第4話

「しっかし、電車来やんなぁ」

飛び降りた近辺の在来線の駅は、美乃坂本駅であった。中央本線はお世辞にも本数が多い方とは言えず、二人は待ちぼうけを食らっていた。

「仕方がないだろう。飯田線よりはマシだ」

 海斗はリニアが通る場所の下調べを事前に済ませていた。飯田線は秘境路線とも言われていて、本数は中央本線を下回る。

「そりゃそうかもしれないけど……」

 桃虎は通信端末を取り出した。まだこの状況を上司に伝えていなかったのだ。報告を始める彼女をよそに、海斗は考える。


彼の生まれは、神奈川県横須賀市。軍港がある街だ。そして海斗の恋人、桜木優莉は隣の横浜市に住んでいる。海斗の懸念はここにあった。

モモゾノは、今東京の上空に居るという。今は東京でも、南下して神奈川県に現れる可能性も決して低くはない。そうなれば狙われるのは当然、人口が多い横浜市や川崎市になる。そうなった時、優莉を失ってしまうかもしれない。それが海斗の不安であった。

「なーに辛気臭い顔してんの。彼女の心配?」

桃虎と海斗は同期である。お互い初任務がモモゾノの殲滅。元々仲が良かったわけではないが、鉢合わせたら挨拶と世間話をするくらいの関係性である。その中で、恋人のことを話した__海斗はそう記憶している。

「まぁ、少しだけ。しかし任務に異常はない」

「そう。ま、私たちもなるべく急いであっちに向かわなきゃね。次の電車まであと二十分。今は落ち着いて、状況を整理しよう」

 そう言い桃虎は端末をこちらに向けた。この端末は通信だけでなく、レポート作成やノート機能なども備わっている。そこには簡潔に、今起きた物事が書かれている。新幹線での急な出来事、モモゾノの移動。海斗のいまいち回っていない頭でも容易に理解できた。

「これが僕たちが置かれている状況という訳か」

「そう。私たちは三重県からリニア新幹線に乗った。で、名古屋を経由して今は岐阜。こうなった以上、リニアはもう使えない__それどころか、東海道新幹線も怪しい。となれば手段は一つ。名古屋でレンタカー借りて東京まで高速ドライブと行くしかない」

だけど、と桃虎は問う。

「どっちが運転する?私が運転した方が速いかな」

 桃虎の運転は所謂『名古屋走り』と言われるものだ。要するに、速いが荒い。海斗の運転は慎重だが、急いでいる以上それではいけない。

「すまない、頼んだ」

 それを理解しているので、海斗は桃虎に一任した。どんな運転をされても、文句は言わないようにしよう__そう決めたのだ。

「文句は受けつけやん。それでもええ?」

「勿論だ」

 お互いの信頼関係の上に成り立つ会話だった。そうこうしているうちに、名古屋行きの電車が姿を現した。

「じゃあ、乗ろうか」

「ん」

二人はその電車に乗り込み、中京の大都会へ繰り出す。


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