第2話 まずは、家族と仲良くなろう

 ゲーム中の悪役令嬢ロザリア=ローゼンベルグはありがちな高飛車お嬢様である。




 きつい印象の美貌と同じくきつい口調。胸は大きく素晴らしいプロポーションの持ち主(現在は幼児なのでつるぺただが)そしてドリルのごとき縦ロールがトレードマークである(現在はゆるいウェーブヘア)さすがに3歳でドリル巻きはないと思うしそもそも微妙なので私がドリルを装備することはないかもしれない。




 そんなロザリアの破滅は大きく分けて3つ。




1、処刑エンド。攻略対象の第1王子・第2王子のエンドで 発生。ヒロインをいじめ、さらに殺害を計画した罪により断罪されて死ぬ。一応父は公爵で国内でも有数の貴族だが勘当され見放され、死ぬ。一番悲惨なエンド。




2、暗殺エンド。攻略対象の兄・義弟のエンドで発生。流れは処刑と一緒でヒロイン殺害を企て、暗殺される。というか、手を下したっぽい記述がチラッとあった。身内に敵しかいないとか…泣くしかない。




3、返り討ちエンド。攻略対象の騎士エンドで発生。ヒロインを殺そうとしているシーンで颯爽と騎士が現れ、ロザリアを倒す。




 他にも追放エンドがあるが、こちらは問題ない。要は追放されようが生活できるよう頑張ればいい。別に元一般庶民の私は贅沢なんて望んでないし、追放されてもいいよう準備しようと思う。貴族という身分にこだわりもない。




 考えて解った。とりあえず、身内をなんとかしよう。身内が私に冷たすぎる。まだ義弟はいないので、まずは父と兄である。仲良くなれれば私も嬉しい。家族は仲がいいほうがいいだろう。




 私の家族は両親・兄の4人家族である。


 父は朝早くに仕事に城に行っているため現在は不在。帰りは深夜らしく、記憶を辿るが…最後いつ会ったか覚えてない。父にワーカホリックという称号を与えつつ、次に行こう。




 母は病弱で多分今は寝ていると思う。確か私が10歳ぐらいで亡くなり、その後義理の弟が来た気がする。母は父の不貞を疑い、心と体を病んで死んだ。そのため私は義弟を散々いびりたおすわ、いじめるわ、しもべ扱いするわ…義弟には殺されても仕方ない気がしてきたよ…しかも他にも色々と…


 まだ見ぬ義弟にスライディング土下座をしたい気持ちになった。いや、私じゃないけど!違うけど、なんか私がスマン!と言いたい。


 話しが逸れたが、母もできれば病気をなんとかしたい。




 そして我が家の攻略対象その1、兄。ルーベルト=ローゼンベルグ。彼は一言でいうと、植物オタクである。そして、最も攻略がチョロイ男。チョロいルー。通称チョルーである。


 彼にはただ薬草または毒草を渡せば攻略できる男。草があれば幸せな男である。さすがに5歳現在まだ植物オタクにはなっていないが、図鑑が好きだそうなのでこのまま行けば確実にオタクまっしぐらである。




 現在会えるのは兄と母だが、まず兄の所に行ってみることにした。




 私の乙女部屋と違い、シックな内装の兄の部屋に入ると予想通り兄がいた。髪は私と同じ青銀だが、瞳が緑のため私より穏やかな印象だ。そして線の細い美少年。さすが我が兄。兄は図鑑を読んでいる。チラッと見たが大体は私にも読める。ロザリアの記憶のおかげだろうか。


そして予想通りの植物図鑑。




「…なに」




 部屋に入り込み兄の植物図鑑を覗き込こんだまま動かない私を不審に思ったのか、兄は微妙そうな顔で私に声をかけた。私の要望はひとつだ。




「あそんでくだたい」




「却下」




 一刀両断である。さすがは3歳児をぼっちにする家族の息子。しかし私は兄と仲良くなりに来たのである。そう簡単に引き下がるつもりはない。




「じゃあ、おべんきょうちまちょう」




「…なんの?」




 おお、兄が乗っかってきた。兄は植物図鑑を見ていたのだし、それを使ってはどうだろう。未来の植物オタクだし。




「ずかんをもって、おにわのおはなをしらべるの」




 兄は少し考えた様子を見せると頷いた。




「わかった」




 図鑑を閉じると片手に持ち、私に手を伸ばす。




「行くよ」




 慌てて兄の手を取ると、兄は私の手を引いて庭に連れてきてくれた。




 我が家の庭は花が咲き乱れ美しい。普段庭師のトム爺さんが手入れをしているが、今は見当たらない。




 兄の手を今度は私が引き、手近な白くてかわいい花を指差す。




「にいたま、これは?」




「鈴蘭。根っこに毒がある」




 まさかいきなり毒花である。日本でも比較的ポピュラーなこの花…毒があるのは知らなかった。




 気を取り直し、近くにあった赤い華やかな花を指差す。




「にいたま、これは?」




「彼岸花。毒があるから昔はよく墓場に植えてたらしい。死体を犬なんかが荒らさないように」




 ま た か




 日本の花はそんなに毒が多かっただろうか…それとも私のチョイスが悪いのか。なんとなくうちひしがれる私に、兄はクスクス笑いながら言った。




「この花壇には毒の植物しかないから、あまり近寄らないでね」




 な ん だ と




 クスクスと上品に笑う兄を呆然と見つめる私。


 わざとか兄!


 なんて奴だ兄!


 こんな高度な嫌がらせするとかアンタ本当は何歳だ兄!




 様々な文句が浮かぶが、上手く言葉にはならなかった。




「にいたま、いじわる」




 ふて腐れると兄は頭を撫でてきた。




「ゴメンゴメン。ただ、ここが1番危険なモノがあるから最初に教えておこうと思って。毒草はこの花壇だけ。向こうから薬草や普通の花だ」




 兄に悪気は無かった…いや、後から面白がってたから悪意はあるな。


 しかし、やられっぱなしは悔しいので虚勢をはってみる。




「くすりとどくは、ひょうりいったいですわ」




「え?」




「しんけいどくはますい…けがをぬったりするときにかんかくをまひさせます」




 死にゆく者の苦痛を取るのに麻薬を使う。


 心臓発作を起こす薬は強心剤としても使える。




 薬は過ぎれば毒。毒も上手く使えば薬となる。兄は何故か口を開けて呆然としていた。




 兄の目の前で手を振ったが復活しないので、毒の花壇にまた目をやる。毒と知りながらも、やはり鈴蘭は可憐で控えめに感じる。




「そんなに好きなの?」




 復活した兄に聞かれ、頷いた。




「じゃあ、後でロザリアの部屋に飾るようメイドに言っておくよ」




「にいたま、だいすき!」




 勢いよく抱き着くと、兄はなんとか私を支えた。




「大袈裟」




 兄は苦笑いしたあと、先程私が話した毒と薬の話をまた聞きたがった。




 そして、途中で実はこの世界にはない知識なんじゃね?ということに気がつくが、あまりにも今更だった。

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