 プリンスとポルシェ

 第2回日本グランプリの日。このレースは何もかもが特別だった。観客席にはレースファン達が押し寄せ、割れんばかりの歓声をクルマ娘たちに向けて轟かせていた。黎明期のグランプリは現在と比べて、格段に違う注目度と熱気に満ち溢れていたのだ。


 パドックで子羊のように縮こまるプリンス・スカイラインGTは、大方の予想通り震え上がっていた。思わず居合わせたドライバーに吐露する。


「や、やばい。すごい緊張してきた。どうしよう……ねえ!?」


 レース監督にやって来た顧問の先生やドライバーと呼ばれる指導員、補給、医療班の生徒達はチーム一丸となってプリンスの走りを支えていた。


「今更、何言ってるんだ? 全力でぶつかってこい!」


「そんな~……。生沢ドライバーさんだって緊張してるくせに」


「お前にはポテンシャルがある。選ばれたのも運じゃない」


 41番のゼッケンを付けたサーキット専用服で走るプリンス・スカイラインGTは、可愛らしい私服で応援に来た五十鈴ベレットGTに発破を掛けられた。

  

「がんばって! トレーニングの成果を発揮して、名を上げる絶好のチャンスよ!」


「それは分かってんだけど……」


 その時、ふくよかな胸にゼッケン1番を輝かせる、金髪のクルマ娘がパドックに姿を現わした。

 神に祝福されたかのような伸びやかな肢体、輝く笑顔、眩しいボディラインにフィットした競技専用服姿のポルシェ904こと、ポルシェ・カレラGTSその人であった。


「プリンス! いよいよレース本番ですネ。スズカサーキットで一緒に走れるコトを、とっても嬉しく思いマス!」


「いや~、ずいぶん余裕だね。当たり前か~。私は見ての通り、へろへろだよ」


 顔面蒼白のプリンスを見かねたのか、ポルシェ904は心配そうに駆け寄ると、彼女の手を取り、俯きかげんの額に優しくキスしたのだ。その一部始終を目撃した、パドックのスタッフから驚きの声が上がる。


「大丈夫ダカラ! お互いに全力を尽くして、がんばりマショウ!」


「カレラ……!」


「アリガトウ、プリンス・スカイラインGT。……やっと私のコトを名前で呼んでくれたネ」


 プリンスはスポーツマンシップに裏打ちされた、ポルシェの暖かさに心打たれたのだ。そして覚悟を決めたかのようにパドックから出撃すると、二人並んでスターティンググリッドに臨んだのであった。



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