EP14 真の姿《トゥルーフォーム》

「……これは驚いたでござるね」


 瞬間、観客たちから悲鳴のような歓声が上がり、ドームを激しく揺らす。いまだかつてないほどの歓声に実況のMr.Jも思わず耳を塞ぐ。


「なんだうるさいな。俺が『青き疾風』だからってそんなに驚くことかね」

「……それは驚くでござろうよ、青き疾風殿。そなたは自分が思っている以上に有名なお方でござるよ」

「いやいや、確かに自分のスレが立ってたりするのは知ってるけどよ。そんな騒ぐほどの存在じゃ……」

「騒ぐほどの存在でござるよ。何百、何千、いや何万人の人があなたの事を探したことか。知らない装備、知らない動き。そしてヒロイックな行動の数々。リアオンを真面目にプレイしている人であなたに一度も憧れなかった人はいないでござろう」

「……いや、言い過ぎだろ」


 空はそう突っ込むが、オタキングの言ってることは間違っていなかった。

 事実今この場にいる観客たちの八割以上が青き疾風のことを知っており、更にそのほとんどが彼のことを好意的に思っていた。

 恥ずかしいからと自分の情報は遮断ミュートしていたので知らなかったが、その存在はもはや電子概念ネットミームと呼べるほどの存在だった。


「しかしそなたが青き疾風であるのならば、その人並外れた強さも納得できるというもの。改めて、お手合わせ願えるでござるか?」

「もちろんだ。本気でやる為にこの姿になったんだからな」


 小太刀を右手に持ち、空は構える。

 さっきまでと構えは変わっていない。だというのにオタキングが感じる『圧』は先ほどまでとは比べ物にならないほど強くなっていた。


(これが青き疾風の本気。たまらないでござるな……!)


 恐怖と好奇心で震える体を抑え、オタキングは伝説の戦士を迎え討たんと剣を構える。


「行くぞ」

「いつでも」


 その言葉を合図に、空は駆け出す。

 いや駆け出すという言葉は正しくない。観客の目から見た空は、走ったのではなく『消えた』のだから。


「消え――――っ!?」


 オタキングも同じで、しっかりと集中して相手を見ていたのに突然見失ってしまう。

 そして消えたと感じた瞬間感じ取ったのは、明確な死のイメージ。喉元を裂かれ無惨に殺される自分の、濃密なイメージだった。


 命の危機を感じたオタキングは、訳も分からないまま咄嗟に円盾で頭部をガードする。


「――――ぐッッ!」


 瞬間左腕に襲いかかるとてつもない衝撃。

 その衝撃の正体が分かったのは、吹き飛ばされ地面を三回バウンドし、なんとか起き上がった後であった。


「これが本気の速さ、たまらんでござるな……」


 顔を上げると、自分が立っていたところに青い忍者が立っていた。

 空がやったのは何も特別なことではない。ただ目にも止まらぬ速さで近づき、頭部に斬りかかっただけ。それだけで並のスキルよりもずっと強い攻撃となったのだ。


「やるな。決めるつもりで斬ったんだが」

「くく、その程度じゃ拙者を倒すには至らぬぞ。もっと! もっと、本気でかかってくるでござる」

「いいね……不正行為をしてた大手ギルドを潰した時もここまでは滾らなかったぜ」


 空は覆面の下で笑みを浮かべると、再びオタキングに斬りかかる。

 繰り出されるは神速の斬撃。その熟練された太刀筋は速いだけじゃなく、正確で、迷いがなく、そして無慈悲だった。


「そこ、そこ、そこ、そこ、そこ――――っ!」


 必死にガードするオタキング。しかしガードのみに集中しているにも関わらず空の斬撃はガードの合間をすり抜けオタキングの体に突き刺さる。


「ぐっ……!」


 脇腹に走る鋭い痛み。思わず怯んだオタキングの隙を空は見逃さなかった。


「そこだ……『疾風刃』っ!」


 スキルが発動し、小太刀が加速する。

 マズい。オタキングがそう思った時には既に小太刀は彼の喉元を切り裂いていた。

 まさに神速。まさに神業。

 自分が負けたことを悟った彼は悔しそうに呟く。


「無念……」


 オタキングのHPがゼロになり、キャラが消えると同時にオタキング本人もその場に崩れ落ちる。


「ぜえ、ぜえ……」


 肩で息をし、全身から滝のような汗を流す。それほどまでにRe-sportsは過酷な競技なのだ。


「だあ! 疲れた!」


 同様に空もその場に尻をつく。

 彼も疲れはしたが、不思議と清々しい気持ちだった。


「こんなに充実したのはいつぶりだろうな……」


 前を向き、オタキングと視線が合うと、お互い疲れた顔でニヤッと笑う。

 出会ってまだ半日と経っていないが、二人の間には確かに絆が結ばれていた。

 そして二人の勝負を讃えるように実況の大声がドームに響き渡る。


『け、決着ーッ! 激戦を制し決勝戦へ歩を進めたのは、ブルーマスク、いや、伝説のプレイヤー『青き疾風』だ〜!!』


 本日何度目になるか分からない大きな歓声を浴びながら、空は立ち上がる。


「不思議な気分だな……」


 自分は所詮ヒーローの真似ごとをするぐらいしか出来ないと思っていた。

 しかしこれだけの人に応援され、高めあう好敵手に会うことも出来た。もしかしたら本当にヒーローになることも出来るんじゃないか。そんな気持ちすら芽生えてくる。


 子どもの時憧れたあのヒーローに、俺もなれるのかな。

 そんなことを考えながら空は控え室に戻るのであった。







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《システムメッセージ》

『リアライズ・オンライン』Disk3 【ROJ杯開幕ゲームスタート!】が終了いたしました。

セーブ、星評価【⭐︎⭐︎⭐︎】を完了させ、Disk4に切り替えてください。




…………切り替えが完了いたしました。


それでは、『リアライズ・オンライン』 最終Disk【憧れを超えろオーバー・ザ・ヒーロー】をお楽しみください。

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