EP2 腐れ縁《バッド・フレンド》
「お、お前はっ!! あの時の忍者小僧!!」
怜奈さんと別れ、選手控え室に入った途端、見覚えのある人物に出くわす。
「お前は……! えっと……ほら、あの……」
やべ、思い出せない。すると目の前の男は業を煮やしてまくしたててくる。
「忘れてんじゃねえよ! 俺はこの前このドームでお前と戦ったryoだよ!」
「あー。あの俺に負けた」
「そこを強調するんじゃねえ!」
そうだそうだ。この前倒したあまり強くないプロRe-sports選手だ。
戦ってる時は距離が離れていたから、顔をあまりよく覚えていなかった。この人も大会に参加してたのか。
「あの時はどうも、それじゃ」
「それじゃ、じゃない! 馬鹿にしてるだろお前!」
ぎゃーぎゃー騒ぎながら俺に突っかかってくる。しかし流石に試合前に暴力沙汰になるのはマズいと周りの選手がそれを止めてくれる。
いくら覆面をしているとはいえ、俺が高校生くらいの年齢だと言うことは見た目から分かるからな。周りの大人たちは俺を守ってくれた。
一方ryoはと言うとあっという間に組み伏せられ涙目になっていた。
「わ、わかった! もう暴れないから離してくれ! 申し訳ない!」
必死の懇願と俺の許しの甲斐があり、彼は釈放される。服についた埃をパンパンと払うと何事もなかったかのようにキリッとした顔つきになる。その心の強さだけは見習いたいものだ。
「……取り乱してすまない」
「別にいいよ。俺こそなんか悪いな」
周りにビクビクしながらも気丈に振る舞うその姿を見て、彼を不憫に感じた俺は少し優しく接してあげることにした。
「にしても忍者くん。まさか君が出るとは思わなかったよ」
落ち着きを取り戻したryoはそう切り出してくる。俺もお前にまた会うことになるとは思わなかったよ。
「色々あったんだよこっちも。それより折角再開したところ悪いが、今回も勝たせて貰うぜ」
「ふん、勝つのは俺だ。お前に負けてから
そう言い切る彼の瞳は熱く燃えていた。
うん……悪くない。これなら前回よりも楽しめそうだ。
「忍者小僧、お前は何ブロックなんだ?」
「何だそのあだ名は。俺はAブロックだよ」
「そうか。俺はCブロックだからお互い勝ち進めれば三回戦で当たれるな」
この大会は全部で四回戦まである。
選手はA〜Hブロックに分けられ、それぞれのブロックで行われるバトルロイヤルを勝ち抜いた一人のみが二回戦に上がれるのだ。
つまりAブロックの俺が勝ち抜けば二回戦はBブロック突破者が相手となるってわけだ。
「俺は絶対に勝ち抜いてリベンジする。だからお前も絶対に勝ち上がって来い」
「オッケー。三回戦でまたぶっ倒してやるよ」
「好きなだけ言いな。ファンの為、そして何よりプロとしての誇りをかけて今度こそお前に勝つ!」
熱い。まさかRe-sportsでここまで熱くなれるとは思ってなかった。
俺もゲーマーとしての誇りをかけてこいつを倒す。そう心に決め試合に臨むのだった。
◇ ◇ ◇
『さあさあ始まりましたROJ杯夏の陣! 実況はおなじみMr.Jがお送りするぜ!』
煌びやかなマイクを手にした男がそう叫ぶと、観客たちが一斉に歓声をあげドームを揺らす。
凄い熱量だ……この前経験したはずなのにまた圧倒されてしまう。
「あの実況の人、前回もいた人だな。Mr.Jって名前だったのか」
観客の中には「J様ーっ!」と叫ぶ人もちらほらいる。どうやら実況者にもファンがいるんだな、すげえ世界だ。
『さて、早速第一試合を始めたいところだが。まずはルール説明をさせて貰うぜ!』
そう言ってMr.Jは観客たちにルール説明をし始める。
確かによく通る聴きやすい声だ。こんな大きな大会に呼ばれるだけのことはある。
さっきルールを覚えた俺は彼から視線を外し、自分の前に立つ対戦相手に視線を移す。
一回戦は十人の選手によるバトルロイヤル。俺含む十人の選手は広い正方形のフィールドを囲むように立っている。
この中で戦い最後まで残ったただ一人のみが二回戦に進むことが出来る。
「さて、俺の相手はどんな奴らかね」
俺の対戦相手たちの特徴はというと、見事にバラバラだった。
俺と同じく高校生らしき男子もいれば、三十代の成人男性に四十歳くらいのおばさんまでいた。この人たちみんなリアオンやってんのか。なんか面白いな。オフ会でもやってる気分だぜ。
さっき対戦相手の名前を確認したが、聞いたことある配信者やプロの選手もいた。まあ素顔は知らねえからどいつがどいつかは分からんがな。
『さて! そろそろ試合開始……と行きたいところだがぁ! ここで一人、紹介したい選手がいるぜ!』
ん? 何か嫌な予感がするな。
『前回大会で彗星の如く現れっ! あのryo選手を相手に圧勝を遂げた謎の人物、みんな覚えているよなあ!』
再び歓声。ちょ、お待ってくれよ。
『彼の素敵なプレイに見惚れた人も多いだろう! 俺もその一人だ! もう一回あの熱いバトルが見たいよなあ! ということで今回また参戦して貰ったぜ! 紹介しよう、ブルゥーーーーマスク選手だっ!』
一斉にたくさんのスポットライトが俺を照らす。それと共に降り注がれる何万人もの視線。
「はは、マジかよ……」
乾いた笑い声が出る。
地獄だ、それ以外に今の気持ちを表す言葉はなかった。
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