4.戸影 和代(56)会社員の場合

 和代は誕生日の朝、食事をとりながら考えていた。

 四捨五入すると60になってしまう歳になってしまった。あきらとの夫婦2人の生活に不満はないが、やはり子供がいたら楽しかっただろうなぁと思う。私は、昔から子供が欲しかった。一人っ子だったため、お兄ちゃんお姉ちゃん、妹や弟に憧れていた。だからか子供は2、3人と漠然と思っていた。しかし、私とあきらの間に子供は居ない。授からなかったのだからしょうがない。そして、もう産める歳でもないのだから…。

 私の友達の子供はそろそろ成人したり、社会人になったりそういう歳だ。なんなら孫がいる友達もいる。もし私に子供がいたら…。友達から子供の話を聞くといつも考えてしまう。たぶん私は諦めきれていないのだ。

 この生活に不満があるわけではない。あきらは毎日朝食を作り、掃除などの家事も平等にやってくれ、休みの日なども私との時間を作ってくれ、とても良い夫だ。だからこそ、子供がいたら、良い父親になってくれたのではと考えてしまう。自分のことながら本当に諦めが悪いなと思う。

 そんなある休日、テレビをみていると、里親の特集をしていた。目から鱗が落ちるようだった。そうか、自分で産まなくても、子供をもつことが出来る!母親になれる!と。ただ、私はあきらに子供が欲しい、欲しかったと言ったことはなかった。あきらに言ったらどんな反応をされるだろう?良い案だといってくれるだろうか?それともこの歳になって何をいっているんだと言われるだろうか?でも、きっと、あきらは賛成してくれるだろう!

 あきらに話すと、私の想像とはうらはらに賛成も反対もされなかった。ただ、なぜ?と優しく尋ねただけだった。私はずっと子供が欲しかったこと、諦めきれなかったことを話した。するとあきらは言った。


 「里親として子供を育てることは出来ると思うよ。僕も実は子供が欲しかったんだ。僕は4人兄弟だったからね。2人で、静かにゆったりも好きだけど、賑やかなのも好きなんだ。それに環境面に関しては十分な物を揃え与えてあげられると思う。だって僕たちは、2人で働いてきて貯金も十分にあるでしょう。」


私は嬉しかった。あきらも賛成してくれていると。でも、あきらは私よりずっと現実的だった。


 「でも、私たちの年齢は、もう孫がいたりする歳だよ。参観日とか学校に行った時におじいちゃんとかおばあちゃんとか言われて、引き取った子も僕たちも傷つくかもしれないよ。それに順調に進学して、引き取った子が大学を卒業する頃に僕たちは80近い。貯金があるから、学費の心配は要らないけど、僕たちに介護が必要になっていたらどうする?老人ホームとかに入れればいいけどーー…。」


 あきらは私が軽く提案した里親という選択肢について深く考えてくれた。これは私を諦めさせるための言葉ではなかった。純粋に本当に里親になったとして、と真剣に考えてくれた。

 話し合った結果、私たちは里親になることを決めた。この歳で子をもつと大変なことも沢山あるだろう。でも、私たちは、軽い気持ちではない。もし引き取った子が悲しむようなことがあったら全て受け止める。どんなことがあっても、その子を守ってみせる。そんな気持ちで、様々な手続きや審査を乗り越え、日向という女の子の里親となった。

 日向は捨て子だった。日向が捨てられた年は、多くの子供たちが、捨てられていたり、放置されていたりしたのを保護されニュースにもなった年だった。日向は2歳で私たちの元へ来た。捨てられたのは1歳の頃みたいだ。ぱっちりしたお目目に柔らかなネコ毛のとっても可愛い日向を捨てるなんて信じられない。本当に日向は可愛いのだ。  

 私たちの生活は日向が来たことにより、大きく変わった。大変な事も多いが、私は今とても幸せだ。


今は小さい小さい日向が健康に育って、

幸せになることを

私は毎日祈りながら、生活している。

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