第10話:清花の本音

 あれ以来、彼女のあの表情が頭から離れない。今まではただの友人だと思っていたのに。

 清花と付き合っていた頃はこんな気持ちになったことはなかった。やっぱり彼女に対する感情とは違うのだろうか。

 そんなことを考えていたある日の帰り道、清花とばったり会った。


「雨音。久しぶり」


「お、おう。久しぶり」


 彼女の視線がスカートに向けられる。そういえば、彼女には服装の趣味の話をしたことがなかった。何か言われるのだろうかとドキッとしてしまうと、彼女は「可愛いじゃん」と笑った。


「あ、ありがとう」


「あははっ。何? キモがられると思った? 幼馴染で元カノなんだからちょっとくらい信用してよねー」


「……悪い」


「良いよ。……ねぇ、雨音」


「ん?」


「……好きな人、出来た?」


 彼女にそう問われて真っ先に浮かんだのは、真っ赤に染まる日向さんの顔。


「出来たんだー」


 ニヤニヤする清花。俺は今どんな顔をしているのだろう。恋をしていると一目でわかるような顔をしているのだろうか。


「……まだよく分からんけど、多分、好きなんだと思う」


「そっか。……男?」


「いや、女」


「……そうなんだ。……女か」


 俯き、彼女は呟く。「雨音は女に興味無いと思ってたけど、違うんだね」と。そして深いため息をついて続けた。「本当は、雨音のことずっと好きだった」と。


「……雨音の気持ちは友愛だったかもしんないけど、うちは違ったよ。違ったから……別れたかったんだ。近いのに遠くて、辛かった」


 そう言って顔を上げて笑った彼女の瞳から涙が溢れる。彼女は慌てて後ろを向いた。


「友達の頃の方が楽しかったのは本当だし、今更好きになってとも、ヨリを戻したいとも言わないから。ただ……うん。……頑張ってね。応援してるから」


「……おう。ありがとう」


「……こちらこそ、ありがとう」


「……うち、帰るね。じゃ、また」


 逃げるように去っていく彼女の背中を見送る。星野に対して鈍感すぎると苦笑いしていたが、俺も人のこと言えないなと反省した。

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