E0ー騎士には分からないー

それは、寒い…

寒い日のことだった、雪が降る中…私は荒い息を吐きながら前に進む

行く当てなんてない…どうせもう直に死ぬからだ…

ならなぜ私は歩いている?

それも分からぬままただ歩き続けた




物心ついた時から孤児として生きてきた

親なんていない、ゴミをあさりながら毎日を過ごした

私には夢があった…剣だ、剣の腕さえあれば孤児だろうと関係なく騎士になれる

このくそったれの生活から抜け出すためにも私は寝る間を惜しまずに身体を鍛えた


自身を甘やかすことなんて一度もなかった、ただひたすらに、愚直に鍛え続け

気づけば最年少で騎士団入り、12歳にして騎士となった

それでも鍛錬を怠らずに日々を過ごし、16のころには王宮直属近衛騎士だ

国一番の騎士なんて言われた


だが、上に立つと厄介なことばかりだ

私の腕に目を付けた貴族達が婚姻を申し込んできた

孤児のころ、見向きもしなかったくせに…


だから言ってやった


「豚と結婚なんて死んでもごめんだ」と


その恨みのせいで私は貴族に単独で盗賊団の討伐を命じられ、討伐はできたが

罠の矢に当たって死の間際だ



「とことんついてねーな…私は」


歩きながら呟いた

ここまで目的もなく歩いてきた、けどもう限界だ

どさりと木にもたれかかり、傷口を抑える

溢れる血は積もる雪に流れ、白を赤黒く変色させる


「死ぬのか…私は…こんな所で…」


体が寒い、空を見上げても灰色で…明るい色なんてない

私の人生と同じ色だ


剣に生きて、剣のみを信じて生きてきた

その結果が一人で死ぬことか…



寒いな………………




目が閉じかけてきたころ

雪を踏む音が聞こえ、ゆっくりと目を開ける



「だ、大丈夫…?」


少女だった、暖かそうな服を着た子供…

その綺麗な身なりからしてどこかの貴族の子供だろう

心配そうにこちらを見つめている


「どっかいきな…クソガキ、見せもんじゃねーよ」


我ながら汚い言葉だ、だが人の死ぬ所なんて子供に見せてられない

脅せば何処かへいくだろう


案の定、彼女はそそくさと逃げて行った


これでいいんだ…

寒くなってきた、眠ろう…もう、終わりだ




















ふと、自身の意識がまだあることに驚いた

それに、何故か身体が暖かい



目を開けると信じられない光景が広がっていた

あの少女は自分の暖かそうな服をかぶせ、私に抱きついて震えながら暖めてくれていたのだ


「おい…ガキ…なんのまね…」



震えた子供はもうすでに寒さで意識が飛びそうであった

なんで、私なんかのために…


「ちっ…」


私は力を振り絞り、立ち上がる

少女を抱き上げて寝ないように揺らす


「おい!お前の家はどっちだ!」


「………………!!」



少女が震える指で指し示した方向に向かって走る

傷が痛い…けど少女が与えてくれた暖かさで何とか耐える事ができた


暫くして大きな屋敷を見つけた

扉を叩いて、誰かが出てきた瞬間に

私は意識を失った










気がつくとベッドで傷を治療されて寝ていた

ここはスカーレット伯爵家の別荘の一つらしく、たまたま家族旅行しに来ていたようで


傷口が塞がるまでの間、好きに休むといいと言われたが…





「ねぇねぇ!!貴方!名前はなんて言うの!?」


キラキラした瞳で問いかける少女に落ち着けやしない


「名乗るのはお前が先だろ…ガキ」


「ガキじゃないよ!私はルナっていうの!!」


「あっそ…私はマリアンヌ………………あっち行ってな…」


「いかない!ねぇ、マリアンヌ!絵本を読んであげようか?」


「は?いらねぇよ」


少女はどれだけ冷たくしようが毎日、毎日私と話をしに来た

こんな口汚い奴と話していて何がたのしいのやら…


けど、少しずつ私達は言葉を交わすようになっていった




「マリアンヌ!傷はもう治ってきたの?」


「あぁ、もう少しでうるさいクソガキともおさらばできるな」


「もう!私はルナ!!ちゃんと呼んで!」


「承知しました、クソガキ様」


「もーーー!!」


「はは…」



いつしか私は昼に訪れる少女が来るのを楽しみにするようになっていた

こんな気持ちは初めてで、楽しかった







けど、それは突然終わりを告げた


「がぁぁぁぁぁ!!!ぐぅぅう!!」


私は身体中を突き刺すような痛みに悶えて苦しむ

盗賊の罠に塗られていた遅効性の毒のせいであった、スカーレット伯爵が馬を走らせて医者を呼びに行ったが外は猛吹雪で戻るのには時間がかかるだろう


苦しみ、嘔吐しながら…私は苦笑した

やっぱりついてねぇ…私は幸せになれないのか?神様よ

息も絶え絶えな時に、彼女はずっと私の手を握っていた…


「あっち行けよ………クソガキ…」


「嫌!ルナはずっと一緒にいる!」


なんで、なんで私なんかに…


「なぁ…私なんか…ほっといたら…グッ…いいじゃねぇか…あの時も、今も!」


「だって、だってマリアンヌは泣いていたから」


「!!」


「寂しいって!一人は嫌だって…あの雪の中、泣いていたから…だからルナがずっと一緒にいるから…一人にしない!」


「んだよ………………それ…」


私は剣に生きてきた

力だけが全てで、目の前の障害は押しのけて進んできた

けど、こんなあったかい…優しい感情は…初めてだ………………



その日、医者が来るまでの間…彼女は寝ずに私の手を握ってくれていた

私は一命をとりとめた




安心して寝てしまった彼女を揺らして起こす





「おい、おい、おきろよ……#ルナ__・__#、風邪ひくぞ」


彼女は目を開けると満面の笑みで抱き着いてきた


「マリアンヌ!!」



私は、彼女のために生きよう

この命を彼女に救ってもらった…私はそう誓った








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれから8年

ルナ様は17歳になられた、私は24歳だ


顔に傷の残る彼女は今日も笑っている

私はルナ様の髪をクシでとかしながら、今日の予定を話していた


「ねぇ、マリアンヌ!たまには昔みたいに話してほしいな」


「あ、あの時のことは忘れてください…思い出しても恥ずかしい…作法も知らなかったのですから」


「えぇーーあの時のマリアンヌはかっこよかったよ、今もだけど!」


「忘れてください!」



二人の時だけは、昔話に花を咲かせる

私にとって主であり、妹のようなルナ様

彼女も姉のように慕ってくれている



私はこれで充分だ


剣しか知らぬ私に、生きる希望を…守る主となってくださった

私にはそれで充分だった

ルナ様が幸せなら…それだけで




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





そして6年の月日が経った


ルナ様は23歳となり、私は30歳

ルナ様の子供、オスカー様との息子のウィリアム王子は5歳となっていた





私は騎士となり、再び剣の道へ

それしか知らないから

ルナ様が幸せだったからそれで良かった




だから




だから









私を見つめる青年は中性的な顔つきで

歳は8も下だ

目元まで伸びた髪のせいで余計に中性的に見える…子供らしさを残した青年

そんな彼は顔を真っ赤にしながらこう言った


「マリアンヌさん!僕と結婚してください!!」



真っ直ぐに見つめられ、言われた言葉


私は剣しか知らない


だからこそ、この胸の高鳴りの正体が



一体なんなのか…分からない



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