第19話 第7話

父の死から2ヶ月。

僕らはようやく真実を掴んだ。


僕は知ることになる。父の死へと続く道は、3年も前から始まっていたのだと言う事をーー。


恵の友人である警察官から聞いたあの灰皿の真実は、3年前の「清水奏太(そうた)」殺害事件で使用されたものなのだと言う。

その証拠を掴んでしまったために、父は殺されたのだ。



回想。


ハァハァハァ。

男の荒い息づかいが聞こえる。


ーー何かあったのだろうか?


トントントン。

隣人の部屋をノックするが誰も出てこない。


時計の針は真夜中の一時半を示している。

ここの住人は眠っているのだろう、と思って健吾はその部屋を後にして、自宅に帰ろうとした。その時。

「た、、助けてくれー」

悲鳴の様な声が近所に響き渡る。

ただならぬ気配を感じ、僕は右隣の隣人の部屋をノックする。

「ーー中野さん中野さん」

こんな時は一人で過ごすと危ない。


彼は起きていたらしくすぐにドアを開けて、健吾を迎え入れる。

中野さんは、玄関に鍵をかけてから急いで電話をした。

相手は警察だ。


「もしもし、事故ですか?事件ですか?」

「事件だと思います。左隣の住人の家から悲鳴の様な物音が聞こえてきたのでーー」

「場所はどこですか?」

彼は住所と名前を名乗り、電話を切った。


5分もすると、ガラス越しにパトランプが回っているのが見える。

パトカーだ。


健吾と中野が住んでいるボロアパートは、四部屋しかない。ここに住んでいる住人は三人。

そのうちの一人が悲鳴のような声をあげている。

警察官が一件ずつノックして回る。

健吾の家には誰もいない。なぜなら健吾は今中野と一緒にいるのだから。

中野宅のインターフォンが鳴った。


「こんばんは」

警察官は名前を名乗り、警察手帳を見せる。

二人組だ。

一人はひょろりとした細い男だ。もう一人はがっしりとして目付きの悪いーーいかにも、という印象を受ける人だった。


彼らは玄関を閉めず、そのまま事情を聞き始める。


「悲鳴のような声が聞こえた部屋はどこですか?」

中野と共に指を指したのは、一番奥の部屋だ。

真ん中が健吾の部屋。手前が中野の部屋になっている。

「ーーそこの住人の名前は?」

「高橋さんです」

「いくつくらいの方ですか?」

「45と言ってましたね」

「ありがとうございます」


彼らは軽く事情を聞き、一番奥の部屋に向かって行く。

玄関のドアを開ける。


室内に入ると窓ガラスが開き、白いカーテンが揺れていた。

警官が中に入っていく。


「あなた方はこちらで待機していてください」


まるで廊下に立たされている子供の様な気持ちになるが、二人で立ち尽くして報告を待つ。


玄関先で倒れた男。

被害者は頭から血を流している。

凶器のようなモノはありそうもないな、とその場にいて部屋を見回しながら、健吾は思った。


ふっと後ろに人の気配を感じて、振り替えると、カラスの様に黒い服の男が一人立ち去っていく。

一瞬しか見えなかったが、あの顔には見覚えがあった。

昔からの友人だ。

間違いないだろう。


健吾は彼を庇うため、その姿を見ていない事にしてあげた。


ーーあの時の恩を忘れやがって。


腹の中にそんな思いが込み上げてくる。

彼の部屋にはまだ凶器があるだろう。

健吾はそれを探るため、あの四人の部屋を見て回った。

そしてたどり着いた。

凶器として使われた灰皿の有りかをーー。


「これやるよ」


昔、仲間だったはずの山田太郎が健吾にそう言って、灰皿を手渡した。


「あぁ、サンキュー」

上部だけの返答をして、健吾は言う。

「なぜ、俺にこんなもんを渡そうとしてる?ーーこれ、清水奏太を殺した凶器だろ?」

あぁ。

太郎は頷く。


「見られた以上、今日からお前も共犯だーー」


共犯か。

まーいーだろう。

安易な思いで健吾はそれを受け取った。


「それで?俺が共犯になるメリットはあるんだろうなぁ?」

あぁ。あるぜ。

太郎は頷く。

「この証拠品。お前の好きにしろ!」

「わかった。もしも俺を裏切れば、こいつは警察に流れるーー覚えておけ」

その場で太郎と健吾が約束を交わした。

健吾は指紋をつけないよう、灰皿をハンカチでくるんで、持って帰ることにした。

ーーこれは俺の無罪の証明になるからだ。


家までハンカチでくるんだまま、かえってきてしまったが、証拠となる指紋など消えてしまっていないだろうか?


健吾はそれが心配だった。

宝箱の中にその灰皿を大切に保管する。


大切な証拠品だ。

太郎はなぜ、俺にこれを託したんだろう?


そんな時だった。

恵の友人で、健吾の後輩にあたる人が家に訪れたのはーー。


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