第28話 暴論もときによって正論になり得る……かもしれない。

「……ひどく自信満々だね。」


精霊さんは真面目な顔になって、うっすら笑いながら言う。


「そりゃ、これのためにずっと待ってましたもの。」


俺は精霊さんから目をそらし、もう勝負は終わったと言う感じにカードを弄びながら告げる。


これはさっきも言ったとおり心理戦。


初対面の相手の大切なものを、その行動や言葉の節々から推察する高度なゲーム。


バカな俺には向かないゲームだが、バカだからこそ一点を見続けるのは得意なんだよ。


「ほう。では聞かせてもらおうか、君の思う僕の大切なもの。」


精霊さんは確固たる自信があるのか、全く焦りもせずに言う。




「人間」




俺も自信満々に言葉を放つ。


「「へ?」」


三度、二人から疑問符が投げられる。


まぁそれもそうだよな、コイツの言動的に人間が好きというよりは、あんまり好んでない感じだもんな。


「人間。もしくは人類。もしくは人々。あるいはホモ・サピエンス。」


俺は人間を色んな言葉で言い換えながら、精霊さんを見つめる。


彼の整った中性的な顔が、若干こわばるのを俺は見逃さなかった。


やっぱ、そうだよな。


「な、なんでかな?」


精霊さんは普通の態度を装って、俺に尋ねる。


「そりゃあ、普通に感覚的に?」


「ハハッ、そんな、感覚でなんて……」


俺が首を傾げて答えると、彼は苦い笑いを浮かべた。


「だって考えてみろ。お前の存在意義は青の神剣を守ること。そして、神剣を取ったやつに仕えること。違うか?」


青の神剣を守るのはもちろんのこと。

もしも剣を誰かが取ったのならば、その取った人を守ることもまだ仕事……のはずだ。


「た、たしかに、そういう側面も……無くはない」


精霊さんが若干うつむきながら頷く。


「だろ。で、それはどちらも剣を求めそれを使う人間という存在がいて初めて成り立つ。つまり、お前は人間がいるからこそ存在意義があるわけだ。だから、存在意義そのものである人間を嫌うわけないってこと。」


どうだこの理論。

お世辞にも筋が通ってるとは言い難い、とても酷い論だ。


しかし、人間なんてそんなもんだ。全部の行動に一過して筋があって、何が譲れないものがあるのは物語の主人公ぐらいだもの。


「ハハハ、暴論だ」


精霊さんは一周回って楽しくなったのか、頭を抑えて笑い始めた。


「まぁな。ほとんどこじつけみたいなもんだ。あとはまぁ、お前なんか人のこと好きそうじゃん。なんだかんだ行って、最後には助けてくれそうだし。そういうポジションのキャラだろ?」


あれだよ、途中で戦うけど最終的には仲良くなるタイプ。よくいるじゃんそういうキャラ。


「もうこっちから言うことはないよ。僕はこの青の神剣を守る守護者で、君に敗北した。だから、この剣も僕自身も君の好きなように。煮るなり焼くなりどうとでもどうぞ。」


精霊さんは両腕を掲げて降参を示しながら、微笑んだ。


「ありがとさん、まぁ煮るも焼くもしねぇけどな、マズそうだし。」


「ハハハ、それもそうだね」


俺は精霊さんと笑い合った。


一時はどうなるかと思ったが、なんとか穏便に済ませられそうだ。

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