第7話 僕たちの1年後。

 

 アトラス教に入信して1年が経った。

 僕たちはこの1年で、ピスパニア市国での生活基盤を整えた。それも僕とムタ君がお互いに助け合うことによって、だ。


「ムタくん、お願いします」


「いや、俺のほうこそッス。いつも世話になってるんで」


 そもそも、この行為は男性にとってご褒美と言える。

 僕は1年前のあの日から、毎日は必要ないけれど、3日に一度はとある物を補給しなければいけない体になったのだ。

 そのある物とは、所謂、男性の息子から飛び出る彼らである。

 一番エネルギー効率がいいのはヤること。

 でもそれは、僕にとってもムタくんにとっても良い結果は残さない。できることなら、僕に好意を持っているムタくんは避けたかった。

 仕方ない。

 ほかに適任がいなかったのだ。そもそも、僕の知り合いはムタくんしかいない。今となってはたくさんの知り合いがいるにはいるけれど、こんなことを頼めるのは、僕のことを知っているムタくんだけ。

 もしくは、ゼルさん。

 ゼルさんは仕事が忙しい。その立場上。だから、どうしてもできないタイミングというものが出てくる。今は出張でこの国にいないというのもあるし、そういった点からもムタくんしかいないのだ。


 僕はあの日、サキュバスになった。

 要は、淫靡な生き物になってしまったのである。


 ごくん、とそれを飲み下す。

 これで3日は大丈夫だ。生きていける。

 これがないと、サキュバスは生きて行くことができない。


「ありがとう」


「全然いッスよ!」


 僕たちは一つの家を貸し与えられている。今はそこで住んでいて、エネルギー補給の部屋、寝室二つ、リビング一つ、という振り分けだ。

 僕たちは補給部屋から出てリビングに行く。

 これから朝食を食べて、その後仕事があるのだ。


「仕事は最近どんな感じなの?」


 僕が問いかけると、ムタくんはコンビニから取ってきた6枚切りトーストの一切れの最後の一口を飲み込む。


「2号店がオープンできそうッスね。やっとッスよ……。計画は順調ッス」


「1号店を開いてから、もう8ヶ月だもんね。外国に店舗を出す計画まで、あと少しかぁ」


 コンビニにある品物は、24時を過ぎるとリセットされる。

 あの日、ムタくんはどうやら身体特性として『オーナー』というものを手に入れ、アトラスは『輪廻の輪』を手にしたのだ。

 ちなみに、僕たちは口を開くという合図でワルツが作動するようにしている。


「世界中に店舗作れば、0号店から行き放題ッスもんね! 何年かかるかわかんないスけど、今から楽しみッス」


「うん。……そろそろ時間だね」


「はいッス」


 僕は家を出て、軽自動車に乗り込んだ。


 現在ピスパニア市国は戦争中である。もう2年も続いている。その相手は、違う宗教国家だ。

 宗教の対立戦争はとんでもない被害をもたらすけれど、ピスパニア市国に住まわせてもらっていて、アトラスを得てしまった以上、滅ぼされては困るのだ。

 ゼルさんもその戦争に出払っている。

 そして、僕は今日も後方支援任務をして、物資を戦場に届ける。

 この生活が半年も続いているから慣れたものだ。


「行ってきます」


 軽自動車を発車させ、唯一の門に向かった。


 そして僕の密かな計画、ムタくんにもゼルさんにも、誰にも言っていない計画も、現在進行中であることを忘れてはならない。

 計画名は、『国民の性奴隷計画』だ。

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