第5話「交差」

 約一ヵ月の間、報道機関は暴動へと発展したデモの鎮圧騒ぎに明け暮れた。

 死者一三三名——。

 負傷者二五一二名——。

 当然、国民の国への反感は大きかった。

 そして、各地での反政府デモ、反戦デモは拡大を続ける。

 しかし、ワイクスはあくまで冷静だった。市議会議員としての表の職務をこなしながら、裏の世界では着実に“計画”を進行させていた。敢えて通常の“活動”を減らし、出来るだけ今回の計画に力を注いだ。もちろん世間の風潮のせいか、浮き足立つ若いメンバーもいる。しかし、今回の計画の大きさの前では、それを説き伏せるのはさほど難しいことではなかった。全面的なバックアップがヴィスコントなのは変わらない。しかしそのヴィスコントに対して、以前とは違う感情を抱き始めていた。

 一年以上に渡って準備してきたクーデター計画——いよいよ、という気持ちはワイクスにもあった。この国の歴史を確実に変えるものであるという信念に変わりはない。そしてその前振りとしての武力鎮圧の効果は大きい。それはワイクスの想像以上だった。ある意味“完璧”とも言えた。そんな“活動”の為には確かにヴィスコントの存在は必要不可欠だ。

 しかしワイクスにはヴィスコントの真意が掴みかねた。元々ワイクスほどユートピア思想に傾倒している訳ではないことはワイクスにも分かっていた。何らかの野心を持った政治家として国家の転覆を計る気持ちはワイクスにも分からなくはない。しかしワイクスは、ヴィスコントからその後のヴィジョンを聞いたことがない。

 クーデターを成功させたとして、ヴィスコントは新政権の座に就くつもりなのか、それともワイクスの組織に任せるつもりなのか……元々ユートピア思想を核にしてまとまった組織だが、今はその核が揺らいでいる。ワイクス自身、そういう一人だった。今はユートピア思想を掲げていては組織そのものがまとまらない。存続させることすら難しいくらいだ。組織の若者達の中にはユートピア思想を時代遅れのものと思っている者も少なくない。長くいる組織の人間ですら、声高にユートピア思想を叫ぶ者もいなくなった。

 ただの一時の流行だったのだろうか——ワイクスもそう思う時はある。しかし世界を見れば、今まさにユートピア思想によって多くの国が“革命”を成功させていた。産まれた国が悪かったのか、生きた時代が間違っていたのか……ワイクスは苦々しく、そして悔しかった。

 ユートピア思想か、民主主義か、社会主義か、それとも別の“何か”か——ワイクスは悩んでいた。何が正しいのか、何が間違っているのか……その答えはヴィスコントが出してくれるものでもない。

 そのせいなのか、ワイクスは一人の女と繋がりを持つ——。

 ——内閣府保安課、保安調査員、ジャッキー・バルド——。

 しかし彼女の真意もまた、ワイクスには謎だった。

 ホルスト市議会議員会館——その一室にワイクスのオフィスはあった。ヴィスコントのオフィスのように広い部屋ではない。古いビルの小さな部屋だ。その中央に応接用の小ぶりのソファーがあり、ワイクスとジャッキーは向い合って座っていた。

 部屋の窓からは容赦なく夕暮れの西陽が入り込んでいる。夏ともなるとエアコンも動いてはいるが、古くから使われている機械だけに、それは夏の西陽に勝てるものではない。市から市議会に降りる予算も決して多くはなかった。

「しばらく会えなかったのね」

 ジャッキーが、目の間のテーブルのコーヒーカップに手を伸ばして言った。

「私も、何かと忙しい身ですので……」

 ワイクスはいつも通り冷静だ。

「“本職”で? それともこっちのお仕事で?」

「御冗談を……」

 ジャッキーはカップを置いて言った。

「今日で、ここに来るのも最後になるわ」

 最後……?

 ワイクスの目付きが変わるのを、ジャッキーは見逃さなかった。

「安心してよ。今まで色々と情報をくれたあなたを、私の身内に売るような真似はしないわ。あなたの内定は私の本来の仕事じゃないし……」

「あなたの身内の誰かが私を内定しているとしたら、こうして私に会いに来るのも危険ではありませんか?」

「そうね……」

 しかしそう応えたジャッキーの目は微動だにしていない。それを確認するかのように、ワイクスが続ける。

「そのリスクを負いながら……あなたは私に接触してきた……見付かりましたか? ガス・シャビルは……」

「あなたが紹介してくれたカメラマン……彼に私の情報が色々と漏れているようなの」

「紹介だなんて……存在をお教えしただけですよ。あのカメラマンは我々に何度も接触したことのある男です。仕事という名目で長いこと我々を追いかけ回してる……裏の世界では有名な男ですよ。邪魔をする訳でもないので放ってますがね」

「捕まらないだけじゃなくて?」

「勘弁して下さいよ。我々は殺人集団ではありません」

 ジャッキーは軽い溜め息をつくと、応える。

「この部屋ではそういうことにしておくわ……それにしても、この間のは随分と派手だったわね。あそこまで“大胆”な結果になるとは思ってなかったけど……」

「私が求めた訳では——」

「じゃあ“先生”かしら」

 ワイクスの表情は変わらない。

 それを確かめてから、ジャッキーは続ける。

「あの人なら……やりそうね……」

 その表情の目が鋭くなったのは、ジャッキーの方だった。

 表情を変えないままワイクスが応える。

「“結果”を求めているのは……いつも“大衆”ですよ」

 そう言ったワイクスの口元の端が、微かに上がる。

 間が空いた——。

 お互いに、相手の表情を探りながら、相手の言葉を待った。出方しだいでは、この場での“上下”が決まる——それぞれの生きる世界も考え方も違っても、毎日が“駆け引き”の繰り返しであることは同じだった。

 先に口を開いたのはワイクス——。

「……“大衆”は、いつの世も“大衆”であってもらわなければ……」

「あなたが“大衆”に求めているのは——何?」

「その答えを出すのは——“大衆”自身です」

「あなたも……“先生”に利用されてきただけの人間ではなさそうね……」

「……お互いに……」

 そのワイクスの言葉に、ジャッキーは一瞬だけワイクスから目線を外して言った。

「まあいいわ——で……確かにあなたの言うように、あのカメラマンというか——フリーのジャーナリストは、ガス・シャビルと繋がっていたわ。これも裏社会では有名なこと?」

「さて……」

「私の情報が彼に漏れているのはなぜ?」

「残念ながら、それは分かりませんね。少なくとも私は、彼と直接会ったことはない……おそらくガス・シャビルかと……あなたがカメラマンと接触したということは、ガス・シャビルもあなたのことはかなり調べたことでしょう……——それよりも私が気になるのは、なぜあなたが私に接触してきたのか……という点です。ガス・シャビルに会いたいのであれば、直接彼のいる組織に接触なさればいい……私の“所”ではない……しかも、それがあなたの“本職”だと思いますが……」

「…………」

 ジャッキーは何も応えない。その鋭い目に、ワイクスは視線を外さないまま続ける。

「もしかしたらあなたは……私の“所”に用があるのではありませんか?」

「…………」

「……ロザリス・シオン……あなたが本当に接触したいのは“彼”だ……」

「…………」

「私の方でも、色々と調べさせて頂きましたよ……」

「…………」

「どうやら……国を憂いて“革命”を画策しているのは、私だけではないようだ……」

「やっぱり……」

 ジャッキーはワイクスから目線をズラし、目の前のコーヒーカップに手を伸ばして続ける。

「クーデターの“ウワサ”は本当のようね……」

 ワイクスはそれを聞くと、口元に笑みを浮かべて言った。

「協力しませんか——保安調査員として……」

「…………」

「御安心を……この部屋に盗聴器はありませんよ……」

 少しだけ、間が空いた。

「…………断るわ」

「…………」

 ジャッキーはコーヒーカップをカップソーサーに置いて続ける。少し強めの高い音が部屋に響いた。

「あなたを殺すことになる……あなたと同じで……私も“独裁者”になりたいの……」

 ワイクスの口元に、更に笑みが浮かぶ。

 ジャッキーが構わず続けた。

「あなたも、例えクーデターが成功してもヴィスコントに殺されるだけ……」

「…………」

「ヴィスコントを捨てて私の下に就くか……ロザリスを渡すか……“革命”にあの親子のカリスマ性が必要なのはあなたも分かってるはず……たぶんガス・シャビルもね……彼なら分かってくれるわ。あなたも答え方しだいでは……」

「権力を利用して私と組織を手中に収め、クーデター成功の後は自らが“独裁者”となる……“シオンの家系”の人間は、みんな同じような考えなんですかね……」

「……良く調べたこと…………」

 今度はジャッキーが口元に笑みを浮かべた。

「私達も情報の中で生きていますから……しかし……あなたがアルギス・シオンの姉の——バディス・バルドの娘だったとは……あの人も私と同じ、組織の有力な幹部でした……アルギス・シオンが逮捕された時、私もあなたのお母さんも……あの場にいましてね…………」

「…………」

「そしてあなたのお母さんは……治安統制課に殺された……」

「…………」

「よくその治安統制課に潜り込めましたね。戸籍をいじりましたか?」

「…………」

「国への恨みですか? その為に“革命”を——?」

 すると、ジャッキーがゆっくりと応えた。

「……私も……“シオンの家系”なのよ……」

 部屋に入り込む西陽が、いつの間にか薄くなっていた。



 アルクシャー、アルゲニブ、アルフェラツ、ミザル——この四つの国は、戦後、社会主義国家のネプチューンから独立した小さな国々だ。戦後のユートピア思想の世界的流行の中で、四つの国々はネプチューンとの連邦国家を造り上げた。世界の統一を最終的な理想とするユートピア思想に於いて、それはまさに理想の第一歩に思えた。しかし戦後のユートピア思想の衰退は著しく、再び起こる“革命”によって国々は独立。民主主義国家のマースの影響が大きい国際連合によってそれは承認されるが、ネプチューンと国々の国境沿いは緊張を続ける。

 しかしアルクシャー国内の独立を守ろうとする政府側と、ユートピア思想に影響を受けたままのネプチューン寄りの勢力との内戦に於いて、政府側をマースが支援し始めることで情勢は変化を始める。

 同じ国際連合とは言っても、民主主義国家のマースと社会主義国家のネプチューンとの対立は長く根深かった。アルクシャーのネプチューン寄りの勢力への明ら様な支援を表明したネプチューン政府は、アルクシャーへの空爆を開始。アルクシャーと国境の接しているアルゲニブとミザルは、当初はネプチューンを恐れてか、アルクシャーからの難民を拒否。

 しかし四つの国々は、やがて同盟を発表する。この四カ国同盟とほぼ時を同じくして、四カ国の、ネプチューンとは反対側に位置する八カ国の小さな国々が独自に同盟を結ぶ。そしてその八カ国同盟は民主主義国家と社会主義国家の入り混じる軍事同盟に過ぎなかったが、兼ねてからの国際連動に対する反発からネプチューンとの軍事同盟を決める。結果的にマースの支援する四カ国同盟はネプチューンと八カ国同盟の国々に挟まれる形となり、まさに一触即発の状態と言えた。

 そして八カ国同盟の国——イザルと国境を接するサターン国内でも緊張は高まっていた。サターンは未だマースの半植民地的な政策を受け入れ続けていたからだ。すでに国内にはマースの軍事基地が陸海空合わせて三ヵ所建設されていた。別大陸のマースにとって、ネプチューン勢力に睨みを効かせる戦略拠点として重要なポジションを占めている。それは四カ国同盟とサターンの間にジェミニという中立国が存在していることも理由の一つだった。

 ジェミニはサターンの反対側の国境がネプチューンとミザルと接している為、非常に情勢が緊迫していた。ミザルからの難民が大挙して国境に押し寄せてはいたが、中立国のジェミニとしては簡単に受け入れる訳にもいかず、その動向が世界から注目されていた。もしも難民を受け入れたとしたら、ネプチューンからの攻撃を受けることも覚悟しなくてはならない。まだこの世界では、戦時下であるかどうかに関わらず、国家間の難民への扱いに関して、国際的に定められた取り決めは存在していなかった。

 ミザル国内——ジェミニとの国境付近の広大な草原地帯に難民キャンプが出来ていた。二十四時間増え続ける難民——アルクシャーやミザルだけではなく、遠くアルゲニブやアルフェラツからの難民も多い。逃げ場の無い人々は中立国のジェミニ、更にその先にある同じく中立国のウラナス、もしくはサターンに救いを求めていた。

 そしてその難民キャンプの中に、ウラサス・バークがいた——約二週間の間、四カ国同盟の国々を歩き回り、やっとこの難民キャンプに辿り着いた。

 同じく難民キャンプの取材に来ていたマースのテレビ局のバンの中——。

「空港が全て閉鎖だ」

 衛星回線を利用した電話の受話器に向かってウラサスが続ける。

「何とかして陸路でジェミニに抜けるしかねえな。ネプチューンの軍隊が四カ国に同時に地上進行を始めやがった。もうすぐそっちのニュースでも流れるぜ。そろそろ八カ国の側も四カ国側に進軍するらしいしな……そうさ、前みたいに“全面戦争”だな。マースが黙って見てる訳がねえ」

 ウラサスはバンの中にいるマースのテレビ局の人間をチラリと見てから続ける。ウラサスの口調のせいもあってか、決していい顔はしていない。

「サターンもマースの属国ってことで巻き込まれるぞ……何? 何バカなこと言ってんだお前は——これから戦争なんだぞ! マースが仕切りに行って何とかなるような紛争レベルじゃねえんだよ!」

『ダメだ……今夜ヴィスコントを殺る……』

 電話の相手はガス・シャビルだった。

「今そんなことして何になるんだ! 戦争なんだぞ! あいつを殺って——そんな無意味なことが何になるんだよ!」

『あいつはロザリスを抱え込んでる……これ以上、好きにさせる訳にはいかない』

「お前、俺の話聞いてるか? 何があったか知らねえが、俺が帰るまで待ってろ!」

 直後、突然回線が切れた。

「あれ? 何だこれ——おい! ちょっと!」

 ウラサスはテレビ局の人間に向かって言った。

「何だよこれ。やっと繋がったのに何で——!」

「衛星回線だからねえ……」

 そう応えたテレビ局の人間の目は、明らかにウラサスの存在を否定していた。少なくともウラサスにはそう見えた。

 ウラサスは舌打ちをしながら、車内の人間達に礼も言わずに車を降りると、果てが見えないくらいに広がっている“難民の草原”を改めて眺めながら呟いた。

「……帰るって言ったって……どうする……」

 これが全て人間なのかと疑いたくなるほどの人の数だった。一番端から見れば、もしかしたら地平線ですら見えなくなるのではないかと思わせるものがある。

 貧しさが戦争を引き起こし、戦争が難民を生むのか——ウラサスは絶望感に包まれた光景を眺めながら思った。

 先進国には難民は生まれないのか——違う——国民に対して政府が責任を持たないからだ……税金を払うことの出来ない貧しい国民は、同じ国民であるにも関わらず、いざという時に国に助けてもらうことも出来ないのか……この国の軍隊は何をやってる……政府はなぜ国民を難民にするんだ……誰も自分の国を捨てたくなんかないはずなのに……。

 憤りが、いくつもの想いを空回りさせた。

 その頃、サターンの首都ホルストの小さなバーの奥で、突然切れてしまった電話に慌てもせずに受話器を置くガスがいた。

 ここは反政府組織の情報交換用に使われているバーだ。マスターが一人で営業している店だが、この店のマスターは長い間、民間人として反政府組織を支えてきた一人だった。いくつもの組織がこの店を通して情報のやりとりを行い、多くの人間達が通り過ぎていった。カウンターだけの小さな店の奥に一台だけある公衆電話も、長い歴史の流れを見てきた。

 この日のウラサスからの電話は、予め日時を決めていたものだった。

 すでに六〇を過ぎたマスターは白髪だらけの髪よりも髭の方が立派なくらいで、その髭がまだ黒かった若い頃のことを知っている者は、今はどの組織にもいない。反政府組織のことだけではない。この国の歴史を見てきた。決して一時の流行でユートピア思想に流されるようなタイプではない。ただ、戦前、戦中、戦後を通して、この国を憂い続けている気持ちに変化は無かった。

 しかし暗殺を含めたテロ活動や、最近噂だけが聞こえていたクーデター計画——果たしてそれに本当に意味があるのか……気持ちのどこかに引っかかるものがない訳ではなかった。もしかしたら自分も、溢れ出るような感情を抑圧され、その矛先を反権力へと向けていった若者達と同じなのではないだろうか——そう思うこともある。もしくは、若者達のその感情を利用しただけの煽動者か……。その時々で何が正しいのかを判断するのは難しい。しかし後になって振り返っても結果は変わらない。その時々に、その時々で最良と思われる選択をするしかない。しかし後悔をするのもまた人間であり、マスターも自分を含め、多くの人間のそんな姿を見てきた。自分の言葉一つで、もしかしたら無駄に命を落とさずに済んだかもしれない若者を何人か知っている。その度にマスターは悩み、同時に苦しんできた。裏の世界から手を引こうと考えたこともある。しかしその度に世の中が動いた——だがそれが言い訳であることも知っていた。

 過去の判断や言動は結果であり、それに納得がいかないからこそ、何らかの形でそれを補おうとしてきた。

 ガスが店の奥から来て、カウンターの前を通り過ぎようとする。

 まだ昼を過ぎたばかり。開店前の店内には二人以外には誰もいない。

 マスターが声をかけた。

「……今夜か……ガス……」

 マスターの前を通り過ぎた所で立ち止まり、ガスが応える。

「ええ……今夜です……」

 しかし、ガスはマスターの顔を見ようとはしない。それに対し、マスターはガスの横顔を見ながら言った。

「本当に一人でやるのか……安心してくれ、誰にも話しちゃいねえよ。お前さんを裏切ったりはしねえ」

「信用してます……あなたには色々と助けられた……色々と……世話になりました、マスター……」

「よせよ……今日で最後みたいだぜ」

 ガスが“覚悟”をしていることは、マスターにも分かっていた。

「また来なよ。待ってるぜ」

「ええ……また…………」

 ガスはマスターの顔を一度も見ることなく、店を出て行った。

 過去の判断や言動は結果であり、それに納得がいかないからこそ、何らかの形でそれを補おうとする……だから、若者達を止めようとしてきた…………。

 店の扉がガスの背中を隠すように閉まった時、マスターはそう思った。



 この時期は陽が長い——夜の七時を回り、やっと夕焼けから夜に移ろうかという頃、グスタブ通りの官庁街はその日もデモの群衆で沸き返っていた。

 戦争直前の緊張が国内を包み、不安と恐怖と絶望感が人々の間に蔓延する中、それは政治の世界でも同じだった。戦後から四年、まだ復興と言うには遠く、マースの後ろ盾があるとは言っても当然国家予算は膨大なものとなる。増税による国への不満と、世界情勢の影響による反戦の風潮——それら全てが国民を直接動かし、デモの原動力となっている。

 臨時国会の招集で国会も混乱していた。

 戦争は起こるのか——起こるとしたらどの国との交戦になるのか——マースとの軍事協定は——同盟国との関係は——。

 会期の延長だけでなく、日毎の時間も延長が当たり前となっていた。その日も、ヴィスコント達が国会議事堂を出た時間は夜七時過ぎ……。すでに国会議事堂の周辺は人集りが出来ている。正面ゲートは幅の広さはあるものの、デモの人数の多さと治安部隊や警察の配置の関係で車の出入りは出来ない。裏口ゲートなら幅は車二台分。もちろん周辺の状況は正面ゲートに近いものがあったが、ゲートが小さい分、警備は正面ゲートに比べると容易だった。議員たちには当然各政党ビルまで送迎車が出るが、警備の為にその台数は最小限に留められた。

「これでは送迎バスだな」

 三列シートの高級車の一番後ろに座っているヴィスコントが言った。車が裏口ゲートから群衆に突入してすぐだ。

 隣に座る財務副大臣——カジブ・ライカンスが言葉を返す。

「まだこの車はいい方ですよ先生。我々三人だけですからね。後ろの車なんて陸海空の幕僚長に防衛大臣ですよ。いくら行き先のビルが近いからと言っても、車の中で殴り合いの喧嘩でもさせるつもりですかね」

「さっきも、かなりやり合っておったからな」

 ヴィスコントはニヤニヤといやらしい笑いを口元に浮かべた。

 六二才になるライカンスはヴィスコントとは長い付き合いだ。共に裏で反政府組織を支えてきた。二人の前に座る男も同じだった。男が言う。

「先生が決められたんじゃないんですか? この組み合わせ」

 外務副大臣のバジル・アイジマス。ライカンスよりは少し年上の六五才。共に二人でヴィスコントを助け、共に裏の世界に精通してきた。色々な意味で、ヴィスコントが最も信頼を寄せる片腕だった。そのアイジマスの背中にヴィスコントが応える。

「いやいや、私は与党政党の幹事長としての職務を全うしただけだよ。たまたま警察大臣と王室府の警護長官が一緒になってしまったがね」

 そう言ってヴィスコントは笑った。隣のライカンスが言葉を入れる。

「各ドライバーからの報告が楽しみですね。どのドライバーも私達の仲間だとは知らずに……」

「あまり遊び過ぎて、クーデター前にどこかが暴発などしなければいいが……」

 相変わらず前を見たままのアイジマスだった。そして続ける。

「実際あそこはかなり揉めてましたよ……今日みたいなデモ騒ぎが多いと治安の利権はうるさいですからね。ただでさえ一ヵ月前の事件のせいでマスコミに叩かれてピリピリしてる……」

 ヴィスコントが応えた。

「なあに、結局マースの治安部隊には文句は言えまい。どこも少し事が大きくなると治安部隊に甘えるくせに、まだ利権とか言っておるのか……」

「この国の人間も——」

 隣のライカンスが口を開き、続ける。

「植民地ボケですかね……」

「四年でかね?」

 ヴィスコントだった。しかしそれに応えたのは前の席に座るアイジマスだ。

「国民というのは流されやすいものですよ……この——」

 車の外に視線をやり、デモの群衆をアゴで指して続ける。

「——連中にしたって、自分で何かを考えているつもりで……本当はその時の世論や風潮に流されているだけです……ただの“大衆”だ……」

「“愚民”という訳か……まあそのお陰で、我々もおいしい思いをしてきた訳だ。これからも同じだがね」

 ヴィスコントのその言葉に、隣のライカンスが笑って応えた。

「これからもですか? ますます“愚民”であってもらわなければなりませんね」

 アイジマスはそれを聞いても外を眺めたまま——ヴィスコントが言葉を繋ぐ。

「心配はいらんよ。いつの時代も“大衆”は常に“大衆”であろうとする……どの国も同じだ。違うかね? アイジマス君」

「いえ、同じですよ……所詮、一部の権力者のプロパガンダが歴史を作るんです」

「それこそ、昨日までのネプチューン旅行はどうだったね?」

「明ら様な敵対心が見て取れました。まあ、我が国とマースとの関係を考えれば当然かもしれませんが……以前はあんなではなかった……」

「敵対行為の意思表示と受け取っても良いのかね?」

「先に四カ国同盟国を回ってからでしたから、面白くなかっただけでしょう……しかもその前は八カ国同盟のイザルですからね」

「イザルは隣国である訳だから仕方がないとしても……結構だな……今の我が国に対する反発が強ければ強いほど、クーデター後にマースに反旗を掲げた我々に興味を抱きやすいというものだよ」

「しかし急がないと先生……ネプチューンが四カ国同盟に地上進行を開始したという情報に間違いが無いとすれば……ネプチューンと軍事同盟を結んだ八カ国同盟の——それこそイザルが我々に宣戦布告するかもしれません」

「マースだよ——結局はあの国がどう動くかだ。ネプチューンが四カ国同盟と交戦状態に入ることで、それをマースが——自国に対する宣戦布告と捉えるかどうか……」

「そうなったとしたら、やはり穏やかでないのはイザルですよ。我が国にはマースの軍事基地もありますからね」

 すると、二人の会話を聞いていたライカンスが言葉を挟んだ。

「それを言ったら、島国のスピカも同じだ。あそこも我が国のように半植民地のようなものだ。同じくマースの軍事基地を配置されて……海を挟んで八カ国同盟に睨みを効かせてるじゃないですか」

 アイジマスが応える。

「四年の間、着々とマースは戦略を続けてきた……この国が復興に浮かれている間、あの国は次の戦争のことを考えていたんだ……」

 するとヴィスコントが繋げる。

「クーデターを急がんと、我が国はマースの最前線にされてしまうな」

「困りましたね——」

 ライカンスはそう言うと続ける。

「財務副大臣としては早くクーデターを成功させて戦争を回避しなければ……戦争は何かとお金がかかりますからね」

 そう言って口元に笑みを浮かべるライカンスに、ヴィスコントが言う。

「君はクーデターの後も財務副大臣をする気かね」

「勘弁して下さい先生」

「大臣等は血の気の多い若い者に任せておきたまえ。君達には幹事長をしてもらわなければ」

 やがて車は政党ビルに近付いた。しかし未だに群衆が切れる様子は無い。

 ライカンスが呟く。

「よくこれだけ集まる……暴徒と化さなければいいが……」

 それにヴィスコントが応える。

「一ヵ月前のアレが効いたかな……益々国民の不満は高まっている……もし暴徒化すれば、今度は我々の意思とは関係なく治安部隊が動いてくれるさ」

 アイジマスが口を開いた。

「それだけなら、いいんですが……」

 政党ビルの一階駐車場に車が入った。しかしその駐車場は、デモで群衆がごった返す通りに面している。車から名の知れた政治家が降りてきては暴徒化のキッカケを作ることにもなりかねない。ビルの中から何人もの警護の男達が出てきて車を取り囲んだ。

 ドアの片側が開いてヴィスコントが車の外に姿を現した時だった。

 群衆が騒ぎ始める——何人もの人間達がヴィスコントの名を口にしだす。“大衆”にとってヴィスコントの様な政治家は、この国の腐敗を象徴する一人に過ぎない。

 そして群衆の波が、少しずつ近付く——。

 警護の男達に緊張が走る——。

 ヴィスコントには余裕があり、車中のライカンスは不安を覚え、同じく車中のアイジマスは現状を静かに見つめる——。

 近付く群衆が、動いた——。

 次々に腕を振り上げる人々——。

 直後、車に何かが当たって鈍い音を立てる——。

 その音が響き、警護の男達が一斉に銃を手にした時——意外な所からの二発の“銃声”に空気が凍りついた——。

 動いたのは警護の二人……崩れ落ちる——。

 ヴィスコントの傍にいた警護の男が倒れるのとほぼ同時に、先に崩れ落ちた男の銃を拾い上げた“ガス・シャビル”がその場に突然入り込む——。

 誰かが瞬間に思う——。

 ————早い————。

 両手に銃を構えたガスがヴィスコントの背後から、その場の空気を更に凍らせる——。

 警護の男達の銃口はガスに——。

 ガスの左の銃口はヴィスコントの“口”の中——右の銃口はヴィスコントの右肩の上から警護の男達へ——。

 ガスはヴィスコントの背後からその体を盾にしたまま、ヴィスコントの足を蹴りながら距離を取る——。

 群衆は動かない——状況の意味をすぐに理解出来るほど、優れた“大衆”ではなかった。

 しかしその群衆がやっとザワつき始めた頃、それに呼応するかのように警護の男達もソワソワと冷静さを失い始める——。

 その状況に耐え切れなくなったのか、車内にいたライカンスがガスの前に姿をさらけ出した。

 それを見たガスに動揺は無い——。

 そのライカンスはヴィスコントを捕らえているガスの前に立ちはだかったが、まだその距離はある——。

「政治的な要望かね?」

 裏の世界に繋がりを持つ政治家として、何度か危ない橋を渡ってきた。ライカンスも決して臆してはいない。ライカンスの言葉に、ガスが呟くように答えた。

「いや……」

「それではこの凶行の目的は何だね? どこの組織の者だ?」

「俺はこのジイさんの持ってる“もの”が欲しいだけだ。コイツが手放さない。だから殺す——」

「この状況で先生を殺せば……君も殺されるかもしれないが——」

「心配するな。俺が欲しいのはお前じゃない。だから、お前は何も見なくていい」

 直後——銃声と同時に、ライカンスの体が開け放たれていた車のドアに叩きつけられる——そしてそのままゆっくりと、ドアに体を預けるように落ちていく……車の屋根には、ライカンスの頭の中身……。

 ——静寂が、辺りを包む——。

 先に破ったのは“大衆”だった——。

 歓声にも怒号にも聞こえる叫び声が、あっという間に辺りを包む——。

 押し寄せる群衆に身構える警護の男達——。

 車中で状況を窺っていたアイジマスが動く——ガスとヴィスコントのいるのとは逆の側のドアを開け、ビルの入り口であるガラスの自動ドアへと走った——。

 群衆が車の周りを取り囲む——。

 アイジマスが自動ドアから倒れ込むようして中に駆け込んだ直後、警護の男達が入り口を塞ぐ——その内の一人がすぐ傍の壁のパネルを素早く捜査して自動ドアの機能を停止させると、手動でドアをスライドさせ始めた。やがてそのガラスのドアは、他の警護の男達を外に残したまま、閉まり、ロックされた……。

 揉み合う群衆をガラス越しに見ながら、アイジマスは安堵の溜め息をついていた。ドアを固定し、唯一アイジマスと共に中に逃げ込んだ警護の男がアイジマスを促す——。

 しかし、再びの“銃声”で、その男はアイジマスの目の前で崩れるように倒れた——。

 瞬時に、無意識にアイジマスの頭の中に自分の声が走る——。

 ——……ガス……——。

 ガスはアイジマスの後ろで、変わらずヴィスコントを背後から押さえ込んでいた。ヴィスコントの口には左手の銃口が捻じ込まれたまま……右手の銃口はアイジマスを捕らえていた。

 そして、そのガスが口を開く。

「アンタも——“用済み”だな」

 瞬時にアイジマスはヴィスコントの目を見ていた。口に銃口を入れられる苦痛に顔を歪ませながらも、ガスの言葉が耳に届いたヴィスコントは何かを理解したのか、その目は明らかに驚愕の表情を現す。

 同時に、アイジマスの目は震えた……。

 ガスが続ける。

「今回このジイさんを“裏切った”ように、いずれアンタは俺を裏切る……アンタに台頭されても困るからな。今回の協力は感謝してるよ」

 ガスの引き金を引く右手の指には、迷いが無かった——頭を打ち抜かれたアイジマスが倒れる直後、その頭から飛び散った物が辺りに広がり、周りの雰囲気までを一変させる……ヴィスコントの震える瞳孔は、もちろんガスからは見えない。

 ガスはヴィスコントを引き連れたまま後ろに移動し、右手の銃でエレベーターのスイッチを押した。

 ガラスの自動ドアを見ると、暴徒と化した群衆が見える——警護の男達の姿は見えない——ガスが僅かに群衆の足元にそれらしい姿を発見した時、突如として鈍い音が響く——ガラスの何ヶ所かに曇ったような巨大なヒビ——警備の厳重な政党ビルのガラスだけに、そう簡単に割れる物ではないようだ。

 エレベーターの扉が開く——振り返って中を確認したガスは、そのまま後ろ向きに中へ……右手の銃の先で五階のスイッチを押す——そしてその時初めて、ガスの小さなミスに入り込む者がいた——。

 予想外の銃声がガスの耳に届いた時——右手の銃が弾け飛ぶ——衝撃で、エレベーター内の壁に叩きつけられるガスの右手——。

 左手の銃をヴィスコントの口から抜いて体勢を立て直すより早く、エレベーターに駆け込んで来たのは“ジャッキー・バルド”だった。

 ほぼ同時に銃を向け合う——。

 エレベーターの扉がゆっくりと閉まる——。

 上昇を始めたエレベーターの床に、疲れ切ったのかヴィスコントが座り込んだ。

 狭い密室——座り込んだヴィスコントを挟んで、二人はお互いの目だけを見ていた。自分の銃口よりも相手の銃口の方が近い……引き金を引けば間違いなく当たる距離——。

「正確な射撃だな」

 先に口を開いたのはガスだった。すぐにジャッキーが返す。

「あなたと同じ訓練を受けてるから——」

「目的は?」

「あなたこそ何? こんな勝ち目の無いことして——」

「負け戦だと言いたいのか?」

「当たり前じゃない。どうやってここから逃げるのよ。自殺がしたいなら一人で死んで」

「ジイさんを助けに来た訳でもないだろ?」

「あなたも死ぬ気なんか無いくせに……」

 エレベーターが止まる——。

 空気が、更に、瞬時に張り詰める——。

 扉が開き始め、その空気が動く——。

 二人が同時に腰を落とす——ガスはヴィスコントを盾に——ジャッキーは体半分をエレベーターの扉の陰に——と同時に共にエレベーターの外に銃口を向ける——そして“銃声”が繰り返し響いた——。

 目を閉じ、両手で耳を塞いでうずくまるヴィスコント——。

 やがて、銃声が止まる——。

 ヴィスコントは震えながらゆっくりと目を開くと、首を上げてエレベーターの外を見た。少し離れた所に何人かが倒れている。おそらく上の階にいた警護の者達であろう。

 ヴィスコントの背後で立ち上がったガスが、ヴィスコントを軽く足で蹴って促す。膝と腰を曲げ、背中を丸めたままヴィスコントが動き始めると、腰を落として銃を構えたままのジャッキーが先に外に出た。周りに鋭い目を配っている。その役目を任せたのか、弾切れでブローバックしたままの銃から空の弾倉を落とすガス。床に落ちたその音にヴィスコントが振り返るが、構わずにガスは腰の後ろから新しい弾倉を取り出した。右手に弾倉を持ち、少し顔を歪ませながら左手の銃にセットする。

「ちゃんと立って歩け」

 エレベーターを出たヴィスコントにそう言いながらガスが続ける。

「お前のオフィスだ。行け」

 ヴィスコントがゆっくりと立ち上がって歩き始めると、ガスはエレベーターの強制停止スイッチを押して後ろに続いた。左手の銃はヴィスコントに向けるでもなく下ろしたままだ。その後ろを、まるで二人を警護するかのようなジャッキーが続いた。両手で銃をしっかりと構え、腰を少し落とし、正確なコンバットシューティング・スタイルでジャッキーは周りに絶えず銃口を向け続けている。

 三人の使用したエレベーターとは離れた場所に、もう一つのエレベーターがあった——それを見付けたジャッキーは、扉の横の数字がしだいに大きくなるのに気が付いた。

「早く部屋に入って!」

 ジャッキーが叫ぶ。

 その声に背中を押されるように小走りに部屋に入るヴィスコント——続くガス——その背後で数発の銃声が聞こえ、最後に部屋に駆け込んだジャッキーがドアを閉めた。

「エレベーターは止めてきたのか?」

 振り向きもせずに言ったガスのその言葉に、ジャッキーが即答する。

「あの位置に死体があったらドアは閉まらない……エレベーターは動かないわ」

 そう言いながらジャッキーは、ドア近くの棚やテーブルを倒し始めた。ドア前が、けたたましい音と共に固められていく。

「内開きのドアで助かったわ」

 呟くようなジャッキーのその言葉に、ガスは背中を向けたまま応える。

「俺としても助かったよ。色々と手伝ってもらって——」

「あなたを手伝ってるつもりなんか無いわよ! 勝手にこんなこと始めて! やっとあなたを見つけて尾行してただけなのに! まさかこんなことに巻き込まれるなんて!」

 叫びながらジャッキーがガスの方を見ると、ソファーに座って深く体を預けたヴィスコントと、そのすぐ傍で銃を下ろしたまま立っているガスがいた。

「説明しなさいよ! 何なのよ! この事態は!」

 ガスは、少し間を空けてから応えた。

「アンタは……どうするつもりなんだ……」

「どうするって——」

「“シオンの家”の人間として、アンタはどうしたいんだ?」

「やっぱり……色々と調べたのね……」

 二人の会話にヴィスコントが口を挟む。

「ガス・シャビルにジャッキー・バルドか……噂の二人が揃った訳だ」

 ジャッキーがそれに応える。

「……ワイクスから色々と聞いてるんでしょ?」

「それなりにね……二人の目的は何だね?」

「いきなり偉そうに仕切らないでよ」

「しかし、彼のような暴力的な行動を君が求めているとも思えないが——」

「どうかしらね……」

 ジャッキーはガスを見て続けた。

「あなたは、どうしたいのよ……殺すの?」

 その言葉にヴィスコントの表情が変化するのを、ガスは見逃さない。そして言った。

「……“アレ”だけの事をしておいて、意外と気の小さい男のようだな」

 ヴィスコントが応える。

「私は、君達の目的が何か——と聞いてる」

「一緒にしないでよ。パートナーじゃないわ」

「俺に会いたがってたんだろ?」

 ガスのその言葉にジャッキーが噛みついた。

「そうよ——その通りよガス・シャビル! あなたが何をする気なのか知りたくてね! ——あなたは調査員時代からロザリス・シオンを追いかけてた……そして二年前のテロ事件以来、姿を消した……あなたは奥さんと娘さんを殺してない……バリウス・アコブって誰なの? 秘密組織って何なのよ!」

「よくそこまで辿り着いたな……」

「簡単じゃなかったけど……“本気”なのは、あなただけじゃないわ……」

「バリウス・アコブの本名は調べたか?」

「本名? 何よそれ……」

「それが判れば、奴が何者か分かったかもな……」

「どういうことなのよ! 説明して!」

 その直後——三人の耳に地響きのように聞こえてくる大勢の“足音”——。

 ジャッキーがドアを振り返る——。

「階段だよ……あの頑丈なガラスを破るとは——」

 ヴィスコントが余裕を見せるかのように続ける。

「エレベーターは止めても、階段はそのままかね? しかもあの音は……下にいた群衆だ……」

 歓声のような大声と、乱雑な大量の足音——その音が急に大きくなったかと思うと、けたたましくドアを叩く音に変わった。その振動で、ジャッキーの造ったバリケードが揺れる。

「どうするかね? あの群衆には、もはや理性等は存在しない……所詮は“大衆”に過ぎんよ……」

「その“大衆”を——」

 ジャッキーがそう言って続けた。

「あなたは利用しようとしてる……」

「奴らに“意思”など存在せん。力のある“権力者”が先導してやらなければ、ただの“家畜”と同じだ……」

「その為にあの親子を——? ……あなたは一体何が欲しいの?」

「“権力”だよ——全ては“権力”だ。大国の植民地のような、こんな国など……この国にはマースの“権力”はあっても、我が国の“尊厳”は存在せんのだ……君達だって同じじゃないのか?」

「違う……」

 ジャッキーは即答した。

「私は内側からこの国を変えようとしているだけ——」

「嘘だ」

 口を挟んだのはガスだった。

「母親を殺された恨みだ——この国に反感を持ち……この国の“権力”を奪い取り……その為に、あの親子を利用する事を考えた……“自分のカリスマ性”と合わせてな……」

 ガスは左腕を上げ、ヴィスコントの頭に銃口の狙いを定めた。そして続ける。

「政治家としてのこいつの“権力”と、ロザリスを押さえているこいつの“立場”と……両方利用したかったんだろ? 俺にロザリスを奪われても困る……それで一人で動き始めた。こいつに利用されていることも知らずに……」

「私が? 私が利用されてるって言うの?」

 ヴィスコントの視線が微かに下を向いた。ガスは構わず続ける。

「保安調査員になって気が付かなかったのか? 戸籍をイジッても、その痕跡は必ず残る……アンタだってそうやって諜報活動してただろ? そこまで入り込めるのが調査員の特権だ……ただ残念ながら、アンタの素性なんて内閣府の上の方はお見通しさ……アンタはずっと監視されていたんだ。泳がされてたんだよ。だから今の肩書きも簡単に手に入った……ヴィスコントのお陰でな」

 バリケードを破ろうとする音が、部屋中に大きく響いた。確実に、ドアの木材にヒビの入った音だ。

「何を言ってるの……何の証拠が——」

「秘密組織に——なぜ簡単に辿り着けた?」

「だから簡単じゃ——」

「俺は存在すら気が付かなかった……あの夜まではな……試しにウラサスに情報を流してもらったらアンタの動きは早かった……トレースは簡単だ。情報屋は情報の中で生きてるのさ……裏の世界では特にそれが大事でね」

「…………」

「“自分の血”を信じて……“女王”になるつもりか? 恨みを晴らすだけなら放っておくが、“女王”じゃダメだ——」

 そして————。

 ————“銃声”が、辺りの空気を包む…………。

 なぜ、そうなってしまうのか、自分が何をしているのか——今のガスには、自分でもよく分からない。

 伸ばした左腕の先——左手には自分の銃があり、微かにその周りを煙が漂っている。

 薬莢が、床に落ちる音——今起きている事か、過去の記憶か……その音は、ゆっくりとガスの耳に届いた。

 視線の先に、焦点を移す……その先には、頭を撃ち抜かれた“ジャッキー・バルド”が倒れていた——。

 そしてゆっくりと、ガスは銃口をヴィスコントに戻すと、再び口を開いた。

「裏の世界で、もう一つ学んだことがあるよ」

「…………」

「“人の殺し方”だ————」

「……そのようだな……アレほど見事に頭を撃ち抜くのは決して簡単ではないだろう……テレビのようにはいかんのだろうな」

「あの女……どうするつもりだったんだ?」

「利用出来たよ……アルギスやロザリスのようにな……」

「俺のことも利用するつもりだったのか? ……何が秘密組織だ……保安課の組織なんかじゃない。お前の組織なんだろ?」

「気が付いて——」

「バリウス・アコブは——いや————ジャッキー・バルドの“弟”の“ミスカル・バルド”はお前の部下だ——なぜ俺の家を襲わせた……」

「少し、泳がせ過ぎたようだ……」

 低い音と共にバリケードがズレる——。

 ドアが少しだけ開く——。

 撃鉄を起こすガス——。

「……答えてくれ…………」

「その前に一つ聞きたい……彼はあの夜、君を“殺せなかった”のかね? それとも“殺さなかった”のかね?」

「あいつは俺を、殺さなかった……そしてあいつが準備したように今の組織に入った……」

「残念ながら、かね…………危険分子の君を……私は“殺せ”と命じた……」

 ヴィスコントは深く溜め息をついて、ゆっくりと続けた。

「……その恨みで……君は私を殺すのかね…………」

「…………」

「……ロザリスを手に入れる為か…………」

「…………」

「……ミスカル・バルドには気を付けたまえ……彼も……どうやら君を利用しているようだ……」

「お前が言えるのか…………」

「……もしかしたら……君にこうさせているのは、彼かもしれんな……」

 再び、バリケードが鈍い音を出す——。

「……それとも……私と共に……“革命”を成功させるかね?」

 ドア——“扉”が、鈍い音と共に、少しずつ開き始める——。

「私を殺せば……あの男の思うツボではないか……」

「…………」

 ——声が、聞こえた————。

「——シャビルー!」

 ガスは微動だにしない。ヴィスコントの目だけを、黙って見つめていた。

 ヴィスコントもまた、ガスの目を見つめ続ける。

「撃つなー!」

 その声は、ドアの隙間から強引に体を入れ、崩れかけたバリケードを突破したウラサス・バークだった。

 床に転がるジャッキーの死体を見つけて立ち止まる——その耳に、ヴィスコントの声が届いた。

「そうか……残念だよ……君とはもう少しだけ……この世界の行く末について話してみたかった…………」

 ——ガスの——─。

 ——指が動いた——─。

 銃を持つ左手——引き金に掛かる人差し指が、ゆっくりと動く——。

 ジャッキーの死体に視線を落としていたウラサスが顔を上げた時、ソファーに座るヴィスコントの頭が大きく後ろに仰け反った——まるでスローモーションのようなその光景に、ウラサスは動けない。

 ゆっくりと、その耳に届く銃声…………。

 不思議な静寂が辺りを包みかけた直後、ウラサスが無意識に叫んでいた。

「なぜだ!」

 ガスはヴィスコントに銃口を向けたまま動かない。

「なぜ殺した!」

 ウラサスがガスに近付いて続ける。

「殺してどうなるって言うんだ!」

 すると、ガスが呟くように、低く口を開いた。

「……こいつには……生きてる価値が無い——」

「お前が今その価値を無くしたんだろうが! そいつがクーデターをやってる暇なんか無かったんだ! 戦争が始まるんだぞ!」

 左腕を下ろすガス——まだ、銃は固く握られたまま……。

 ウラサスが続ける。

「二年前の恨みか……それとも二年近く裏の世界に生きるしかなかったことに対する憎しみか……」

「……もう……どうでもいいことだ……」

「“革命”じゃなかったのか! そいつを殺したって……別の誰かが台頭してくるだけなんだ! 意味なんか無いんだ!」

 ウラサスはジャッキーの死体に視線を戻して続ける。

「……お前の革命って何なんだ……これじゃあ反政府組織と何も変わらないじゃないか…………」

「…………」

「……マースが動いたぞ……戦争が始まる……」

 相変わらず聞こえるバリケードを崩す音に混ざって、外から微かに機関銃の音が聞こえる……騒がしさが一層強まる。辺りはすでに暗闇だった。治安部隊の物と思われる明かりが、不気味に窓の外から届き始める。

「来たぜ……どうする?」

 ウラサスのその問い掛けに、ガスは何も応えない。

 ウラサスが続ける。

「ロザリスはどうするんだ……お前はあいつのカリスマが欲しかったんじゃないのか……こんなことで終わるのか!」

「…………」

「これはバリウス・アコブが望んでた形なんじゃないのか!」

「……あいつを追いかけた……この二年近く……見つけていたら迷わず殺していたよ…………」

 ガスの記憶の片隅から、二年間忘れようとしてきた妻と娘の顔が浮かび上がる…………。

 ……振り払えなかった…………二年近く、懸命に過去を捨てようと苦悩を繰り返し、その中で生きてきた…………。

 自分の中の大事なものを犠牲にした想いは、ガスを苦しめ続け、その行動の原動力となってきた…………。

 しかし…………何かが変わっていた…………。

 ……これで、いいのか…………?

 ……これで、本当に正しかったのか…………?

 ……どうすれば…………。

 ガスの口が、自然と、再び開いていた。

「奴は……常に俺の影にいたんだ……ヴィスコントの指令を受けながら、そのヴィスコントすら欺き……俺を利用し続けた……ロザリスを探す俺を妨害しながら…………あいつがジャッキー・バルドの弟だと知った時——」

「——なんだと?」

「——俺は……もうどうでもよくなったんだ……」

「初耳だぞ、そんな話——」

「“宿命”なのかもしれないな……」

「何のだよ!」

「誰かの手の上で……転がされているだけなのかもしれない……何の為の“革命”だ……誰の為の“革命”なんだ……あんな奴らの——」

 ガスはバリケードを見た。僅かに開いたドアの隙間から、懸命にドアを押し開けようとする数名の“大衆”が見える。

「あんな奴らの為に……なにが“革命”だ!」

 ガスが動いた——ドアに銃口を向けたかと思うと、間を置かずに引き金を引き続ける——。

「シャビル!」

 ウラサスのその叫びは、今のガスの耳には届かない——。

 銃弾がドアとバリケードに吸い込まれ、隙間から何人かが崩れ落ちるのが見えた。

 引き金を引き続けながら、ガスはバリケードに近付く——。

 そのガスに、背後からウラサスが飛び掛かった——。

 銃声が止まる——。

「待て! 落ち着け! ダメだ!」

 ガスがウラサスを振り払う——床に叩き付けられたウラサスが、立ち尽くすガスを見上げた。

 言葉が出ない……何を言えばいいのか……何を言って欲しいのか……ガスの横顔からは、何も分からなかった……。

 そして——。

 ——ガスの左手が上がる。

 その銃口を——。

 ——自分の“こめかみ”に当てた————。

 ——弾かれる撃鉄だけが、なぜかウラサスの視界に広がる——。

「————!」

 ……崩れ落ちる……。

 ……ウラサスの目の前で……。

 ……ゆっくりと……。

「……やっとの思いで……ヘリを捕まえて飛んで来たんだ……」

 ゆっくりと、薬莢の落ちる音が聞こえる——。

「……どうして……マスターをやっと口説いて……」

 バリケードが崩れる——。

「……全て……無駄だったのか……」

 外からは銃声が聞こえ、ウラサスは一人、取り残された……。

 その傍らには目を見開いたまま微動だにすることなく横たわるジャッキー・バルド——その大きく開いた目は、どこにも焦点は合わされていない…………。



 “いつものバー”に、ロザリス・シオンがいた。

 他に客はいない。

 薄暗い店内。いくつかの小さな間接照明だけが、カウンターを微かに照らしている。

 そろそろ夜の九時を回ろうという頃——早朝まで営業している店としては、ロザリスはこれでも早い時間の客だ。

 決して清潔感のある店とは言えなかったが、マスターも七時の開店に合わせて開店準備をするようなことはしない。その為、こんな時間でも平然とグラスを磨いているのがいつもの光景だった。しかも多くは昨夜の洗い物だ。どうせ早い時間は客も少ない。出す物はほぼアルコールだけ。何かやることがあったくらいの方が格好もつく。マスターはそう思っていた。

 特に最近は注文もせずに店を利用する若者も増えてきた。反政府組織の情報交換の場として使用されているとしても、昔はビールの一杯も注文するのが常識だった。昔のアルギスの時代を知っているマスターは、よくそのことをロザリスに話し、今夜のような早い時間に愚痴をこぼした。

 ロザリスもまた、遅い時間に顔を見せることは無かった。ロザリスの場合、単独で最低限の情報を求めに来るだけだ。出来るだけ他人との接触を拒む。たまに誰かと鉢合わせても、一般の客を装った。その為、この店にロザリスが通っていることはマスターしか知らない。少なくともマスターはそう思っていた。もちろん通っていると言っても、月に二、三度、今夜のような早い時間に来るだけだ。

 店の出入り口近くのカウンターの端に座っていつものビールを飲んでいたロザリスに、ショートカクテル用のグラスを磨きながらマスターが話しかけた。

「例のアレ……本当にやるのか?」

 ロングネック瓶のビールをそのまま飲み干し、ロザリスはその瓶をマスターの側に突き出した。それまでのコースターに置く音とは違い、コーティングされた木製カウンターの音は少し高い。

「もう一本くれよマスター……」

「今日は随分とペースが速いな」

 そう応えながら、マスターはカウンターの下から同じ瓶を取り出して栓を抜いた。ロザリスの目の前のコースターに置きながら空になった瓶を下げる。そして続けた。

「最近、話を聞かなくなった……」

 マスターが続ける中、ロザリスは早速新しい瓶に口を着ける。

「近いのか?」

「どうなのかな……」

 ロザリスが静かに続けた。

「俺も最近聞いてないんだ……近い証拠なのかな……」

「なんだか近頃は、あちこちキナ臭いようだ……戦争のほうが早いかもしれんぞ」

「……そうかも、しれないな……」

「今日もあちこちでデモ騒ぎだ。この間みたいなことにならなきゃいいが……また誰かがけしかけたのか?」

「俺のところじゃないぜ」

「そうか……俺も——今更かもしれんが、人が死ぬのが好きな訳じゃない……」

 マスターの脳裏を、昼に顔を出したガス・シャビルの横顔が過ぎる……ウラサスに助け舟を出してしまったが……。

「どうしたんだよマスター。何かあったのか?」

「お前こそ何があった? いつもよりだいぶ飲んでるじゃないか」

 ロザリスは小さく溜め息をついた。

 そして口を開く。

「人が死ぬのは……嫌なもんだよマスター……」

 マスターは何も応えなかった。今夜……と言っていたガスが今頃どうなっているのか、もちろんマスターは知らない。

「……人を殺すのは……もっと嫌なもんだ……」

 また……“活動”か……。

「……必ず……飲みたくなるんだ……何だろうな……戦争で人を殺すのとは違うんだ……国が許可した殺人には正義を信じられるのに、自分が正しいと思った思想なのに……どうして……」

 ロザリスはビールの瓶を口に運ぶ。

 マスターが応えた。

「飲みな……金のことなんか気にするな」

 今夜のロザリスのような若者を、マスターは何人も見てきた。それに哲学でどうこうと言うつもりはもちろん無い。そういうものでは無いからだ。マスターに人を殺した経験は無かったが、それが言葉で言い表せないものであることは、マスターにも経験からか、なんとなくではあるが分かった。それを実体験として経験している人間を何人も見てきたせいもあるのだろうか。

 そしてマスターは、決して余計なことを聞いてくるような話好きではない。だからこそ多くの組織に信頼されてきたとも言える。ロザリスとガスの関係など、当然知らなかった。知ってしまったとしても、もちろん深入りはしなかっただろう。裏の世界に関わる人間としては大事なことだ。そして不思議と、二人がこの店で出会うことは無かった。

 ロザリスのすぐ背後で、店のドアが開いた——。

 しかし今夜のロザリスは身構えもしない……。

 荒い息づかい……マスターが声を掛けるよりも早く、男がカウンターの——ロザリスのすぐ横に手を付いた。

 マスターはそれに驚きながらも、少し慌てたように男に声を掛ける。

「ウラサスじゃないか。どうしたんだ、そんなに……」

 ロザリスがゆっくりと横を向くと、そこには息を切らしたウラサスが立っていた。

 ウラサスとガスが繋がっていることはマスターも知っている。だからウラサスに頼まれるままに、ガスの居所を教えた……そのマスターが続けた。

「何かあったのか?」

 さすがのマスターも不安気な声でそう質問するが、ウラサスはロザリスに向かって言った。

「遅くなってすまなかったなロザリス……」

「また、何か……情報持ってきたのか?」

 そう言ったロザリスがだいぶ飲んでいることはウラサスにも分かった。

 マスターはこの二人が繋がっていることは知らなかった。

 しかし当然のように口は挟まない。

 ウラサスは、ゆっくりと口を開いた。

「……ガス・シャビルが…………」

 マスターの、グラスを拭く手が止まる。

「……死んだよ……」

 一瞬遅れて、マスターは再びグラスを拭き始める。

 例えどんなことであっても、マスターにとっては全てが通り過ぎていくだけ……。

 ウラサスが続ける。

「今夜……ここに連れてくるつもりだった……」

 ロザリスが立ち上がった。足元が危うい——。

 少し下を向いたままウラサスと向い合い、ロザリスは自分の左手をウラサスの左肩にかけ、まるで倒れまいとバランスを取るかのようだ。

 そして、まるで呟くように……。

「……ガス・シャビルに……伝えてくれないか……アンタの家族を殺した男……バリウス・アコブ……俺が今夜……仇を取っておいたって……」

 カウンターの奥で、グラスの割れる音がした…………。

 ウラサスとロザリスの耳には、なぜかその音は聞こえない…………。



 翌日、アルフェラツ、アルゲニブ、アルクシャー、ミザルの四カ国同盟をマースが正式に支援することを表明——時を同じくしてジェミニがミザルからの難民を受け入れ、ジェミニと同じく中立を表明していた隣国のウラナスが、ジェミニと共にマースとの軍事同盟を締結。

 世界情勢の緊張がピークに達する中、その翌日、ネプチューンとの軍事同盟を表明していた八カ国同盟が、国境を接するジェミニとサターンに空爆及び地上進行を開始。

 海を挟んだ大陸——マースが参戦を表明——地上、海上共に戦闘が始まる。

 こうして、二つの大陸から始まる第二の世界戦争が始まる——。

 地球暦三六二九年八月——。

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