第7話 水氷両用のオンボロ船……?

「うちの船って、氷いけんすか?」


俺は酒も呑んでそこそこ酔っ払ってきたところで、ふと疑問に思ったことを聞く。


他の海賊たちが冬は北に行かないのは、氷が張って船が進めないから。


他の皆さんが行けないのに、うちらのあのオンボ……伝統的な船に行けるとは思えない。


「オンボロ船は無理ちょん。だぁかぁらぁ、今回あの船ゲットしたんじゃぁん。」


船長は枝豆を一気に押し出すという、器用なことをしながら言う。


俺が配慮して言わなかったのに、この船長。


うちの船はデカいし速いし強いが、船長の親父さんの代からの譲りもんに動力源をつけただけなので、物自体はオンボロだ。


まだ全然使えるけど、少し年季が入ってるだけ。

あとは、男どもが百何人暮らしてるから汚いってのもある。


アイツラ、言わねぇと掃除もしないから。


「あの船なら行けるんすか?」


俺は自分の酒をクイッと煽って聞く。

確かに新しい船だったけど、水氷両用なんてそんな便利機能見た感じ付いてる気はしなかったけど。


「あぁ、知らない? あの船、浮けるんだわ。」


船長は右手をカウンターのテーブルから2,3センチ話したところで並行にして、浮く船のマネをしながら言う。


「へぇ?」


船が浮くって、それはどこのファンタジーのお話で?

この世界、魔法とか使えないはずだけど。

それは宗教家の方々のお仕事じゃ?


「あのバカたちも知らないだろうけど、空飛べんの。アイツラ、変なとこで予算ケチってゴチャゴチャに作らせたんだけど、それが変にうまく行って飛べるらしい。」


偶然ってすごいよねーと船長は軽く笑いながら、ジョッキを煽って、更にワインを瓶で頼む。


もう山のように瓶が積んでありますけど、まだ飲むんですか。すごいですね。


俺はようやく3杯目ですけど。


「なぜそれを船長が?」


作った本人ですら知らないようなことを、何故に船長が知ってるのかが気になる。


確かに船長、人望はあるけど、人脈もあったのか……。


「そりゃぁもう、人徳よぉ!」


船長はドンと自らの胸を叩いて言う。

その勢いに押されて、ボイン。胸が浮く。


安定のジャンピングおっぱい。

もはや見慣れたジャンピングおっぱい。

うちの団の風物詩ジャンピングおっぱい。

母親のおっぱいより見慣れたジャンピングおっぱい。


今日も良い跳ねっぷりだこと。


「はぁ。まあ分かりました。北ですね。」


俺は胸がデカいということしかわからない船長の返しを受け流して、地図に目を落とす。


青の神剣がどこにあるかは分からんが、できることなら陸の上であることを望む。


冬の北に行くから船長も厚着をするので、多少緩和されるとはいえ。


いつものことだが、海の上は辛いから。

抜けないから、ナニもできないから。

息子に育児放棄で訴えられちゃうから。


「そうそう。今回は君の出番多めかもだから、ちょっとばかし負担かけるぜ元帥げんすいくん♪」


船長はワイングラスを持った手で肩を組み、酔っ払って赤くなった頬を俺に寄せてくる。


整ったお顔が近くに来るとともに、女性特有の甘い香りがしてムラっとくるが……遅れてやってくる酒臭さに打ち消される。


船長、呑むのは良いから過度なスキンシップはやめてほしい。


まだ19歳のピッチピチなんだから、自分の体をもっと大事にしてもらって。俺が悪い人だったら、今頃船長は終わっている。


というか、海に出ちゃえばナニやっててもバレない船で、自分以外男の状況でよくあんな無防備に昼寝できるよな。


へそと下乳見えが顔を覗かせていて、あの日だけで交換日記が一冊消耗されたのは記憶に新しい。


スケッチ始める猛者までいて、あれは永久保存版だったわ。


「よーそろよーそろ、船長せんちょうさん。」


俺は己の欲望をなんとか理性と酒臭さで抑え込み。細心の注意をはらいながら、船長の肩に手を回して肩を組み返す。


ふにっと柔らかい触感が伝わってくるが、こればかりは役得だろう。この数ヶ月、マイソードを磨かずにいた俺へのご褒美として許してほしい。


「わかればよーし。ほらぁ、呑め呑めぇ」


船長はニパァっと満面の笑みを浮かべて、回した手越しに酒を飲ませてくる。


この人は間接キスとか気にせんのかな。

俺はそう思いながら、ワインを口に含む。


ほんのりと広がるぶどうの風味に、甘さとアルコールの味。うん、うまい。


「…………船長、真面目にその服やめません?一緒に服買いに行きません?」


俺は酔っている今がチャンスと、もう何十回目になるお願いを申し上げる。


ただでさえ凶暴なパイオツをお持ちなのに、その上で胸が強調される服を着るのはやめてほしい。


せめて、せめて厚手の上着を着て、その起伏を隠してほしい。


「変えません。けど、服は買いに行ってもいいぞ。」 


俺の真摯なお願いを船長はキッパリと断って、笑いながら後半は了承してくれる。


「…………わかりました、明日にでも行きましょう。」


変えてくれないのかとガッカリしつつも、服を買わせて他の選択肢を持たせることでなんとか改善しようと、俺はうなづく。


俺は……俺たち団員はめげないぞ……!!


船長が、お胸の大砲おっぱいを隠す、その日まで!!!!


「やったぁ〜!! デートじゃ〜ん!!!」


「ほら、お酒こぼしてますって。もう、帰りましょ。」


「残念でした〜宿取ってません〜!! 帰れません〜! 私は酒場に住みます〜!」


「はいはい、じゃあ取りましょうね。大将、勘定お願いします。」


「酒だぁっ!! さーけもってこーーいっ!!」


そんな俺達の騒がしいやり取りを見て、大将は一言。


「兄ちゃん、あんたも苦労すんな。」


同情するような目で言いましたとさ。


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