第9話 夢オチとギャグと

『うわぁ、柔らかなおっぱいがいっぱーい。ここが噂のおっぱいパラダイスかぁ。』


俺は妙にふわふわとした感覚の中で、欲望だだ漏れのバカみたいな声でつぶやいた。

言ってる内容といい声といい、傍から見たらただの変態だが、これは仕方ない。


だって、俺の周りには爆乳の美女たちが立っているんだもの。

この状態で喜ばずして、奇声を上げずして、その感触を想像せずして、なぜに男と言えよう。


『ど・れ・に・し・よ・う・か・な・?』


俺は、ここが公の場だったら逮捕されることもはばからないような、天才的とも言える変態ボイスを披露しながら周囲のおっぱいたちを指差して回る。


男の理想を詰め込んだようにバカデカいものから、現実でも気にありえるぐらいのデカさのもの、一般女性の平均的なサイズのもの、手に収まるくらいの小ぶりなものまで。


全ての男の性癖をカバーするように、大小様々な大きさのおっぱいが存在していた。


俺は言わずもがな一番デカいやつに目が行ってしまう。


『うぉぉぉ、でっけぇ、やっべぇ、すっげぇー!!!』


普段なら声に出さないような〜べぇ構文も、この世界なら躊躇なく言えることができる。


『揉むぞ……』


俺は女の人に確認するように、また自分に言い聞かせるようにつぶやいて、その夢の詰まった宝箱おっぱいへと手を伸ばした。


ついにやっとこの時が。俺の両手がその柔らかさを感じられる日が来るなんて。


今までずっとずっとずっと我慢していた己の欲望を、ついに今ここでこの爆乳相手にぶちまけるのだ……!!


俺は性的なものとはまた別の興奮を感じながら、


『失礼します』


礼儀は忘れずにそう呟いて、へと手を伸ばした。


俺の手とおっぱいの距離はゼロに収束していき、やがて特異点シンギュラリティを超えて、マイナスの境地へと至ろうとしていた。


くるくるくるくる……!!!

行く往く逝くイク……!!!


俺の手がその希望に触れようかと言うところで、不意に。


「もう朝だぞぉ!! はよ起きんかーい!!!」


そんな聞き慣れた声がした。


こ、これは何だ……?


俺の脳がその問いを解決するべく急速に回転したと同時に、


Ahoy!!アホーイ


そんなもう何千回と聞いた挨拶と共に俺の背中に激痛が走る。


「いってぇ!! てめ、なにすんだゴリャアァ!!!?」


俺がとっさに背中押さえて飛び起きるとそこには。


「よーそろ!! 船長美少女に起こされる朝はどうかな?」


もはや見慣れたおっぱい……じゃなくて船長がいたずらぽい表情で微笑んでいた。


このおっぱい確かに船長の……ってことはあれは夢!?

俺は夢にまで見るほど、おっぱいに恋していたのか。


「船長、ありがとうございます。」


俺は未だに痛む背中を押さえながら、船長に頭を下げる。

あのままあの情欲の果実を手にしていたら、俺はもう現実に戻って来る事ができなかったかもしれない。


「おぅよ! 今日と明日は休船日だから自由にしてもいいんだぞ! まぁ、明日は一日付き合ったもらうがな!」


船長は爽やかな笑顔とともにサムズアップして、俺に予定を告げる。


「船長は何するんですか?」


俺は立ち上がって背伸びをしながら、なぜあんな夢を見たのだろうかと思う。

何か昨日寝る前、欲望丸出しの思考をしていたような気がしなくもないが、まあそれは関係ないだろう。


「食料とか備品とかの買い出しは他の奴らに任せてるから、船長は適当に街でもぶらつくかな。この街にちゃんと寄ったのも初めてだし。」


船長は普通の女の子のように、上の方を見て指を折りながら予定を確認する。

普通の女の子のようにってか、船長も普通の女の子だろう。


ただちょっと親が名の知れた海賊で、ただちょっと海の上で育って、ただちょっとおっぱいが大きいだけの女の子だ。


19歳が果たして女のなのかということは言わないであげてくれ、最近同世代が結婚しだすのを見て少し焦っているんだから。


「なるほど。お洋服も一緒に買いに行かなきゃですもんね。」


「ん? あぁ、うん、まぁそうだな。」


俺の言葉に、 船長は一瞬首を傾げた後、理解したようなしてないような感じに顔を戻して、にっこりと笑った。こいつ、酔っ払っていて記憶ねぇな。


「飯食いに行きますか。」


俺はこの人はどうしようもないなと軽く笑って、そんな提案をする。


逆に記憶がないということは、ちゃんとした服を着せるようにして拒否されたあの記憶もないということ。今日こそは、体のラインが隠れるような、しっかりと健全なお洋服を船長に着せるのだ。


「船長野菜食いたい。海の上じゃ野菜なんて食えねぇからな。ビタミンCは大事だぞ? 壊血病解決に大事、なぁんつってなぁ!」


船長はベッドの上から飛び降りて、シュッタっとポーズを決めながらおぴゃじギャグを繰り出す。


華麗加齢なギャグですね。」


俺も朝にしては高すぎるそのテンションに合わせて、洒落を混ぜたいきな返しをする。


「君もなかなかに腕を上げたね。」


「長い付き合いですから。」


俺たちは笑い合いながら拳を合わせて、部屋を出た。


今日も、スペース海賊団は平和である。

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