第26話 大切なもの

「よしっ、できた」


俺は渡された紙に大切なものを3つ書いて伏せる。


「僕もできたよ。あぁ、ワクワクするな。本当に久しぶりだからね。それに、君は何か今までの人たちとは違うような気がするし。」


「そりゃどうも。」


頬を色付かせる精霊さんを軽くいなして、俺はもう一度紙を確認する。


うん、完璧だ。これはまごうことなくトップスリー。


「じゃあ始めよう。さいしょはぐー」


そんな精霊さんの掛け声に合わせ、


「「ジャンケンポンッ!!!!」」


俺たちは拳を出し合った。


俺がチョキで、精霊さんがパー。


「俺の勝ち!! なんで負けたか明日までに考えといてください!!! ほな、いただきますわ!」


俺は出された手を見た瞬間に全力で煽り散らかし、精霊さんのカードの真ん中をぶち抜く。


へっへー、取ってやったぜ!!


俺はそこまで性格が悪い方ではないと、自負している。しかし、この戦いは心理戦。こういう細かいイライラが、最終的に大きなミスにつながるのだ。チリツモってやつ。


「僕の大事なものはなんだと思う?」


澄ました顔で精霊さんが言う。

なので、俺もずっと前から予想していた答えを言う。


「ち○こ」


「「へ?」」


俺の答えが響き渡り、その後二人の疑問符が空を飛ぶ。


ほぇ? 俺、なんか変なこと言った?


「ち○こ。お前見た感じ男だろ? だから、やっぱ大切なものといえばち○こ。」


そりゃぁねぇ、男だもん。ついてなきゃおかしいし、ついてるのならばそれが大事に決まってる。


だって男の子だもん。


そして、ち○こと書いたのならば、真ん中に置くに決まってる。そりゃそうだ、アレは真ん中にあるからこそ意味があるんだ。


だって男の子だもん。


「ふ、不正解だよ……。僕は君が色んな意味で恐ろしいよ……。」


精霊さんは呆れるとともに、頬をほんのり赤く染めてつぶやく。


いや、真っ当な答えな気がする。


「ち○こ大事じゃねぇのかよ。これ、当たんなかったら答え見せてくれんの? それとも、このまま続行?」


「答えは教えるよ。僕の大切なものの1つ目は、青の神剣さ。」


納得できずにカードを見せろと言う俺に、精霊さんは頷いてペラっとカードを裏返す。


「なーるほど。で、ヒント言えば良いんだっけ?」


確かに、精霊さんは神剣を守る精霊だもの、青の神剣が大切なのは納得できる。


下の剣の方も大切だとは思うが。


「そ、そうだよ。あと、精霊にそんな低俗なものはついてません。」


玉無しか。いや、棒もないのか。


そんなことを思い浮かぶが、流石にこれを言うとガチギレされそうなので心のなかにとどめておいた。


「ヒントはズバリ、おっぱい。」


俺は精霊さんにヒントを言う。

俺の大切なものといえば、そりゃもちろんおっぱい。あとは理性も欠かせない。


「ど、ドストレードだね。分かったよ。じゃあ僕のターンだ。」


精霊さんはまたまた呆れた顔になって、俺のカードに手を伸ばす。


「キャッ、精霊さんのエッチ!!」


これ、一回言ってみたかったんよ。

けど男が言ってもキモいだけだな、やめとこう。


「これ。そして、君の大切なものは、大きなおっぱい。どうだい?」


精霊さんは俺のささやかな反抗を気にもせず、俺から見て一番右のカードを引いてニヤリと笑う。


「ハイ、ブッブー。正解は、『夏の暑い日に、普段無防備な格好をしている船長が、暑さでさらに無防備になって出てくるが、少し経ったところで恥ずかしくなってきて、けど今更着替えることもできずに、ただ普段どおりを装って頬を赤らめているときの、おっぱい。』」


俺はすぐさま答えを言って、カードを裏返す。


裏返されたカードにはびっしりと俺の書いた文言が並んでいる。さっき行ったのと一言も、句読点の位置も違わずに。


そりゃそうよ、だって大切だもん。


守りたい、あの恥ずかしそうな顔。

守りたい、あのおっぱい。


おっぱい、いっぱい。


「「…………」」


俺が船長のおっぱいに思いを馳せている間、精霊さんとノースがなんとも言えない目でこちらを見てくる。


精霊さんはまだ分かるがノースは味方なんだから、当てられなかったことを少しは喜んでもいいのでは?


「君、それ本当に大切?」


ジトーッとした目をした精霊さんが、疑った様子で俺を見る。


「そりゃ、もちのろんろん。諸事情により普段はガン見はできないが、このレアシーンに鉢合わせれば、息子が爆発することもやむなしにガン見するくらいには。」


初めて出会ったときには、こんなに美しき姿があるのかともはや感動したよね。


あのなんとも言えない羞恥の顔と、モジモジした様子。そしておっぱい。


控えめに言って、最高かよ。


「いや…………僕のヒントは、世界だよ。」


精霊さんは何かを言いかけてやめ、素直にヒントを言う。


世界……ねぇ。まぁた広いの来たなこれ。


俺は頭の回転を速め、目の前のカードを見つめた。

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