クルマ娘キュートレーサー

印朱 凜

第1話 クルマ娘登場!


 ここは、かつての私立名車女子学園の高等部。この世にあまた存在する名車の、優れた魂を宿したクルマ娘達が通う名門校のひとつなのである。


 教室にいるクルマ娘の一人、プリンス・スカイラインGTは躊躇していた。

 それもそのはず。窓際に佇む金髪の留学生、ポルシェ・カレラ904の横顔は絵画のように美しく、同性でも思わず見とれてしまうほどの美貌であった。触れてはならない高貴なオーラさえ漂わせている。

 ついに意を決した小粋な美少女、五十鈴いすゞベレットGTがプリンス・スカイラインGTを焚き付けた。


「ほら、プリンスさん! ポルシェさんに日直当番の説明をしちゃって!」


「ええ~! 何だか話しかけにくいよ。私なんか相手にされるかなぁ」


「何言ってんの! 日直当番のペアに当たったんだから、姫と仲良くなれるチャンスよ。さあ、行ってきなさいって!」


「ひょえええ~!」


 ショートボブの五十鈴ベレットGTに背中を押されるように、プリンス・スカイラインGTはポルシェ904の前に躍り出た。


「こ、こんにちは、ポルシェさん。え~と、実は今日、私達二人は日直当番なの。一緒にがんばろうね?!」


 しばらくキョトンとした後、プリンスの事をつぶさに見たポルシェは碧い目を細めた。


「ええ、分かりまシタ。プリンス・スカイラインGTさん。色々よろしくお願いしマス」


「こちらこそ……よろしくね。ポルシェさん」


 緊張気味のプリンスに、ポルシェは屈託のない笑顔で接してくれたのだ。


「あら、意外と……」


「私が、どうかシマシタか? プリンスさん?」


「い、いいえ! 気になさらないで下さいまし。 何でもないのでございますことよ! お、おほほほ!」


 それから二人で黒板を消したり、学級日誌を書いたりしているうちに、すぐに昼休みの時間が訪れた。プリンスは思い切って一緒にお弁当を食べようと、ポルシェが座る席の隣に陣取ってみた。


「あ、あのポルシェさん……。お隣で食べてもいいかしら?」


「……ドウゾ」


 いつも一人で食事していたポルシェ904は、少し驚いたような表情を見せた後、気さくに接してくれたのだ。


「あら、サンドイッチに切ったリンゴ……」


「ドイツ人だからとイッテ、毎日ソーセージやザワークラウトを食べているワケないジャナイデスカ」


「ふふふ、そうね。日本人だからといって、毎日スキヤキや天ぷらを食べてるはずないもんね」


「ワタシは日本に来るマデ、日本人は毎日スシを食べていると思っていまシタ」


「あはは! そうなの? スシは毎日食べるには、結構お金がかかるのよ、ポルシェさん」


「そうなのデスか!?」


『あはははは……!』


 壁を作っていたのは、どっちだったんだろう……。

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